夫婦財産契約(婚前契約)を結ぶには? 手続きや注意点を解説
- 財産分与
- 夫婦財産契約(婚前契約)
2019年に通販の大手企業であるアマゾンの創始者ジェフ・ベゾス氏は不倫が原因で離婚しました。その際には慰謝料として4兆円以上が支払われたといわれています。このように、離婚でも持っている財産が多ければ、その分慰謝料や財産分与などの金額も大きくなる傾向があります。
ただ、もしもあなたが多くの資産を持っている場合、「夫婦財産契約」でその権利を守ることをご存じでしょうか。
本記事では、日本ではめったに使われない「夫婦財産」契約について京都オフィスの弁護士が解説します。
1、夫婦財産契約とは
夫婦財産契約とは夫婦が持っている、あるいはこれから得る財産についての取り決めを行う明治から存在する制度です。ただ、婚前契約そのものがわが国の価値観になじまないことや、国民の認知度が著しく低いことからほとんど使われていません。
ここでは夫婦財産契約について、そして婚前契約との違いについて紹介します。
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(1)夫婦財産契約では法定財産制度に関わる内容を決められる
夫婦財産契約とはその名の通り夫婦の財産についての取り決めを行う契約です。
その範囲は、民法第760条から第762条までの法定財産制についてです。法定財産制においては婚姻費用の分担、債務の連帯、共有財産と特有財産について定められています。
共有財産とは離婚した際に分与される財産、特有財産とは離婚しても分与しなくて良い財産のことをいいます。
よって夫婦財産契約をする場合は次のことを定めることになります。- お互いが持っている財産をどちらの名義にするか
- 婚姻費用はどのような割合で負担するか
- お互いの収入をどのくらい共有財産にするか
- どの財産をそれぞれの特有財産をするか
- 抱えている債務についてはどのように分担するのか
ただ、夫婦財産契約は、第三者に財産の帰属を示すことが目的であるため、収入の分担などは夫婦財産契約を用いて決める必要がないという考えもあります。
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(2)なぜ婚前契約としての役割を持つのか
夫婦財産契約は結婚する前に合意および登記する必要があります。そのことから、夫婦財産契約を婚前契約と同じと考える方も多いですが、夫婦財産契約は婚前契約の一類型となります。なぜなら本来決められるのは「夫婦の持つ財産の帰属」のみだからです。
しかし、実務上は夫婦財産契約に法定財産制と関わらない内容の条項も一緒に記載することが可能となっています。つまり夫婦財産以外の取り決めも夫婦財産契約で行えるというわけです。 -
(3)夫婦財産契約は登記が必要
夫婦財産契約と一般的な婚前契約の最大の違いは登記の必要性です。なぜ、わざわざ夫婦財産契約を登記する必要があるのかといえば、夫婦の共有と思われている財産についての所有を第三者に対して公示するためです。
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(4)夫婦間の取り決めなら夫婦財産契約は不要
夫婦財産契約は法定財産制度に関わる部分を決めることを目的とする契約ですが、第三者への対抗要件具備を考えなければ、無理に夫婦財産契約およびその登記をする必要はありません。
一般的な婚前契約を行えば、結婚後に夫婦間で問題が生じた場合、契約書を根拠に協議を進めることができるからです。 -
(5)相続についての取り決めも夫婦財産契約は不要
再婚しようと考えている相手に連れ子がいる場合、連れ子と前妻の子どもとの相続について問題となることも考えられます。しかし、相続についての取り決めを夫婦財産契約や婚前契約によって行うことは一般的ではありません。
相続について取り決めたいことがあれば、遺言書を作成することが一般的です。遺言は書いた本人の意思だけで相続の詳細を決めることができます。
2、夫婦財産契約をすべき人は?
夫婦財産契約はわが国でほとんど使われていない現状にありますが、婚前契約一般と考えた上で、どのような人が夫婦の財産について取り決めをすべきなのでしょうか。
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(1)多額の資産を持っている人
多額の資産を持っている人は、離婚によって一般家庭同様に財産分与をする可能性があります。離婚時の財産分与は基本的に半分ずつとなるので、夫婦財産契約で、その割合や事業所得や金融所得の帰属をあらかじめ決めておくと良いでしょう。
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(2)子連れで再婚をする人
離婚の際に揉めやすいのが、再婚相手の子どもがいる場合です。すでに子どもがいて再婚する場合は、あらかじめ夫婦財産契約で養育費の負担について決めておきましょう。
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(3)国際結婚する人
国際結婚の場合は結婚に対する考え方が、文化や習慣により大きく異なる場合があります。
結婚した後のギャップを防ぐためにはお互いの考え方を話し合い、夫婦の財産以外の部分まで婚前契約を定めておくこともひとつの選択肢です。国外で行った婚前契約を、わが国で登記することも可能です。
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3、夫婦財産契約のメリット
夫婦財産契約をするメリットのひとつは、財産の権利を明確に定めることができる点にあります。もしも離婚となった場合に、夫婦の財産をどのように分けるのか、具体的な分割方法も決めておくことができます。離婚の際に、財産分与により、多くの資産の半分を相手方に分与したり、慰謝料を払うことを防ぎ、慰謝料を低額にすることができるのです。
また、夫婦財産契約は財産の帰属を決める契約として機能するため、配偶者に一部の財産を与える契約も一緒に行うことができます。
4、夫婦財産契約を結ぶ際の注意点
夫婦財産契約を結ぶ際には以下のような注意点があります。
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(1)結婚した後に内容を変えることができない
夫婦財産契約は結婚前の登記が必要となり、結婚後(婚姻の届け出後)にその内容を変えることができません。この点は双方の合意で自由に見直せる一般的な婚前契約に比べて大きなデメリットといえるかもしれません。
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(2)贈与税発生の可能性あり
財産の一部を配偶者のものにした場合、贈与したという扱いになり(みなし贈与)、贈与税の課税の対象となる可能性があります。
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(3)契約内容が登記情報として記録される
登記情報として記録されるため、契約内容が他者の目に触れる可能性があります。財産の帰属に加え、離婚後の対応などプライバシー性の高い内容まで知られるのは避けたい方も多いのではないでしょうか。
5、夫婦財産契約の手続き
夫婦財産契約は婚姻前にふたりが話し合ったうえで、その内容を決めていきます。
内容が決まれば、夫婦の住所地を管轄する法務局で登記申請を行います。
必要な書類は以下の通りです。
- 登記原因証明情報……夫婦財産契約書
- 戸籍謄本……結婚前であるということを証明
- 住所証明書……住民票
- 印鑑証明書……3か月以内の証明書
相手が約束を守らない可能性など不安をお持ちの方は、公証役場で公正証書の作成をおすすめします。強制執行認諾条項付きの公正証書があれば、相手が約束を守らない場合などに、お金の支払について強制執行手続きに移ることができますので、配偶者への抑止力にもなります。
6、まとめ
夫婦財産契約は夫婦の権利を守るための手段のひとつとして有効な契約です。
ともすれば契約という形式は無機質な印象が持たれるかもしれません。しかし、夫婦間の約束事や責任の所在が明確になるため、結婚後のもめ事に際しても拠り所として機能し、より円満な夫婦関係を築くことも期待できます。もし、離婚となった場合でも財産分与や親権問題といったトラブルを回避できるでしょう。
夫婦財産契約の締結や公正証書の作成などの手続きには、法的な知識が必要となります。夫婦財産契約をご検討の際には、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスにご相談ください。経験豊富な弁護士があなたの力になります。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています