労災でケガをしたときに受け取れる療養給付。 休業補償との違いは?
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京都労働局の統計によると、令和2年に京都府内における休業4日以上の死傷災害は2528件発生しており、前年に比べて139件の増加となりました。
労災(労働災害)によってケガをしたり、病気にかかったりした場合、会社が加入している労災保険から給付を受けとることができます。ケガや病気の治療費などについては、労災保険給付の一種である「療養給付」によって、実費の補償を受けることが可能です。また、給付以外にも、「休業給付」などさまざまな項目がありますので、漏れなく労災保険給付の請求を行うことが大切です。
本コラムでは、労災でケガをした場合などに受け取れる療養給付の概要や、休業給付との違い、さらには労災の被害を受けたときに会社に損害賠償を請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、労災でケガをした場合に受けられる「療養給付」とは?
「労災(労働災害)」とは、業務上の原因や通勤中に、ケガをしたり病気にかかったり、または死亡したりすることを意味します。
労災によってケガをした(または病気にかかった)労働者は、会社が加入している労災保険から「療養給付」(療養給付)を受け取ることができます。
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(1)2種類の療養給付|「療養の給付」と「療養の費用の支給」
療養給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2種類があります。
「療養の給付」とは、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局などにおいて、無料で治療や薬剤の支給などを受けられることを言います。
労災保険指定医療機関は、厚生労働省のホームページなどから検索できます。
「療養の費用の支給」とは、罹災者の自宅や会社などの近所に通院しやすい労災保険指定医療機関などがないために、指定外の医療機関や薬局で療養を受けた場合に、その実費が後日給付されることを言います。 -
(2)「治癒」の後は、療養給付は行われない
労災保険から療養給付が行われるのは、労災によるケガについて「治癒」の診断がなされるまでの期間です。
「治癒」とは、必ずしもケガが完全に治った状態を意味するものではなく、「医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態」を意味します。簡単に言えば、「治療を続けても、これ以上の改善は見込まれない状態」です。
この状態のことを、「症状固定」と呼ぶ場合もあります。
医師によって「治癒」の診断がなされたら、それ以降の治療等は不要なものとして取り扱われるため、療養給付の対象にはなりません。
ただし、脊髄損傷・頭頸部外傷症候群・慢性肝炎などの一部の傷病に関しては、治癒の後にも、労災保険指定医療機関にて無料のリハビリやアフターケアを受けることができます。
2、療養給付と休業給付の違いは?
労働災害の被災者は、療養給付の他にも給付を請求することができます。
以下では、療養給付と休業給付の違いや、その他に請求できる労災保険給付の種類について解説します。
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(1)療養給付は、治療費などを補償する
療養給付は、労災によるケガや病気の治療にかかる実費を補償することを目的として支給されます。
療養給付の対象に含まれる主な費用は、以下のとおりです。- 治療費
- 入院費
- 移送費
- 薬剤費
- 通院交通費
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(2)休業給付は、休業中の賃金を補償する
休業給付は、労災によるケガや病気の療養によって、仕事を休まなければならなかった場合に、休業期間中の賃金を補償することを目的として支給されます。
休業給付が支給されるのは休業4日目からであり、賃金の80%が補償されることになっています。 -
(3)労災保険給付には、他にもさまざまな項目がある
療養給付と休業給付の他にも、労災保険からは、以下のような給付を受け取ることができます。
被災労働者のご状況に合わせて、請求可能なものは漏れなく請求することをおすすめします。- ① 障害給付
労災に起因して生じたケガや病気が完治せず、後遺症が残った場合に、認定される障害等級に応じて支給されます。 - ② 遺族給付
被災労働者が亡くなった場合に、遺族に対して支給されます。 - ③ 葬祭料・葬祭給付
被災労働者が亡くなった場合に、葬儀費用の補償として支給されます。 - ④ 傷病給付
傷病等級第3級以上の重いケガや病気が、1年6カ月以上治らない場合に支給されます。 - ⑤ 介護給付
第1級または第2級の精神・神経障害または腹膜部臓器の障害によって、要介護となった被災労働者に対し、介護費用の補償として支給されます。
各給付の詳細については、厚生労働省のホームページを参照してください。
- ① 障害給付
3、療養給付を請求するための手続き
療養給付は、治療等を受けているのが労災病院や労災保険指定医療機関・薬局であるか、そうでないかによって、請求の方法が異なります。
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(1)療養の給付|労災指定医療機関の窓口で手続きをする
労災病院や労災保険指定医療機関・薬局で治療等を受けた場合、「療養の給付」として取り扱われます。
この場合、受診した医療機関等の窓口で手続きを行えば、会計の際に支払いが不要となります。
療養の給付の申請方法については、医療機関等の窓口にてご確認ください。 -
(2)療養の費用の支給|労働基準監督署に請求書を提出する
労災病院や労災保険指定医療機関・薬局以外で治療等を受けた場合、「療養の費用の支給」として取り扱われます。
この場合、医療機関等の窓口において、いったん費用を支払わなければなりません。
さらに、労災の場合は健康保険の適用対象外なので、治療費等の全額を支払う必要があるのです。
その後、労働基準監督署に対して給付請求書(費用請求書)を提出し、医療機関等に支払った実費の給付を請求しましょう。
請求書の書式は労働基準監督署の窓口でもらえるほか、厚生労働省のホームページからもダウンロードできます。
4、労災が認められずに治療費が自己負担となったらどうする?
労働基準監督署の判断により、労災が認定されなかった場合には、ケガや病気の治療費等は自己負担となってしまいます。
その場合は、治療費等の損害について、会社に対して損害賠償を請求できないかどうかを検討しましょう。
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(1)会社に損害賠償を請求できる可能性がある
ケガや病気が会社の責任で発生した場合には、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
会社に対して損害賠償請求を行うための法的根拠は、主に以下の2通りです。- ① 使用者責任(民法第715条第1項)
会社の従業員のミスなどによって、ケガや病気が発生した場合には、使用者である会社も損害賠償責任を負います。 - ② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるように、必要な配慮を行う義務を負います。ケガや病気が、会社の安全管理の不行き届きに起因して発生した場合には、会社は労働者に対して損害賠償責任を負います。
- ① 使用者責任(民法第715条第1項)
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(2)会社に対する請求は弁護士に相談を
ケガや病気に関して、会社に対して損害賠償を請求する際には、弁護士にご相談ください。
弁護士は、法的知見や労務紛争に関する経験をいかして、損害賠償に関する協議を会社と対等に行うことができます。
会社が支払いを拒否している場合でも、弁護士が法的根拠を提示して、粘り強く説得することによって、適正な金額での和解を引き出せる可能性が高いのです。
また、協議が決裂して労働審判や訴訟に発展した場合にも、弁護士にご依頼いただければ、スムーズに法的手続きへの対応をすすめることができます。
業務中や通勤中のケガや病気に関して、会社に対する損害賠償請求をご検討中の方は、お早めに弁護士にまでご相談ください。
5、まとめ
労災によってケガをしたり、病気にかかったりした場合には、労災保険から支払われる「療養給付」により、治療費等の補塡(ほてん)を受け取ることができます。
また、休業給付をはじめとして、それ以外にも受給可能な労災保険給付が存在するほか、会社に対して損害賠償を請求できるケースもあるのです。
もし労働災害の被害に遭われたら、保険の給付や損害賠償の請求などさまざまな手段を用いながら、労災によるケガや病気の適正な補償を受けましょう。
ベリーベスト法律事務所では、労災に関連するご相談を随時お受けしております。会社に対する損害賠償請求についても、弁護士が親身になってサポートいたします。
京都府にて労働災害の被害に遭われてお悩みの方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスにまでご相談ください。
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