財産分与を請求したら夫が使ってしまった後だった! どうすればいい?
- 財産分与
- 財産分与
- 使ってしまった
令和2年の春、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、夫婦で家にいる時間が長くなった結果、夫婦仲が悪化して離婚にいたる「コロナ離婚」が話題となりました。
しかし、「コロナ離婚が増加する」との予想に反し、厚生労働省の調査で令和2年1~6月に離婚した夫婦は前年同期比で9.8%減ったことがわかったと京都新聞が報じました(※)。
離婚するときには、お金の面でのトラブルが生じることが多いのですが、お金の問題のひとつとして挙げられるのが、財産分与です。
財産分与のトラブルとしては、今ある財産をどうやって分けるかで揉めるというだけでなく、夫婦のどちらか一方が財産を隠してしまうことや、だまって財産を使いこんでしまったりすることでトラブルが生じることもあります。もし夫(妻)に財産分与を求めても「渡せるような財産はない」と言われたらどうすればよいのでしょうか。
本コラムでは、離婚時に夫婦の共有財産の隠匿や使い込みが判明した場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
出典「人口動態統計速報(令和2年6月分)」(厚生労働省)
1、財産分与として請求できる財産の範囲
離婚のときに財産分与として請求できるのは、結婚後に夫婦ふたりで築いてきた「共有財産」といわれるものです。
-
(1)現金・預貯金
現金・預貯金は、結婚後、別居に至るまで夫婦ふたりでためたものであれば財産分与の対象となります。
それぞれの名義の通帳残高を合算して原則として1/2ずつ分けます。一方、結婚するまでにためてきた個人の預貯金や財産については、それぞれの固有財産とされ財産分与の対象にはなりません。 -
(2)生命保険・学資保険
生命保険や学資保険など積立型の保険は財産分与の対象となりますが、掛け捨てタイプのものは財産分与の対象とはなりません。
相手方が個人事業主や会社の経営者などの場合は退職金代わりに生命保険(養老保険等)に入っていることもありえます。そのため、離婚を考える際には相手方がそのような保険に入っていないかどうか確認しましょう。 -
(3)不動産
結婚後に取得した持ち家や別荘などの不動産も財産分与の対象です。
持ち家はローンが完済していれば、どちらかが譲り受けるか、売却して売却益を半分ずつ分ける方法があります。
ローンが残っている場合は、どちらが払い続けるか、所有権を持つかや、売却の場合は売却益がローンを上回るか下回るかなど、さまざまな検討が必要です。また、たとえば夫が住宅ローンの名義人、妻が連帯保証人となっているときは、離婚しても連帯保証人としての義務を免れることができません。そのため、借入先の金融機関と早めに交渉し、連帯保証人から外れるようにすることが必要です。 -
(4)退職金
退職金については、婚姻期間中に勤務していた期間に相当する部分については財産分与の対象です。すでに退職金を得ているもしくは2~3年以内に退職金を得る場合には、財産分与の対象となります。一方で、当面退職金を得ることがない場合は財産分与の対象とならないことがあります。
-
(5)借金・負債
借金や負債も、財産分与の対象となります。
たとえば、住宅ローンやマイカーローンなど結婚生活に必要なものについては、これらのローンが残っている場合は財産分与の対象となります。ただし、ギャンブルなどで浪費してしまい、個人的に借金した場合は、財産分与の対象とはなりません。
2、「共有財産を使ってしまった」と言われたら
いざ離婚するときになって財産分与を請求したとき、夫(妻)に「そんなものはとっくに使ってしまった」と言われたら、動揺してしまうかもしれません。しかし、相手の言うことがウソの可能性もあります。
-
(1)協議離婚で公正証書などがない場合
協議離婚をしたけれど、「離婚協議書」も「公正証書」も作成していない場合は、財産分与調停を申し立て、相手方に請求することが必要です。
調停委員を介して話し合い、調停委員の提案に当事者双方が合意できれば、債務名義となる調停調書を交付してもらうことができます。 -
(2)離婚公正証書や調停調書などがある場合
協議離婚で離婚公正証書をつくった場合や、離婚調停や離婚裁判をして調停調書もしくは判決書などがある場合は、それらが債務名義になります。したがって、裁判所を通さなくても、離婚公正証書や調停調書、判決書などをもとに相手方の預貯金などの財産や資産、相手方がサラリーマンであれば給与や賞与も差し押さえることが可能です。
-
(3)仮差し押さえする
財産分与を請求しても相手方が支払いを渋っている場合などは、隠し財産を持っている可能性もあります。その場合は、裁判の判決が出る前に、相手方が財産を一切処分できないように「仮差し押さえ」する方法があります。
「差し押さえ」は判決後でないとできないのですが、相当時間がかかります。その間に、相手方が、財産を隠してしまったり、処分してしまったりするかもしれません。そこで、提訴前や提訴直後に仮差し押さえをすることで、相手方が財産を隠したり処分したりすることを阻止ができるのです。
ただし、仮差し押さえをする場合は、守られるべき権利(被保全債権)と保全の必要性が求められます。それらを疎明する(こちらの主張が一応たしかであると裁判官に思わせる)ための資料や担保金(保証金)も必要になるので留意しておきましょう。
お問い合わせください。
3、隠し財産の調査方法
離婚が決まると、財産や収入の多いほう(たいていは夫)は少しでも分与する財産を減らそうと、財産隠しに走ることがあります。そのため、離婚を考えている場合は共有財産を洗い出し、相手方が隠し持っている預貯金口座や不動産などがないか調査し、リストアップするなど対策をとっておくとよいでしょう。
-
(1)共有財産をリストアップする
わかる範囲で共有財産と考えられる財産をリストアップしましょう。
預貯金や有価証券、生命保険、退職金などが共有財産になります。マイカーや持ち家などは、相手方の名義になっていても結婚後に購入していれば共有財産になりますので、忘れずにリストに入れましょう。 -
(2)隠し財産の痕跡を探す
次に、隠し財産の痕跡を探します。
少しでも自分の財産を譲るまいと巧妙に財産を隠そうとするため、難しいかもしれません。たとえば、ネット銀行の口座を開設して預貯金の一部を移していたり、登記簿上の不動産の名義を親戚などの他人の名義に書き換えたりしていることもあります。また、退職金の金額も、相手方の勤め先が発行する退職金額計算書をみればわかるので探してみましょう。 -
(3)弁護士会照会制度を利用する
相手方の隠し財産を調べるときは、「弁護士会照会制度」を利用することができます。
弁護士会照会制度とは、調停や裁判など裁判所での手続きを行う際に、弁護士会を通じて官公庁や企業に対して必要な証拠や資料の収集、情報を照会・調査できる法律上の制度です。この照会手続きは弁護士法第23条の2に基づいて行われることから、「23条照会」とも呼ばれます。
たとえば、隠し口座の預貯金の残高が知りたければ、銀行名と支店名がわかれば、弁護士会を通じて銀行に口座の有無や取引履歴を照会できます。また、不動産を隠している可能性があれば、不動産のある自治体で固定資産台帳や名寄せ帳などを調査することもできます。
弁護士会照会は裁判所を介するものではないので、どのタイミングでも行うことが可能です。ただし、裁判例で弁護士会照会を受けた官公庁や企業は照会に回答する義務はあるとされているものの、回答しなくても損害賠償義務を負ったり罰せられたりすることはないので、回答が得られないことがあるのがデメリットです。 -
(4)裁判所の調査嘱託を利用する
調停や裁判をする際には、裁判所が他の国家の機関や一般の団体等に対し、証拠の入手のために一定の調査を求める「調査嘱託」を行うこともできます。
裁判所が国家の公的機関なので、金融機関などは情報開示に応じてもらいやすい傾向があります。預貯金の場合は、口座番号や名義はもちろんのこと、預貯金の残高や取引履歴なども開示してもらえます。
調査の時点で他の口座に送金して預貯金の存在を隠そうとしている痕跡がみられた場合には、半年前または数年前にさかのぼって取引履歴を開示してもらうことが可能な場合もあります。ただし、10年以上経過すると履歴が残っていないことも多いので、開示を求めるのであれば早めに手続きを行うことが必要です。開示に応じてもらえない情報の場合は調査嘱託よりも強い「文書提出命令」を出してもらって開示を求める方法もあります。
4、弁護士に相談すべきケース
財産隠しの可能性がある場合のほかに、弁護士に相談したほうがよいケースはいろいろありますが、代表的な3つのケースを考えてみましょう。
-
(1)婚姻費用などほかに請求したいものがある場合
婚姻費用や慰謝料など、ほかに請求したいものがある場合は、弁護士に相談したほうがよいでしょう。
婚姻費用は結婚している期間中にかかる費用のことですが、離婚前に別居しているときは、離婚が成立するまでに別居にかかった費用についても相手方に請求できます。婚姻費用や慰謝料の金額はどれくらいが妥当なのかわからない場合は、弁護士に相談すればアドバイスをもらえ、請求もまかせることが可能です。 -
(2)相手方のDVから逃れてきた場合
相手方のDVから逃れて避難したり、別居したりしている場合は、相手方と財産分与について直接交渉ができないことがほとんどです。そのため、弁護士に相談し、代わりに財産分与を含めた離婚に向けた交渉をしてもらうようにすべきでしょう。
-
(3)子どもがいる場合
離婚するときに経済的に自立していない子どもがいる場合は、親権をめぐって争いになるケースもあります。
親権者は圧倒的に母親がなるケースが大半ですが、最近は育児に参加する男性も増えてきたためか、男性側に親権が認められるケースも徐々に増えてきています。親権どちらが持つかを決めなければ離婚が成立しないので、親権についての争いがある場合は、弁護士に相談して交渉をお任せするほうがよいでしょう。また、養育費についても、どれくらいの金額が妥当かについてアドバイスももらえます。
5、まとめ
離婚を検討しはじめ、「相手方にはある程度の財産はあるだろう」と思い話合いをすすめたとしても、こっそり財産を別の場所に移動させ、わざと所有財産を少なく見せることが少なくありません。
もし、相手の隠し財産が疑われる場合、まずは弁護士へのご相談をおすすめします。
この他にも、離婚に際して財産分与の請求ができない、財産分与以外にも争っているものがある場合などは、経験が豊富なベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士があなたの力になりますので、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています