財産分与の対象となる共有財産の範囲は? 離婚で損しない対応のポイント
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京都府では令和元年に4,022組のご夫婦が離婚しています。1日におよそ11組以上の夫婦が離婚している計算となり、決して少ない数とはいえません。
婚姻件数は1万1497件ですので、離婚件数は婚姻件数の34%にものぼります。
京都府にお住まいの方にとって、離婚は決して人ごととはいえないでしょう。
離婚を検討する場合には、「財産分与」についてしっかり取り決めなければなりません。財産を減らされてしまったら離婚後の生活にも大きな影を落としてしまいます。
きちんと共有財産の範囲を把握して相手の財産隠しを防ぎ、適切な方法で財産分与の取り決めをしておきましょう。
本コラムでは、財産分与の対象資産の範囲や不利にならないための対処方法を、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
離婚時の財産分与で損をしないために、ぜひ参考にしてみてください。
1、離婚時の財産分与の種類と割合
離婚時の財産分与とは、離婚に際して、夫婦が共有財産を分け合うことです。
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(1)財産分与の種類
財産分与には以下の3種類があります。
● 清算的財産分与
夫婦が婚姻期間中に形成した共有財産を離婚時に分け合うための財産分与です。「財産分与」という場合、この清算的財産分与を指すケースが一般的です。
● 扶養的財産分与
離婚後夫婦のどちらかが生活に困窮する可能性がある場合、生活保障のために行う財産分与です。離婚後一定期間、生活費の仕送りをするケースが多くなっています。
● 慰謝料的財産分与
夫婦のどちらかに不貞や暴力などの有責性がある場合、慰謝料代わりに行う財産分与です。
相手の不貞などによって迷惑をかけられた配偶者が多めに財産分与を受け取り、慰謝料を支払ったことにします。 -
(2)財産分与の割合
清算的財産分与を行う場合、財産分与の「割合」を決めなければなりません。
法律的な原則としては「夫婦で2分の1ずつ」となっています。夫婦の収入に格差がある場合や、どちらかが専業主婦(主夫)で収入がない場合でも、2分の1とするのが基本です。
ただし、夫婦の一方に特殊なスキルや資格などがあり、通常より著しく高額な収入を得ている場合には修正される可能性もあります。
また夫婦で話し合って財産分与を決めるときには2分の1にこだわる必要はありません。お互いが納得すれば異なる割合にもできます。
さらにどちらかが不倫した場合などには「慰謝料的財産分与」として、迷惑をかけられた側の割合を高くしてもかまいません。
2、財産分与の対象となる財産の範囲や種類
財産分与対象となるのは、以下のような財産です。
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(1)資産
財産分与の対象は、婚姻時に夫婦が積み立てた「共有財産」です。たとえば以下のようなものが該当します。
- 現金、預貯金
- 不動産
- 生命保険、学資保険、火災保険(解約返戻金のあるもの)
- 車
- 積立金
- 貴金属
- 株式、債券
- 価値のある家具や家財道具
- 退職金(離婚後10年以内に退職予定があり、退職金支給の確度が高い場合。また、最近は、支給が相当先であっても、退職金が賃金の後払い的性質を有することから、勤務期間に応じてその額が累積していると考え、財産分与の対象とされることがある。)
婚姻中に払い込んだ年金保険料に関しては「年金分割」という別の制度により、平等に分け合うことができます。
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(2)負債
負債も財産分与の対象になる可能性があります。
ただしすべてではありません。基本的には「生活のために負った負債」が清算対象です。
たとえば生活苦でカードローンを利用した場合などには、責任も分配すべきといえるでしょう。住宅ローンが残っている場合には、基本的に不動産の価額から住宅ローン残高を差し引いて清算します。
一方、どちらかが個人的な目的で作った借金は分与対象になりません。たとえばパチンコや投資などのために借金した場合、相手方に負担を求めるのは困難です。
● 債権者との関係に要注意
負債を財産分与できる場合でも、債権者との関係では主張できません。たとえば夫名義のカードローンを妻と2分の1ずつにしたからといって、夫が債権者へ「2分の1しか払いません」といっても通用しないと考えましょう。負債を分け合うときにはあくまで夫婦間の約束事となります。 -
(3)特有財産は対象外
夫婦が所有している財産であっても夫婦の「特有財産」は財産分与の対象になりません。
● 独身時代から持っていた財産
夫婦のどちらかが独身時代から持っていた財産は特有財産となるので財産分与対象外です。たとえば独身時代にためた預貯金、独身時代に購入した家や車などは分与対象になりません。
● 実家から引き継いだ財産
夫婦のどちらかが実家から引き継いだ財産も財産分与対象外です。遺産相続した不動産、生前贈与されたお金などは財産分与できません。
お問い合わせください。
3、財産分与でトラブルになりやすいパターン
財産分与の対象を選定するとき、以下のようなことが原因でトラブルになるケースが多いので注意しましょう。
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(1)財産隠し
非常によくあるのが「財産隠し」です。
一方が自分名義の預貯金や保険などを開示しないために争いが発生します。財産を隠されたままでは公平に財産分与できないので、相手に開示させるかこちらから積極的に調べなければなりません。
個人の力で調査するには限界があるので、困ったときには弁護士へ相談しましょう。 -
(2)特有財産かどうかが争われる
財産分与の際、「特有財産」か「共有財産」であるのかをめぐって、争いが発生するケースも少なくありません。
たとえば「独身時代からもっていた預金」と主張しても、婚姻生活の中で生活費に混入してしまっていたら特定は困難となるでしょう。夫婦で意見が合わずトラブルにつながってしまいます。
独身時代に得たストックオプションの権利にもとづいて婚姻後に取得した株式なども、特有財産か共有財産かで争われるケースがあります。
基本的には、特有財産であることの証明ができない場合、共有財産として財産分与の対象になる可能性が高いと考えてよいでしょう。どちらに分別すべきかわからない場合には、弁護士に相談してみてください。 -
(3)住宅ローンなど、負債の財産分与
夫婦に負債がある場合にも、財産分与でトラブルになるケースが多いので注意しましょう。負債のある側は相手にも負担を求めますが、負債を負っていない側は拒否するためです。
住宅ローンが残っていたり、夫婦のどちらかが連帯保証人になっていたりすると処理がさらに複雑になります。連帯保証人のまま放置していると、離婚後に主債務者が払わなくなったときに居住していない連帯保証人に一括請求されるリスクも発生します。
離婚後に禍根を残さないためにも、財産分与に懸念があるなら離婚前の段階で専門家のアドバイスを受けておきましょう。 -
(4)子ども名義の預金、子どもの保険
子ども名義の預貯金や学資保険がある場合にも、財産分与でもめごとが発生しやすい傾向があります。
子ども名義であっても資金が夫婦の収入であれば財産分与対象になります。
一方で、夫婦どちらかの実家からの支援や贈与金が資金となっていたら、財産分与対象から外れる可能性もあります。
4、離婚時、離婚後、パターン別財産分与の進め方
離婚前に財産分与を行うなら、以下のように進めてください。
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(1)協議
まずは相手と話し合いましょう。合意ができたら協議離婚合意書を作成し、公正証書にするようおすすめします。公正証書があれば、相手が約束のとおりに財産分与をしないときに強制執行(差し押さえ)が可能となります。
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(2)離婚調停
話し合いでは解決できない場合には、家庭裁判所で離婚調停を申し立てましょう。調停では裁判所に間に入ってもらい、財産分与や養育費、慰謝料などの離婚条件について話し合えます。
調停が成立したら強制執行力のある「調停調書」が発行され、相手が支払わないときには差し押さえによって回収できます。 -
(3)訴訟
調停で話し合っても合意できないなら、家庭裁判所で離婚訴訟を提起しましょう。
訴訟をすれば、裁判所が財産分与の方法を決めて判決を出してくれます。相手が従わない場合、強制執行も可能です。 -
(4)離婚後に請求する場合
離婚時に財産分与をしなかった場合、離婚後に財産分与請求できます。ただし離婚後2年以内に手続きをしなければなりません。
相手と話し合っても解決できそうになければ、家庭裁判所で「財産分与調停」を申し立てましょう。離婚後2年以内に調停を申し立てれば、調停中に2年が経過しても権利は保全されます。
財産分与調停が不成立になったら「審判」になり、裁判官が財産分与の方法を決定します。
審判の結果にも強制力があるので、相手が従わない場合には強制執行によって回収できます。
5、財産分与で損しないための注意点やポイント
財産分与の際、できるだけ有利に進めるためのポイントをみていきましょう。
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(1)財産分与の対象を的確に把握
まずは財産分与対象資産の把握が極めて重要です。
相手に財産隠しをされないように、すべて開示させ、開示されない部分については弁護士などの助力を得て調査しましょう。
共有財産と特有財産の振り分け、負債をどこまで含めるかなども正しく判断する必要があります。 -
(2)財産分与対象を確定するタイミング
財産分与の際には「基準時」が極めて重要です。基準時とは、「いつの時点に存在した財産を分与対象にするか」というタイミングをいいます。
預貯金や不動産の価値などは日々流動していくので、基準時を定めないと財産分与を正しく計算できません。
財産分与の基準時は、基本的に以下のとおりです。- 離婚するまで同居していた場合には離婚時券
- 離婚前に別居した場合には別居時
別居後に相手が財産を使い込んでも分与対象資産を減らされることはありません。
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(3)使い込みを防ぐ
基準時後に使い込まれても財産分与の対象は減りませんが、現実に財産が失われたら支払いを受けにくくなるリスクは発生します。できるだけ相手による使い込みを防ぎましょう。
そのためには、「仮差し押さえ」の活用をおすすめします。たとえば相手名義の不動産を仮差し押さえすると、相手は不動産を売却したり抵当権を設定したりできなくなります。
支払い前の退職金債権を仮差し押さえすれば、退職金使い込みも防げますし、生命保険などの保険解約を防ぐためにも使えます。
6、まとめ
財産分与対象になるものは、基本的に夫婦が婚姻期間中に形成した資産です。負債も一部、財産分与対象になる可能性があります。
財産分与で損をしないためには、正確に財産分与対象を洗い出し、評価を行わねばなりません。相手の財産隠しや使い込みも防ぐ必要があります。
その場合には、専門的な判断や対応が必要になるので、弁護士のサポートを受けながら進めましょう。ベリーベスト法律事務所 京都オフィスでは離婚に関するお悩みを抱えた方を積極的にサポートしております。お悩みの方はお気軽にご相談ください。
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