秘密保持契約の有効期間を永久とすることは可能? 適切な年数は?

2024年05月23日
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秘密保持契約の有効期間を永久とすることは可能? 適切な年数は?

企業が他社と取引を行うにあたっては、ノウハウや顧客情報などの営業秘密を保護するため、秘密保持契約書を締結する場合があります。

秘密保持契約については、有効期間(契約期間、秘密保持期間)をどのように定めるかが重要なポイントになります。有効期間を永久としている秘密保持契約もよく見られますが、義務違反のリスクや契約の有効性などの観点から問題があるため、適切な有効期間を定めることが大切です。

本コラムでは秘密保持契約の有効期間について、永久とすることの問題点や条文例・定めるべき事項などを、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。

1、秘密保持契約の有効期間|永久でもよいのか?

秘密保持契約のように、継続的な取引関係について締結される契約には、有効期間を定めることが一般的です。

契約の有効期間を定めない場合、解除・解約等によって終了しない限り、理論上は契約が永久に続くことになります。
しかし、契約の有効期間が永久に続くと、以下のようなデメリットが生じてしまうことになるのです

① 当事者の負担が重すぎる
契約上の義務を永久に負い続けるのは、当事者にとって負担が重すぎます。

秘密保持契約の場合は、契約に従った秘密保持義務(第三者に対する開示の禁止・目的外利用の禁止・漏えい等の発生時の対応など)を永久に負うことになり、事務処理上の負担が大きくなることが予想されます。

② 契約管理上の不備が生じやすくなる
締結から時間が経過して取引自体も終了した契約については、「その契約を順守しよう」という意識が薄くなります。
契約の有効期間が終了していれば大きな問題は生じにくいですが、有効期間が永久に続く場合は、取引終了後も契約を順守しなければなりません。

取引終了後だいぶ時間が経過してから、気づかないうちに秘密保持義務に違反していたことを相手方から指摘されると、トラブルに発展するリスクがあります。

③ いつまでも契約書を破棄できない
有効期間が完全に終了した契約については、一定の期間を経て契約書を破棄することができます。


これに対して、有効期間が永久に続く契約については、いつまでたっても契約書を破棄することができません。

このように、秘密保持契約の有効期間を永久とすることについては、さまざまな問題点があります。
したがって、当事者間で協議したうえで、適切な有効期間を定めることが望ましいのです。

2、秘密保持契約の有効期間の定め方

以下では、秘密保持契約の有効期間を定める条項の条文例を紹介したのち、重要なポイントである「自動更新条項」と「存続条項」を解説します。

  1. (1)秘密保持契約の有効期間の条文例

    秘密保持契約の有効期間は、以下のような条項によって定めます。

    第○条 (有効期間)
    1. 本書の有効期間は、●年●月●日から5年間とする。
    2. いずれかの当事者から期間満了日の1か月前までに書面による契約終了の意思表示がなければ、本契約はさらに1年間更新され、以後も同様とする。
    3. 第●条、第●条……の規定は、本契約の終了後もなお依然としてその効力を有するものとする。ただし第●条については、本契約の終了後3年間に限る。


    第1項では、秘密保持契約の当初の有効期間を定めています。
    第2項では、自動更新条項を定めています。
    第3項では、存続条項を定めています。

    自動更新条項と存続条項については、次の項目以降にて解説します。

  2. (2)自動更新条項について

    「自動更新条項」とは、当事者が契約終了の意思表示をしない限り、従前と同一の条件で契約を更新する旨の条項です。

    <自動更新条項の例>
    2. いずれかの当事者から期間満了日の1か月前までに書面による契約終了の意思表示がなければ、本契約はさらに1年間更新され、以後も同様とする。


    自動更新条項では、契約終了の意思表示をする際の手続きを定める必要があります

    たとえば上記の場合には、「期間満了日の1か月前までに書面による契約終了の意思表示」を行うことが求められています。
    また、自動更新後の契約の有効期間についても定めておく必要があります。
    上記の場合には「1年間」とされています。

  3. (3)存続条項について

    「存続条項」とは、契約終了後も有効に存続する条項を定める条項です。

    <存続条項の例>
    3.第●条、第●条……の規定は、本契約の終了後もなお依然としてその効力を有するものとする。ただし第●条については、本契約の終了後3年間に限る。


    秘密保持契約では、以下の条項などを存続条項の対象とすることが一般的です。

    • 秘密保持義務
    • 秘密情報の返還、破棄
    • 損害賠償
    • 準拠法、合意管轄


    存続条項の有効期間を特に定めない場合、対象とされている条項の存続期間は、実質的に永久となります。
    秘密情報の返還・破棄を定める規定や、紛争解決に関わる損害賠償・準拠法・合意管轄の規定については、存続期間を永久とすることに一定の合理性があると考えられます。

    これに対して、秘密保持義務全般(秘密保持条項)の存続期間を永久とした場合、当事者の負担が重くなりすぎることが懸念されます。
    秘密保持義務の規定を存続条項の対象とする場合は、以下の例のように、1年から3年程度に存続期間を限定することが適切です

    (例)
    ただし第●条(※)については、本契約の終了後1年間に限る。
    ※秘密保持義務の規定

3、秘密保持契約が無効になり得るケース

秘密保持契約の内容が不合理である場合は、公序良俗違反(民法第90条)によって一部の条項が無効となる可能性があります
以下では、秘密保持契約の条項が無効になり得る場合を解説します。

  1. (1)当事者に過剰な秘密保持義務を課す場合

    秘密保持義務の内容が社会通念に照らして過剰であり、当事者にとって順守があまりに困難なものが含まれている場合には、過剰な部分が無効となるおそれがあります。

    たとえば以下のような秘密保持義務を定める規定は、公序良俗違反によって無効となる可能性があるのです。

    • 公知の情報を秘密保持義務の対象とするもの
    • 行政機関などの権限ある機関からの開示要請があった場合にも、秘密情報の開示を禁止するもの
    • 秘密保持義務違反に対して、あまりにも高額の違約金を課すもの
  2. (2)秘密保持義務の存続期間が長すぎる場合

    秘密保持義務の存続期間があまりにも長すぎる場合(永久とする場合も含む)には、存続期間が相当の期間に限定される可能性があります。

    どの程度の存続期間が「長すぎる」と判断されるかは一概にいえませんが、取引終了後10年間以上も秘密保持義務が存続するとされている場合は、「長すぎる」と評価される可能性が高いといえます

4、契約書の作成やレビューは弁護士に相談

秘密保持契約を含めて、企業は多数の契約を締結します。
契約は、当事者間に法律上の権利義務を生じさせる重要な書面です。
そのため、契約の締結にあたっては、その内容をきちんとチェックすることが大切です。
契約書の作成およびレビュー(チェック)については、法律の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士は、取引の内容に応じて契約条項を検討しながら、適切な内容の契約書を作成することができます。
また、相手方から提示されたドラフトについて隅々までチェックすることで、クライアント企業が不当なリスクを負わないように修正案などをアドバイスすることもできます。

契約書のリーガルチェックは、取引相手との間で対等な関係性を構築して、トラブルのリスクをコントロールするという観点からも、非常に重要な行程です。
重要な点については、契約交渉を介して意思疎通を図っておくことにより、そもそもトラブルの発生自体を防げる可能性も高まります。
顧問契約を締結した弁護士には、契約書の作成やレビューを、いつでも依頼することができます。
取引相手と契約を締結することが多い企業は、顧問弁護士との契約も検討しましょう

5、まとめ

秘密保持契約の有効期間を永久としてしまうと、秘密保持義務の順守や契約管理などについて、当事者の負担が重くなりすぎることが懸念されます。
したがって、秘密保持契約を締結する際には、適切な有効期間を定めることが望ましいといえます。

秘密保持義務の契約期間を定める条項には、自動更新条項と存続条項を定めるのが一般的です。

自動更新条項では、契約終了を申し入れる際の手続きや、自動更新後の有効期間などを定めましょう。
存続条項では、秘密情報の返還・破棄、損害賠償、準拠法・合意管轄などについて、契約終了後も効力が続く旨を定めます。
秘密保持義務全般についても存続条項の対象とする場合は、自社の負担が重くなりすぎないように、契約終了後1年間から3年間程度に限定することを求めましょう。

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