公益通報者保護制度とは? 事業者が押さえておくべき重要なポイント

2021年12月06日
  • 一般企業法務
  • 公益通報制度
公益通報者保護制度とは? 事業者が押さえておくべき重要なポイント

新聞やテレビなどの報道では、病院での医療ミス、自動車メーカーによるリコール隠し、食品メーカーによる産地偽装などさまざまな不祥事が問題になっています。このような企業の不祥事については、内部の労働者や取引先などによる通報で明らかになることも少なくありません。

令和2年に、内部通報を行った労働者などを保護するための法律である「公益通報者保護法」が改正されました。従業員数が301人以上の事業者には、内部通報に適切に対応するために必要な体制整備などが義務付けられます。そのため、公益通報者保護制度を整備していない企業では、今後適切な体制整備に向けた取り組みが求められることになるのです。

本コラムでは、公益通報者保護制度に関して事業者が押さえておくべき重要なポイントを、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。

1、公益通報者保護制度とは

まず、公益通報者保護制度の概要と、令和2年の公益通報者保護法改正のポイントについて説明します。

  1. (1)公益通報者保護制度の概要

    「公益通報」とは、労働者が、労務提供先の企業内部において、国民生活の安心安全を損なう法律違反や、ひいては法律違反につながる行為を発見した際、それを内部の通報窓口や行政機関、その他報道機関や消費者団体、労働組合などに通報をすることをいいます。一般的に「内部通報」とも呼ばれます

    公益通報がされることにより、被害の拡大が防止され、また、本来明らかになるはずのない不正が明らになることもあります。すなわち、公益通報は国民の財産や健康を守るために、非常に重要な役割を果たしているのです。そのため、労働者が公益通報を行うことに萎縮することのないよう、公益通報をした労働者が、企業から不利益な取り扱いを受けることのないよう、保護する必要性があります。

    そこで、公益通報者保護制度を設け、労働者が公益通報をしたことを理由として解雇、減給、降格、派遣切りなど、種々の不利益な取り扱いを受けることのないよう、制度化する必要があるのです。ここでいう労働者とは、正社員だけでなく、派遣労働者、アルバイト、パートタイマー、取引先の社員・アルバイト等を含み、広く保護されることになります。

  2. (2)公益通報者保護法の改正ポイント

    消費者庁の調査によると、内部通報制度は殆どの大企業において導入済みですが、中小企業の場合はまだまだ導入が不十分です。また、導入済みの企業であっても、十分に制度が機能しているとはいえない状況です。そういった背景もあり、公益通報者保護制度は令和2年6月に改正されました。ポイントは、以下のとおりになります。

    1. ① 事業主に公益通報の対応窓口設置などの体制整備を義務付ける(ただし、従業員300人以下の中小事業者については、努力義務とする)
    2. ② 匿名性の確保のため内部調査に従事する者に対して、通報者を特定させる情報の守秘を義務付けるとともに、義務違反には刑事罰を適用する
    3. ③ 公益通報に伴う通報者の損害賠償責任を免除する
    4. ④ 保護対象となる公益通報の範囲を拡大する
    5. ⑤ 行政機関やマスコミなどへの通報の範囲を拡大する
    6. ⑥ 保護対象となる通報者を従業員だけでなく退職者や役員にも拡大する


    従業員が301人以上いる企業では、公益通報制度の整備に対応することが必要になってきます。改正公益通報者保護法の施行は、公布日(令和2年6月12日)から2年以内とされています。消費者庁は令和4年6月1日を目途に施行を予定しているようであるため、それまでに準備をすすめることが重要でしょう。

2、事業者が公益通報者保護制度を導入する意義について

改正公益通報者保護法によって、従業員が301人以上の事業者に対しては、公益通報制度の整備が義務付けられることになります。300人以下の中小事業者については努力義務となっていますが、事業者が公益通報制度を導入・整備することには、以下のような意義があるのです。

  1. (1)問題の早期発見と被害の拡大防止

    企業内部の一部の関係者によって行われる不正や違法行為については、問題が顕在化しない限り、外部から発覚することは稀です。しかし、企業内部の不正や違法行為の発見が遅れてしまうと、企業・関係者の処罰や行政処分による損失のほかにも、消費者や取引先からの信頼の低下、従業員の労働意欲の低下といったダメージが生じます。ひとたび企業内部の不正や違法行為が外部に公表されてしまうと、その後、どれだけ誠実に対応したとしても、企業失った信頼回復は容易ではありません。企業の不正や違法行為については、できる限り早期に問題を発見して、被害の発生や拡大を防止することがなによりも重要となるのです。

    とはいえ、現実的には、外部から内部の不正や違法行為を発見することは難しいため、企業内部の労働者などの通報に頼らざるを得ません。したがって、不正や違法行為の端緒をつかんでいる労働者が安心して通報をすることができる公益通報制度を整備しておくことは、リスクの早期発見や被害の拡大防止につながります。

  2. (2)不正や違法行為の予防

    企業内部の不正や違法行為の多くは、企業内部の労働者の通報によって発覚します
    公益通報制度を導入して、適切に運用することによって、「不正や違法行為をした場合には、すぐに通報されて発覚する」ということが労働者間の共有認識となります。それによって、不正や違法行為をしづらい職場環境を実現して、不正や違法行為の発生を未然に予防することができる、という効果が期待できるのです。

  3. (3)株主や取引先からの信頼獲得、企業価値の向上

    消費者、事業者、労働者は、自らと関係を有する事業者に公益通報制度が整備されているかについて関心を有しています。公益通報制度を整備して、適切に運用することによって、消費者にとっては、当該企業の商品やサービスを利用したと思うきっかけになり、取引先にとっては安心して取引をすすめるための判断材料になるのです。つまり、消費者、取引先、株主などからの信頼を高めて、企業価値が向上することも期待できますし、また、優秀な人材を確保するにあたっても公益通報制度が整備していることは大きなアピールポイントとなります
    このように、公益通報制度を整備して、その実効性を高めることには、企業価値の維持とさらなる向上につながるという効果が期待できるのです

3、公益通報者保護制度導入のポイント

公益通報者保護制度を導入する際には、以下のようなポイントを押さえておきましょう。

  1. (1)秘密保持の徹底

    公益通報者保護制度が有効に機能するためには、通報者の秘密が守られて、通報したことにより不利益を被らないようにする体制を整備することが必要です。そのためには、通報者の匿名性を確保することが重要になります。また、通報への対応にあたっては、通報者や通報の対象となった者被通報者の個人情報を扱うことになります。したがって、公益通報に対応する担当者の範囲を限定するなどして秘密保持や個人情報保護を徹底することが重要になるのです。

  2. (2)複数の通報窓口の整備

    公益通報制度の窓口としては、事業者内部の内部通報窓口だけでなく、法律事務所などの外部通報窓口を利用するといった方法もあります。
    内部通報制度のみでは、通報者の匿名性が守られるとはいっても通報の事実が知られてしまうのではないかと労働者が不安を感じて、重要な情報が伝わらない可能性があります。しかし、外部通報窓口として法律事務所を利用することによって、守秘義務を負っている弁護士が対応することになりますので、絶対に情報が洩れることがないという安心感が生まれるのです。
    複数の通報先が存在することによって、労働者としても選択肢が広がり、「積極的に通報をしよう」という動機を与えることが期待できます
    したがって、公益通報制度の窓口としては、内部通報窓口と外部通報窓口を併用して整備するとよいでしょう。

4、まとめ

公益通報者保護法の改正によって、一定規模以上の事業者に対して、公益通報者保護制度の整備が義務付けられることになります。制度の整備には時間がかかるため、改正法の施行に間に合うように今から準備をすすめていかなければなりません。
公益通報者保護制度の窓口としては、法律事務所も選択肢の一つになりますので、公益通報者保護制度の整備と併せて相談をしてみるとよいでしょう。
公益通報者保護制度の整備が必要になる企業は、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスまでお気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています