農地法の違反はどんな罪に? 現状回復命令を出された場合の対処法

2020年09月16日
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  • 農地法違反
農地法の違反はどんな罪に? 現状回復命令を出された場合の対処法

平成31年3月に警察庁が発表した警察白書によると、京都を含む全国で農地法違反により検挙された件数は2件でした。平成26年以降農地法違反による検挙件数は0件から3件で推移しており、検挙される件数自体は非常に少ないといえます。
しかし、適切に処置しなければ検挙される可能性はありますので、農地法違反を指摘された段階で対策を講じなければなりません。
そこで、今回はベリーベスト法律事務所京都オフィスの弁護士が、農地法違反の概要や罰則、事例や対策を解説します。

1、農地法とは?

まずは、農地法の概要を解説します。

  1. (1)農地法は農地を保護するための法律

    農地法とは、国土が狭い日本において優良な農地を確保するために、農地の利用に制限を設けた法律です。農地を農地以外に利用する「農地転用」については厳しく制限されています。農地法における「農地」とは、作物を栽培する目的に使用している土地をいいます。農地にあたるかは、登記の「地目」の項にはよるのではなく、現況から判断されます。また、現状は耕作が放棄されている土地であっても、客観的に耕作に使われる土地であると分かるような休耕地、不耕作地であれば、農地法上の「農地」に含まれます。また、「採草放牧地」と呼ばれる土地も農地法によって転用が制限されています。「採草放牧地」とは、農地以外で採草又は家畜の放牧のために使用されている土地のことです。

  2. (2)農地の転用には許可が必要

    農地を農地以外の目的で利用する場合は、原則として都道府県知事や市町村長の許可が必要です。農用地区域に指定されている農地や市街化調整区域内の一定の条件を満たした農地、10ヘクタール以上の農地などの転用は「原則不許可」とされています。
    市街化区域内の農地であれば、農業委員会に届け出ることで転用が可能になる場合もありますが、必ず事前に届け出を行わなければなりません。許可を受けずに農地を転用し、農業委員会の調査等により転用が判明した場合、農業委員会又は都道府県知事等は、違法転用の状態を是正するように指導を行います。
    都道府県知事等からの是正に従わない場合には、都道府県知事等は、以下の行政処分を命じることができるとされています。

    • 工事の停止命令
    • 原状回復命令
  3. (3)原状回復命令を放置した場合にとられる措置

    農地法に違反して、農地を転用して市町村長等から原状回復命令を出された場合は、直ちに原状回復を行わなければなりません。
    農地法に違反した事業主が原状回復を行わない場合、市町村長等が緊急に必要と判断した場合は、原状回復を行うことができるとされています。これを「行政代執行」といいます。

    行政代執行による、原状回復のためにかかった費用は、都道府県ではなく事業者が支払わなければなりません。支払いに応じない場合は、税金を滞納したときと同様に、財産等の差し押さえが行われる可能性もあります。
    実際に農地法違反によって行政が強制的に原状回復を行う事例は多いとは言えませんが、転用した農地の状況によっては可能性がゼロではありません。原状回復命令が出された場合は放置しないようにしましょう。

2、農地法違反で問われるおそれがある罪と罰則

農地を無断転用した場合は、農地法違反の罪に問われます。農地法違反で起訴されて有罪になった場合の罰則は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。法人の場合の罰金は1億円以下です。法人が農地法に違反した場合は、違反した経営者や従業員個人が3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処され、法人が1億円以下の罰金となる「両罰規定」となります。

農地法違反の事例は、行政機関(農業委員会や都道府県知事等)の告発が、捜査機関(警察や検察)の捜査のきっかけとなることがほとんどと言えるでしょう。
そのため、いきなり捜査機関に捜査されるということは稀で、まずは行政機関の是正の指導や書面での勧告、原状回復命令が出されることが通常です。
原状回復命令にすら従わない場合に、行政機関の告発がなされて、捜査機関の捜査が始まるということになるでしょう。

農地法違反として原状回復命令が出されていて、それに従わず起訴された場合は、上記の「3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下の罰金)」を言い渡されるおそれがあるということです。実際に農地法違反で検挙された件数は非常に少ないとはいえ、行政の命令を放置すると原状回復費用だけでなく刑事罰をも受けることになりかねません。

3、農地法違反の事例

行政機関である地方自治体が、許可を受けることなく農地転用をしている事例も散見されることからもわかるように、農地転用許可は見落とされがちな問題であり、農地法違反は数多く発生しています。
農林水産省が発表した農地法違反に該当する農地転用は平成20年で年間8197件でした。5年後の平成25年には、年間5403件、さらに5年後の平成30年には、年間3648件となっており、農地法違反となる転用事例自体は、年々減少傾向にあることは間違いありません。
しかしながら、行政庁が違反転用を発見したが、是正されずに未是正のままとなっている件数は、平成25年で380件であったところ、平成30年には449件と増加しており、是正されずに違法な状態が継続する事例は、微増とはいえ、増加傾向にあることもうかがえるのではないでしょうか。そこで、具体的な農地法違反の事例を確認しておきましょう。

●農地法違反によりFIT認定取り消し
農地法違反によって事業主が逮捕・起訴された事案ではありませんが、事業に多大な影響が出る処分が命じられたのが、太陽光発電の認定取り消しです。
農地法においては、農地で太陽光発電を行う場合は、農地転用の許可を受けなければならないとされています。しかし、経済産業省が行っている再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)を利用して、大規模な太陽光発電事業を行うべく、多くの農地が転用許可を受けることなく太陽光発電事業に転用されていました。
そこで、経済産業省は、「法令の規定を順守していない」として、農地転用許可を受けずに太陽光発電の認定を受けた事業のうち8件の取り消し処分を発表しました。事業主は、太陽光発電設備や土地の改良など多額の設備投資を行っており、FIT認定取り消しによって大きな影響を受けることになると考えられます。

●農地転用を巡る収賄による逮捕
農地転用の許可は農業委員会が行うことが多いことから、農業委員会への収賄がなされるといったこともあるようです。令和元年10月に、農業委員会会長が収賄の疑いで逮捕された事例があります。約15ヘクタールの農地転用に関し、便宜を図ったとされる容疑ですので、農地法違反の直接的な容疑ではありませんが、転用にからむ収賄が行われていたというのは、農地法や農業委員会の意義やあり方について考えさせられます。

●農地法違反で起訴
平成30年、農地の不正転用を行ったとして、不動産会社の社長が逮捕・起訴されました。農地法違反で逮捕・起訴される可能性もゼロではないことを示す事例です。

一方、県から原状回復命令が出されていたものの、後に農地転用には当たらないとして、原状回復命令を取り消すという判断が下されたものもあります。

●県の農地法違反による原状回復命令の取り消しを命じる判決
昭和48年に農地を無断転用したとして、平成26年に県から原状回復命令を出されていた男性が、農地転用には該当しないとして命令取り消しをもとめた行政訴訟を提起しました。訴訟の結果、男性が転用した土地は、非農地であるとして県の原状回復命令を取り消すようにと命じられています。この土地は、転用した時点で農地として利用されておらず、それ以前にも農地として利用していたと認められる証拠がないことから、農地転用には該当しないと判断されました。

4、農地法に違反していると指摘されてしまった場合の対策

行政機関から農地法に違反していると指摘されてしまい、すでに原状回復命令が出されている場合にとるべき対策の一つは「弁護士への相談」です。なぜならば、行政の農地法違反の指摘が正しいかどうかを把握した上で対策を講じなければならないからです。

過去の事例にもあるように、行政による「農地」の誤認識があり、原状回復命令が妥当ではないという可能性もあります。まずは農地転用の経緯やその土地の利用状況について、弁護士が正確に把握した上で農地法に違反しているかどうかを検討しなければなりません。

その上で、農地法に違反しているようであれば原状回復について、行政側と話し合う必要があります。前述したように、放置してしまうと農地法違反により逮捕、起訴される可能性もゼロではありません。また、行政代執行により工場等の建物を強制的に破壊されるおそれもあります。

万が一逮捕された場合は、最大72時間、身体を拘束されます。その後勾留が決定すればさらに最長20日間も身体の拘束が続き、その期間は帰宅することもできません。起訴が決定すれば刑事裁判が開かれます。

しかし、弁護士に相談し対策を依頼することによって逮捕や起訴などのリスクの軽減が可能です。また、弁護士が真摯に話し合う姿勢を見せることによって、行政代執行も防止できる可能性があります。

農業委員会への贈収賄などを行って、事態の沈静化を図ろうとすると逆に新たな罪を犯すことにもなりかねませんので、原状回復に応じることが難しい場合、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

日本では、農地を農地以外の目的で利用することは厳しく制限されています。転用する場合は農業委員会や都道府県知事による許可が必要です。許可を受けることなく農地を転用した場合は農地法違反に問われるおそれがあります。農地法違反で有罪判決を受けた場合の罰則は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。法人の場合は、さらに1億円以下の罰金が科されることになります。

農地法違反、あるいは関連する容疑で逮捕・起訴されている事例もありますので、行政から原状回復命令が出されている場合は、早急に弁護士に相談した上で、問題の解決を図りましょう。
ベリーベスト法律事務所 京都オフィスでは、農地法に関する相談やご依頼も受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。グループ内には、弁護士だけでなく司法書士も在籍しておりますので、土地についての問題をより専門的な立場で解決可能です。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています