公証役場の手数料は安い? 公正証書離婚のメリット・デメリットを解説
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厚生労働省が公表する「令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況」によると、京都府の人口1000人あたりの離婚率は1.59で、全国平均の1.69よりも低い数字を示しています。
離婚の方法には調停離婚や裁判離婚もありますが、大半の場合は、協議によって離婚が成立します。しかし、協議離婚においては離婚の条件などに関する取り決めの有無や内容をめぐって、離婚後に争いになることも少なくありません。
そういった争いを予防する方法の一つが、離婚の際に公証役場において条件などの取り決め内容を公正証書にしておくことです。本コラムでは、公証役場を離婚で利用するときの手数料や、公正証書を作成することのメリットとデメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、公証役場とは? 離婚の際にできることや手数料は?
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(1)公証役場とは
「公証役場」とは、公証人が、法的に効力のある公正証書の作成などの事務を行う場所です。
「役場」という名前がついていますが、市区町村役場(役所)とは別の組織であり、全都道府県の人口の多い場所などを中心に設置されています。
「公証人」は、裁判官や検事を長く務めるなど、長年法務事務に携わった方がなりますが、あくまでも公正・中立な立場の公務員として事務を行います。
そのため、離婚の当事者のどちらかが有利になるようにアドバイスをすることは、立場上できないのです。 -
(2)離婚の際に公証役場でできること
離婚の際には、夫婦でさまざまな離婚の条件を決めます。たとえば「財産分与はどうするか」「子どもの親権はどちらにするか」「養育費や慰謝料はどれくらい支払うか」など、決めるべきことはたくさんあります。
このような条件について夫婦が合意していれば、法律上は、書面にしなくてもその取引は有効です。しかし、実際には、後に合意の内容をめぐって争いがおきないように、書面に残しておくことが一般的です。
公証役場では、夫婦が合意した離婚条件などの内容について、「公正証書」という公文書にすることができます。
離婚時に作成される公正証書の正式な名称は、「離婚給付等契約公正証書」です。
公正証書には、離婚する夫婦の事情や合意の内容などに応じて、以下のような項目が記載されることになります。- 離婚の合意
- 親権者などの定め
- 子どもの養育費
- 子どもとの面会交流
- 慰謝料
- 財産分与
- 住所変更などの通知義務
- 清算条項
- 強制執行認諾
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(3)手数料
離婚で公証役場の利用を検討している方にとって、「手数料などの費用はどれぐらいかかるのか」は、気になるポイントでしょう。
公証役場で公正証書の作成をしてもらう場合には、政令に定める「公証人手数料令」にしたがった金額の手数料が発生します。
離婚給付契約公正証書作成の手数料は、原則として、目的価額(離婚によって得られる利益・不利益)によって異なる金額が定められています。
たとえば、目的価額が100万円であれば5000円、100万円を超え200万円以下であれば7000円といったように、目的金額が高くなれば手数料も高くなるのです。
なお、離婚公正証書作成の手数料は、ケースに応じて、離婚の際に取り決めた慰謝料・財産分与・養育費の金額に対するそれぞれの手数料を合算して算出します。
ちなみに、養育費に関しては、支払期間が10年以上に渡るときには、10年分の金額を対象として手数料を算出することとされています。
それぞれのケースに応じた具体的な金額については、お近くの公証役場や弁護士などにご相談ください。
2、離婚公正証書のメリットとは
以下では、離婚の際の取り決めを公正証書にしておくことのメリットを紹介します。
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(1)スムーズな強制執行が可能になる
離婚公正証書を執行認諾文言付きで作成していた場合は、慰謝料・財産分与・養育費の不払いがあったときでも、すぐに強制執行の手続きを裁判所に申し立てて進めることができます。この点は、支払いを受け取る側にとっては、非常に大きなメリットとなります。
養育費などは、離婚直後には取り決めどおり支払われていても、月日が経過して当事者の状況が変われば、不払いになる可能性が高いものです。
そういった状況になったときでも、執行認諾文言付き公正証書があれば、その公正証書を裁判所に提出して強制執行の手続きをすすめてもらうことができます。
強制執行では、支払い義務がある債務者の預貯金や給与を差し押さえたりすることができるので、未払いになっている養育費などを回収できる可能性も高くなるでしょう。 -
(2)法的に有効な離婚契約ができる
離婚の際の取り決めとして、当事者が作成した「離婚協議書」などの私文書で残しておく方法もあります。
しかし、文書に残しておいたとしても、当事者だけしか関与していなければ、取り決めに法的に無効な内容が含まれてしまうなどのリスクもあります。
他方で、公正証書は、夫婦の合意内容に基づくとはいっても、公証人が作成する「公文書」であるため、法的に有効な内容が記載されます。
そのため、無効になる心配がない点も、メリットといえるでしょう。 -
(3)紛失・偽造の心配がない
公正証書が作成されると、その写しは夫婦それぞれに渡されますが、原本は公証役場に保管されます。したがって夫婦の一方が勝手に自分に有利になるように、公正証書に記載された内容を変えたり偽造したりしても、原本を確認すれば、変造や偽造の事実が発覚します。また、原本が公証役場に保管されている以上、私文書のように紛失のリスクもありません。
このように紛失・偽造の心配がないことも、公正証書にしておくことのメリットです。 -
(4)債務者の財産情報を入手しやすい
従来は、養育費の不払いに対して強制執行しようと思っても、相手の居場所や勤務地が分からず特定できないため、強制執行ができないという問題がありました。
しかし近年の民事執行法改正で、公正証書をもとに、「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続き」という債務者の財産情報を特定できる手続きを利用できるようになりました。
このように、強制執行の実効性を高められるというメリットも存在するのです。
お問い合わせください。
3、離婚公正証書のデメリットとは
以下では、離婚の際の取り決めを公正証書にすることで生じるデメリットについて解説します。
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(1)手数料(費用)がかかる
公正証書の作成には手数料がかかります。
当事者だけで離婚協議書を作成する場合にはかからない費用が発生するという点では、デメリットといえるでしょう。
しかし養育費などの不払いリスクを回避するための費用と考えれば、支払いを受け取る側にとっては、大きなデメリットとはいえないでしょう。
また、経済的に余裕がないことが市町村などの証明書で明らかにできる場合には、手数料の支払いの全部または一部が猶予される可能性もあるのです。 -
(2)公証役場に行く手間がかかる
公正証書を作成するためには、原則として、夫婦の双方がそろって公証役場にいく必要があります。離婚交渉中で感情的にうまく行っていない相手と一緒になって、時間を割いて公証役場まで行き、必要書類をそろえて公正証書を作成してもらう手間がかかることは、精神的・時間的な負担がかかるためにデメリットといえるでしょう。
なお、弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として手続きを進めることも可能です。 -
(3)強制執行しても回収できない場合がある
費用や手間をかけて執行認諾文言付きの公正証書を作成しても、支払い義務者に財産がなければ、強制執行しても未払い分は回収できません。
この点は、公正証書作成というよりも強制執行手続きそのもののデメリットとなりますが、留意しておく必要があります。
4、公正証書を検討するときは弁護士に相談を
公正証書は、離婚する当事者の合意をもとに、公証人が公正かつ中立な立場で作成するものです。
公証人は法的に有効な合意内容であるかは判断しますが、当事者どちらかの利益を考えてアドバイスできるわけではありません。
一方で、弁護士であれば、ご相談者さまの利益になるように、相手と交渉したりアドバイスしたりできます。したがって、ご相談者さまが納得できる内容の公正証書が作成できる可能性も高くなるでしょう。
また、弁護士は、ご相談者さまの代理人として公正役場で公正証書作成の手続きを進めることもできます。
そのため、お仕事などで多忙な方にとっては、ご自身の負担を軽減できることにつながることでしょう。
5、まとめ
本コラムでは、公証役場を離婚で利用するときの手数料や、公正証書作成のメリットとデメリットについて解説しました。
公証役場で公正証書を作成してもらう際の手数料は、政令で決まっており、財産分与や養育費など取り決めた金額によって異なります。
公正証書作成の手数料や手間はデメリットに感じるかもしれませんが、執行認諾文言付きの公正証書で作成しておけば、不払いがあったときに強制執行手続を利用して、スムーズに相手の給与から回収できるなど、大きなメリットがあります。
そのため、離婚に関する合意内容は、執行認諾文言付きの公正証書にしておくことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 京都オフィスでは、公正証書作成サポートも含めて、離婚問題に関するお悩みについてさまざまな側面からのアドバイスやサポートを提供しております。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています