民間ADRとは? 離婚調停との違いとメリット・デメリットを弁護士が解説

2020年04月30日
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民間ADRとは? 離婚調停との違いとメリット・デメリットを弁護士が解説

離婚は今や身近な問題と言えます。司法統計の「家事調停事件の事件別新受件数」によると、平成30年に京都府で「婚姻中の夫婦間の事件」についての申立数は812件ありました。

離婚を考えているけれど、ふたりだけでは冷静に話し合うのが難しそう。だけど、裁判所の調停は敷居が高そうで気が引ける……。そんな時に利用されることが多いのが、民間団体によるADRです。

広義の意味でADRとは、「Alternative Dispute Resolution(代替的紛争解決手続き)」のことです。“裁判の代替手段”として、専門家立会いのもとで話し合いを行い、紛争の解決を目指します。調停は裁判所が関わるADRの一種ですが、弁護士会によるADRのように裁判所が関わらないADRもあります。

裁判や調停と比べると耳慣れない言葉かもしれませんが、民間団体によるADR(民間ADR)ならではのメリットもあります。
今回は、京都オフィスの弁護士が民間ADRの概要やメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。


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1、ADRとはどんな制度?

広義の意味でADRとは「Alternative Dispute Resolution(代替的紛争解決手続き)」。つまり、“裁判の代替手段”として、専門家立会いのもと話し合いをする手続きです。たとえば、調停、あっせん、仲裁などがあります。
平成19年4月1日より施行されている「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(通称ADR法)」では、「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」と定義しています。

このような紛争解決手続きには、民間事業者が行っているものがあり、民間事業者によるADRのことを、「民間ADR」と呼んでいます。法務大臣による認証を受けた「民間ADR」事業者を利用すると、時効中断効などの法的効果を付与されます。これは、民間ADRで話し合いをしているうちに、当事者の持っている権利の消滅時効が完成してしまう(権利が消滅してしまう)ことを防ぐための制度です。
民間ADRを行っている事業者にもさまざまな種類のものがありますが、法務大臣の認証の有無は、信頼できる事業者を選択する際のひとつの目安となるでしょう。

ちなみに、法務大臣による認証を取得している事業者は、具体的に以下のような基準をクリアしているとされています。

  1. ①トラブルの内容に応じた専門家を紛争解決の手続きを進める人(調停人)として選任できるよう、専門的人材を確保しているか
  2. ②当事者のプライバシーや営業秘密などを守るための体制は整っているか
  3. ③当事者と利害関係のある人が調停人とならないような仕組みが備わっているか
  4. ④手続きを利用する前に、手続きの内容や費用など、法務省が定めた事項を説明することとしているか


認証を取得した事業者のリストは法務省の「かいけつサポート(認証紛争解決サービス)」ホームページに公表されていますので、民間ADRの利用を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

2、民間ADR離婚の基本的な流れ

事業者によって若干異なる点もありますが、手続きの大まかな流れは以下のとおりとなります。

  1. ①「申立書」を事業者に提出
  2. ②事業者から相手方へ、調停に応じるかどうかの意思確認
  3. ③相手方が応じる場合は、「調停依頼書」を提出
  4. ④第1回調停日を決定、双方に通知
  5. ⑤当事者双方が同席し、調停人進行のもと1~2時間の話し合いを実施
  6. ⑥当事者が合意して調停成立すれば、「調停合意書」を作成


相手の合意がなくても強制的に巻き込める裁判手続きとは異なり、基本的には“相手の合意があって初めて”成立する手続きだということです。
調停が不成立に終わり、離婚裁判に移行する場合には、「調停不成立証明書」を事業者に発行してもらいます。

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3、調停手続きとの違いは? 民間ADRで離婚を進めるメリット

  1. (1)土日祝日・平日夜間でも対応してもらえる

    民間ADRで離婚手続きをするメリットのひとつは、土日祝日や平日夜間でも対応してもらえることです。
    裁判所の離婚調停の場合、平日昼間しか利用できません。しかも、1回につき2時間以上拘束されることも多いです。そのため仕事をわざわざ休まなければならず、負担が大きくなります。
    仕事で多忙な方にとって、民間ADRの柔軟なスケジュールはかなり助かるのではないでしょうか。

  2. (2)裁判所に比べて、早期解決が期待できる

    民間ADRの全体的な傾向としては、裁判所に比べて早期解決が期待できます。機関によっても異なりますが、3か月程度で決着がつくことも多いようです。
    前述のとおり裁判所の調停は、平日日中のみの対応です。加えて、夏休みや年末年始などには長期休暇があります。基本的に月1回ペースの手続きが、長期休暇を挟むと2か月に1回ペースに延びてしまうこともあります。

    さらに、家庭裁判所は“いつも混んでいる”という問題もあります。さまざまなトラブルを抱えている人がその地域の家庭裁判所に一極集中する傾向にあり、裁判所の職員は常に大量の業務を抱えています。もちろん家庭裁判所としては最大限の努力をしているのでしょうが、得てして待っている側にとっては時間が長く感じられるものです。
    「どうしても待てない」「早く決着をつけたい」という場合は、民間ADRが適しているかもしれません。

4、民間ADRのデメリット

  1. (1)民間ADRを経れば必ず離婚訴訟に移行できるわけではない

    離婚裁判を起こす場合は、まず家庭裁判所で離婚調停をしなければならないというルールがあります。これを、「調停前置主義(家事事件手続法第257条)」と言います。

    例外として、ADR法第27条第一文では、法務大臣認証のADR機関で離婚ADRを経た場合には「家事事件手続法第257条の規定(調停前置主義)は、適用しない」としています。民間ADRが不成立に終わったら、そのまま離婚訴訟に移行できうるということです。

    しかし同条第二文では、「この場合において、受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付することができる」としています。すなわち、民間ADRを経た場合は、離婚調停をしなければ離婚訴訟を起こせないというわけではないが、裁判官(「受訴裁判所」)が専門家の意見を取り入れるなどの手段を採る方が、問題の解決にとって良いと考えた場合は、裁判官自らの判断(「職権」)で調停に移すことができるということです。

    裁判所の調停をする必要がないかどうかは、あくまでも裁判官の判断次第ということですので注意しましょう。

  2. (2)民間ADRの合意書では強制執行できない

    裁判所の離婚調停では、両者が離婚条件について合意すると、その内容が「調停調書」としてまとめられます。
    「調停調書」には確定判決と同じく強制執行により権利を実現できるという効力(執行力)がありますので、相手がもし養育費や慰謝料の支払約束を破った場合には、給与や銀行預金などに強制執行をかけることができます。

    一方、民間ADRの合意書には、このような強制執行できる効力はありません。
    もちろん、合意書を裁判手続きの中で、離婚条件について合意したことの“有力な証拠”として提出することはできます。

  3. (3)相手に与える心理的プレッシャーは弱い

    裁判所に比べると、民間のADRはどうしても相手に与える心理的プレッシャーが弱いと言わざるを得ません。
    裁判所から届く書類は開けるけども、民間事業者からの書類は無視……ということもあるでしょう。
    前項で説明した通り、合意書に執行力がないことも原因でしょう。

5、まとめ

離婚問題の解決に向けて民間ADRを利用すると、「平日夜・土日祝日にも対応」「比較的短期で終了」「フランクな話し合いが期待できる」など裁判所を利用した調停や裁判にはないメリットがあります。

一方で、裁判所の離婚調停と比較して「合意書で強制執行できない」「結局離婚裁判の前に裁判所の離婚調停をしなければならない可能性があるため二度手間となりうる」などのデメリットもあります。ご自身の状況や希望にあてはめて、利用すべきかどうか慎重に判断しましょう。
離婚問題でお悩みを抱えているようでしたら、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。弁護士が悩みを伺った上で、どのように解決することができるかサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています