介護を理由に別居中|離婚は可能? 別居を解消するには?
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令和4年度介護保険事業状況報告(年報)によれば、京都府は47都道府県中11番目に要介護や要支援認定者数が多い都道府県です。京都府内にも、介護を理由に別居している夫婦は多くいると考えられます。
介護別居が長引くと、「離婚したい」と考える方もいるでしょう。しかし、介護別居という理由で、裁判で離婚が認められる可能性は高くありません。また、離婚とは逆に、「介護別居状態を解消して夫婦としての共同生活を取り戻したい」と希望される方もいるはずです。
本コラムでは、「介護別居中に離婚したい」または「介護別居状態を解消したい」と考えている方に向けて、そもそも親の介護は義務であるのかどうか、介護別居中の相手との共同生活を取り戻す方法や離婚をする方法について、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、親の介護は義務とされている
そもそも、子が親の介護をすることは法的な義務とされています。
具体的には、民法第730条では「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」とされており、民法第877条第1項で「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」とされています。
ただし、直系血族には親子を含みますが、義理の親は直系血族ではありません(配偶者の血族は「姻族」と呼ばれます。)。
つまり夫の父母が介護を必要とするとき、直系血族である夫には扶養義務がありますが、直系血族や兄弟姉妹ではなく同居もしていない妻には、扶養義務はないのです。
なお、扶養の形式には、経済的な援助をするもの(扶養料)と身上の援助をするもの(引取扶養)があります。
また、扶養義務の程度は、自身の社会的地位や収入などに応じた生活を犠牲にしない範囲と考えられています。
したがって、法律上は、介護が必要な親と必ずしも同居する必要はなく、自分の生活を犠牲にしない範囲で経済的な援助をすれば扶養義務を履行しているといえるのです。
2、介護を理由とした別居を解消する方法
以下では、「相手の親の介護を理由に別居している」といった状態を解消するためにとれる方法を解説します。
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(1)他の扶養義務者に介護をしてもらう
一般的に直系血族と兄弟姉妹など扶養義務者は相互に扶養する義務があり、配偶者がいれば夫婦同士の扶養義務もあります。
そのため、夫の父か母に介護の必要がある場合でも、必ずしも夫だけが介護にあたる必要はありません。
夫の父か母が健在であったり兄弟姉妹がいたりするなら、その人に介護してもらうことも検討すべきでしょう。
もっとも、扶養義務の程度はその人の生活を犠牲にしない範囲と考えられているため、生活に余裕がない親族に対して無理に介護をお願いすることは避けるべきです。 -
(2)親を施設に入れてもらう
親が介護施設に入所できれば、介護のために夫婦が別居する必要性はなくなるため、夫婦の別居状態を解消できます。
在宅ではなく施設での介護を選べば、介護にあたっている夫婦の一方も、精神的・肉体的な負担を抑えられるでしょう。
ただし、介護を必要とする親が施設ではなく在宅での介護を望んでいる場合は、その親の意思を尊重する必要があります。 -
(3)親と同居する
他の扶養義務者に介護してもらえず、施設での介護も選択できない場合には、介護が必要な親と夫婦がそろって同居するといった方法も考えられます。
この方法をとれれば夫婦の別居状態を解消することができますが、本来は扶養義務を負わない側も同居している限りは扶け合わなければならない、という点に注意が必要です。(民法第730条)
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3、親の介護を理由に別居する相手と離婚は可能?
相手の親の介護が理由の別居が長引く場合には、離婚することを検討される方もいるでしょう。
離婚する意思が合致すれば、どのような理由であっても離婚できます。
しかし、相手が離婚に同意しない場合には「法定離婚事由」がなければ離婚できないこととなります。
以下、場合分けをして説明します。
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(1)夫婦で離婚に合意すれば離婚可能
夫婦が2人とも離婚に合意すれば、どのような理由であっても離婚できます。
「自分をないがしろにして親を優先する相手が許せない」「別居しているなら結婚している意味はない」といった理由でも、合意さえ成立するなら離婚することができるのです。 -
(2)夫婦の合意がなければ離婚には法定離婚事由が必要
夫婦の一方が「離婚をしたくない」と主張し続けて合意が成立しない場合には、最終的には裁判による離婚を検討することになります。
ただし、裁判で離婚が認められるためには、以下のような「法定離婚事由」が必要になります。- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
介護による別居と関係するのは、「婚姻を継続し難い重大な事由」です。
ただし、介護で相手が別居したとしても、それだけで婚姻を継続し難い重大な事由が認められる可能性は高くありません。
婚姻を継続し難い重大な事由が認められる可能性があるのは、夫婦で何の話し合いもせず一方的に別居して親の介護をしている場合や介護で大変だからといって生活費を渡してくれない場合、別居が長期間継続した場合などです。
なお、相手が別居した場合には「悪意で遺棄された」に該当する可能性がありますが、介護による別居は扶養義務に基づく正当な別居と捉えることができるため、通常は「悪意がある」とは見なされないことに注意が必要です。
4、離婚を切り出す前に考えるべきこと
以下では、離婚を切り出す際に検討すべき条件などを解説します。
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(1)住居
介護を理由とした夫婦の別居中に離婚を切り出す場合、離婚後どこに住むかを慎重に考えておく必要があります。
住んでいる家が自分名義の家や自分名義で契約している賃貸物件であれば、通常は離婚後もそのまま同じ家に住み続けられます。
しかし、住んでいる家が相手の名義である場合は、実家に戻るか、賃貸物件を見つけなければならない可能性もあります。
賃貸物件を探して転居する場合は、次のような費用がかかることにも注意してください。- 敷金
- 礼金
- 前家賃
- 管理費、共益費
- 仲介手数料
- 火災保険料
- 保証会社初回保証委託料
- 鍵交換費
- 消毒費
- ハウスクリーニング代(保証金)
- 引っ越し費用
- 家具や家電の購入費
別居後の生活費(婚姻費用)は、自分より相手の収入のほうが多い場合などは、相手に支払いを求めることができます。
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(2)親権
離婚するまでは原則として夫婦ふたり(父母)に親権がありますが、離婚後は夫(父)と妻(母)のどちらを親権者にするか決めなければなりません。(民法第819条)
親権者は、原則として父母の協議(話し合い)で決めるものとされています。
夫婦間の感情は置いておき、あくまでも子どもの父母として、子どもの利益を最優先に考えて親権者を決めましょう。
父母の協議で決められないときは家庭裁判所に決めてもらうことになりますが、「母が仕事で忙しく、これまで父が主に子どもの面倒を見ていた」といった場合を除けば、親権者は母となることが多いといえます。 -
(3)養育費
離婚するときには、親権者だけでなく養育費についても夫婦の協議(話し合い)で決める必要があります。(民法第766条第1項)
養育費は法律でいう「子の監護に要する費用」のことであり、具体的には子どもが経済的・社会的に自立するまでにかかる子どもの生活費、教育費、医療費などを指します。
一般的には、親権者にならず子どもと同居していない親(非監護親)が、親権者であって子どもと同居している親(監護親)に養育費を支払うことによって分担します。
養育費の額は、子の利益を最優先に考えながら父母の協議で決めましょう。
その際には、家庭裁判所の裁判官が公表している「改定標準算定表」を目安にすることもできます。
5、離婚を考えているなら弁護士に相談
介護を理由に別居しており、離婚を検討しているなら、弁護士に相談することをおすすめします。
相手がなかなか離婚に応じてくれない場合には、裁判によって離婚することも検討する必要があります。
しかし、介護のために別居をしていること自体は、法定離婚事由として認められる可能性は低いです。
実際に離婚が認められる可能性はどの程度あるか、他の事由が存在するかどうかといったことを判断するためには、専門家である弁護士に相談することが最善です。
また、離婚ができる場合にも、親権や養育費、慰謝料や財産分与など、さまざまな条件について検討しておく必要があります。
不利な条件で離婚してしまうことがないように、離婚を検討している方は、まずは弁護士に連絡してください。
6、まとめ
親に介護が必要になったとき、子が介護などをして親を扶けるのは法律上の義務のひとつです。
とはいえ、夫婦には同居義務があるため、親の介護を理由に夫婦生活をないがしろにすることは避けなければなりません。
まずは、他の親族に介護をお願いしたり、介護施設への入所や夫婦がそろって親と同居して親の介護にあたったりするなどして、夫婦の別居状態を解消する方法を検討しましょう。
もし、すでに介護別居を理由とした離婚を決意している場合には、裁判での離婚は認められにくいという点に注意する必要があります。
介護別居中で離婚を検討している方や、離婚が可能であるかどうかを知りたい方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています