離婚後の健康保険はどうなる? 適切な手続きの進め方を解説
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京都市が公表している「京都市衛生年報令和4年版」によると、令和3年度の京都市内の離婚件数は、2109件で、離婚率(人口千対)は、1.45でした。同年度の全国の離婚率は1.50であったことからすると、京都市内の離婚率は、全国の離婚率と比較して低い水準となっているのです。
一般的な夫婦では、妻が夫の扶養に入っていることが多いため、夫の被扶養家族として健康保険に加入している場合が大半になります。離婚をすることになった場合には、夫の被扶養家族としての資格を失うことになりますので、これまでの健康保険を継続して利用することができなくなります。離婚を決断した妻にとっては、婚姻中にどのような健康保険に加入していたか、離婚後にどのような健康保険に加入する予定であるかによって、離婚後の健康保険の手続きが異なってくることになるのです。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・離婚後に健康保険の加入が必要なケース
・離婚後の健康保険について適切な手続きの進め方
・支払えない場合の健康保険料免除について
離婚後の健康保険の手続きに不安がある方に向けて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、健康保険とは?
まず、健康保険という制度の概要や、健康保険の種類について説明します。
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(1)健康保険の概要
健康保険とは、怪我や病気をしたとき、出産時、死亡時などに国から必要な給付を受けることができる公的医療保険です。健康保険で主に利用するのは「療養の給付」であり、怪我や病気の治療をする際の費用が原則として3割負担となります。
わたしたちは病院などを受診する際に、健康保険証を提示して、治療費などを支払っていますが、これは健康保険の給付によって自己負担額が抑えられた金額となっています。
ほかにも、医療費の自己負担額が高額になったときに限度額を超えた金額が払い戻されるという「高額療養費」、子どもが生まれたときに支給される「出産育児一時金」などの制度があるのです。 -
(2)健康保険の種類
日本では、誰でも公平に、いつでも必要なときに医療サービスを利用することができるように「国民皆保険制度」が採用されています。そのため、日本では、すべての人が何らかの健康保険に加入していることになります。
健康保険の種類には、大きく分けて「健康保険」と「国民健康保険」の2つがあります。どちらの健康保険に加入するかは、勤務先や働き方によって決まってくるのです。
① 健康保険
健康保険は、社会保険の適用事業所に勤務している方が加入するものです。いわゆる、「社会保険」、「社保」などと呼ばれるものであり、保険料の半額を勤務する会社が負担してくれます。会社に勤務しているサラリーマンなどは、会社の規模に応じて、協会けんぽまたは組合健保に加入することになるのです。
② 国民健康保険
国民健康保険は、自営業者、パート・アルバイト、専業主婦など会社勤めをしていない方が加入するものです。国民健康保険の保険料は、上記の健康保険と異なり、保険料は全額自己負担となります。
国民健康保険には、一般的な市町村国保のほかに、特定業種の個人事業主が加入することができる組合国保があります。
2、離婚後に健康保険の加入が必要なケース
離婚をした場合には、婚姻時に加入していた健康保険の種類によって、新たに健康保険への加入や変更が必要になることがあります。
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(1)健康保険への加入・変更が必要な理由
市区町村役場に離婚届を提出することによって離婚は成立しますが、離婚に伴って自動的に健康保険の加入・変更の手続きが行われるわけではありません。そのため、離婚をすることになった場合には、自分自身で健康保険への加入・変更の手続きをする必要があります。
健康保険への加入・変更の手続きをせずに放置していた場合には、その期間の治療費は、10割の全額が自己負担となります。後日、健康保険への加入・変更の手続きをすることによって自己負担分を超える分については還付してもらうことができますが、離婚後には金銭的に苦労する場面が多くなるため、一時的にも多額の出費が必要になる事態は避けたほうがよいでしょう。
特に、妻がパート勤務や専業主婦である場合には夫の扶養に入っていることが多いため、離婚によって夫の健康保険の加入資格を失うことになります。夫側は特に変更の手続きは必要ないかもしれませんが、妻側は、健康保険への加入・変更を怠ると無保険になってしまいますので、注意が必要です。 -
(2)健康保険への加入・変更が必要なケース
離婚時の健康保険の加入・変更の手続きは、婚姻時に加入していた健康保険の種類によって異なってきます。以下では、婚姻中及び離婚後の状況それぞれについて、健康保険への加入が必要なケースについて説明します。
① 健康保険から国民健康保険への変更
夫の扶養家族として夫の勤務先の健康保険に加入していた場合には、離婚によりその資格を喪失します。そして、離婚後にすぐに就職しない場合には、新たに国民健康保険に加入する必要があるのです。
新たに国民健康保険に加入する場合には、夫の勤務先から「資格喪失証明書」をもらい、それを市区町村役場の窓口に持参して、国民健康保険に加入するための手続きを行うことになります。
② 健康保険から別の健康保険への変更
妻が仕事をしている場合には、夫の健康保険の加入資格を喪失した後に、妻が働く会社の健康保険に加入することができます。離婚後に自身の会社の健康保険に加入する場合には、その旨を勤務先に申請することになります。
③ 国民健康保険から新たな国民健康保険への変更
夫が個人事業主である場合には、夫婦ともに国民健康保険に加入していることが多いでしょう。
婚姻中は、夫を世帯主とする国民健康保険に加入していますので、離婚後も引き続き国民健康保険に加入する場合であっても、国民健康保険の世帯主変更の手続きが必要になります。
したがって、離婚後は、市区町村役場の窓口で国民健康保険の世帯主変更届を提出する必要があるのです。
④ 国民健康保険から健康保険への変更
夫を世帯主とする国民健康保険から自分の勤務先の健康保険に変更をするときには、その旨勤務先に申請をするだけで、手続きが完了します。
お問い合わせください。
3、離婚後の健康保険の手続き
夫がサラリーマンであり、妻が夫の扶養家族として夫の会社の健康保険に加入している場合、離婚後の健康保険の手続きは、以下のような流れになります。
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(1)「健康保険被保険者異動届」の提出
離婚をした場合には、夫は自身の勤務先に「健康保険被保険者異動届」を提出しなければなりません。これによって、妻や子どもが夫の扶養者から外れることになります。扶養から外れた場合には、夫の会社の健康保険証を使用することができなくなるため、妻と子どもの健康保険証を会社に返還しなければなりません。
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(2)「資格喪失証明書」の発行
「健康保険被保険者異動届」が夫の勤務先で受理された場合には、夫の勤務先から「資格喪失証明書」が発行されます。
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(3)健康保険加入の手続き
夫の扶養から外れた場合には、それ以降は健康保険に加入していない状態となります。その状態で病気や怪我をしたときには、一旦は医療費の全額を自己負担して支払わなければなりません。そのため、できる限り早く新たな健康保険に加入する手続きをしたほうがよいでしょう。
離婚後に就職先が決まっていない場合には、自治体の国民健康保険に加入することになります。自治体の窓口で手続きをすることで、その場で新たな保険証が発行されます。その際には、夫の職場から発行された「資格喪失証明書」が必要になるため、忘れずに持参してください。
既に就職先が決まっているか共働きであった場合には、勤務先の健康保険に加入することになります。勤務先の担当者にその旨を報告して、手続きをしてもらうようにしましょう。 -
(4)他の社会保険について
健康保険と同様に国民年金についても、自動的に変更がなされるわけではありません。自分自身で手続きを行う必要があります。具体的な手続きの中身は、婚姻中の被保険者の区分が何号であったかによって、異なってきます。
① 第1号被保険者
第1号被保険者とは、自営業や学生など自分で国民年金保険料を納めている方のことをいいます。第1号被保険者であった方は、離婚によって氏や住所が変更になった場合には、氏名・住所変更の手続きが必要になります。
② 第2号被保険者
第2号被保険者とは、厚生年金や共済組合に加入しており、国民年金保険料が給料から引かれている方のことをいいます。第2号被保険者であった方は、離婚によって氏や住所が変更になった場合には、氏名・住所変更の手続きが必要になります。
③ 第3号被保険者
第3号被保険者とは、第2号被保険者に扶養されている配偶者で国民年金保険料を負担する必要がない方のことをいいます。第3号被保険者であった方は、離婚に伴って、第1号被保険者への変更手続きが必要になります。
4、支払えない場合の健康保険料免除とは?
離婚によって、これまで負担をしていなかった健康保険料の支払いをしなければならなくなると、経済的に厳しいという方もいるかもしれません。
そのような場合には、健康保険料の減免制度によって負担の軽減を図ることができます。
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(1)健康保険料の減免
健康保険料は、前年度の所得額、被保険者数、世帯構成などによって決定されます。離婚によって夫の扶養から外れることになった場合には、健康保険料の算定基準にも変動が生じることになります。健康保険料の減免は、所得額に応じて7割、5割、2割の軽減を受けることができます。
申請は不要ですが、健康保険料の減免を受けられるかどうかなどに疑問がある場合には、市区町村役場の窓口で相談をするとよいでしょう。 -
(2)弁護士への相談
離婚にあたっては、離婚後の健康保険や国民年金の手続きが必要になります。各種手続きを行う際には配偶者の協力が必要になりますが、離婚理由によっては感情的になってしまい「資格喪失証明書」などを渡してくれないこともあるでしょう。
また、初めての離婚では離婚後の各種手続きに不安を感じる方も多いはずです。
そのような場合には、弁護士に相談をすることで適切なアドバイスを受けることが可能です。
5、まとめ
夫の扶養家族として夫の会社の健康保険に加入していた妻が離婚をする場合には、健康保険の資格を喪失することに伴い、各種変更手続きが必要になります。必要な手続きを怠っていた場合には、思わぬ不利益を被ることもありますので、忘れずに手続きを行わなければなりません。
離婚後の手続きに不安がある方は、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています