辞めさせたい社員への対処法。解雇が難しくても穏便に辞めてもらうには?
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会社経営者や人事担当者は、何らかの理由で辞めさせたい社員に頭を悩ませることがあります。しかし、解雇の条件が厳しいことはご存じでしょう。京都地方裁判所でも平成30年10月に、市内にある会社の元社員が受けた懲戒解雇処分に対し、無効判決が言い渡されています。
過去のさまざまな裁判でも解雇無効の判決がくだされていることから、解雇については労働者保護の観点が強く働いていることがわかります。それでも、問題行動をする辞めさせたい社員であれば、絶対に辞めさせられないわけではありません。
この記事では、解雇の条件やルール、自主退職を促す重要性と方法を、京都オフィスの弁護士がお伝えします。
1、社員を辞めさせることが難しい法的根拠とは
労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由、社会通念上相当性のない解雇は無効とされています。
労働基準法やそのほかの関連法によっても、個別に解雇できないケースが規定されています。該当すると、客観的合理的理由や社会通念上相当性を問うまでもなく、解雇は無効となります。
たとえば次のような解雇は禁じられています。
- 業務災害で休業する期間、産休中およびその後30日間の解雇(労基法第19条)
- 労働者が会社の労基法違反を行政官庁に届け出たことを理由とする解雇(労基法第104条)
- 国籍、信条、社会的身分にもとづく差別的解雇(労基法第3条)
- 女性が結婚、妊娠、出産、産休取得をしたことを理由とする解雇(雇用機会均等法第9条)
- 育児休業・介護休業の取得や申し出をしたことを理由とする解雇(育児介護休業法第10条、16条)
2、解雇の種類と条件
客観的合理的理由と社会通念上相当性がある解雇とは、ごく簡単にいえば「誰がどう見ても解雇に値する」状態のことですが、解雇の種類ごとに条件が異なります。
解雇は大きくわけると「懲戒解雇」「普通解雇」の2種類があります。
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(1)懲戒解雇
労働者が重大なルール違反を犯した場合に科される制裁的な解雇です。具体的には、犯罪行為や経歴詐称、パワハラやセクハラなどが該当します。
本来は懲戒解雇にあたる場合でも、情状酌量の余地がある労働者に対し、まずは退職勧奨を行ってから解雇処分とすることがあります。これを「諭旨解雇」「諭旨退職」などと呼び、会社の温情的な措置です。
諭旨解雇では退職金が全額支払われるなど、通常の懲戒解雇よりも軽い処分になるケースもあります。ただし、あくまでも懲戒解雇のひとつであるため、のちに労働者との争いの原因になることがあります。 -
(2)普通解雇
普通解雇とは、懲戒解雇以外の解雇のことで、一般的には能力不足や業務態度の悪さなどを理由にするケースが多くみられます。
しかし、多少の能力不足や数回の遅刻などを理由に普通解雇にすることはできません。行為の内容、労働者の落ち度、悪意や故意の有無、会社が被った損害など、さまざまな要素が考慮されます。
会社は、改善・教育のために段階的措置を施すことが求められます。具体的には、適切な指導、配置転換や研修、解雇前の減給処分などを実施することになるでしょう。最終的には裁判で解雇の正当性が判断されますので、そのハードルはかなり高いと考えられます。
さらに、普通解雇の中には会社の業績不振や経費削減を理由にした「整理解雇」もあります。整理解雇は、次の4要件を満たさなければ実施することはできません。
- 人員削減の必要性
- 会社の解雇回避努力
- 人選の合理性
- 手続きの妥当性
3、社員を辞めさせるときのルールとは
前述のとおり、能力不足やパーソナリティに問題があるなどの理由で、労働契約法16条の条件(客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性であること)を満たしていて辞めさせたい社員がいたとしても、労働基準法のルール・手順に従って解雇しなくてはなりません。
①就業規則を作成して周知しておく
まずは、「これをすると解雇になる」という解雇事由を就業規則に明記し(労働基準法89条)、労働者に周知させておく必要があります(労働基準法106条)。周知とは、就業規則を各事業所の見やすい場所に備え付けることや各々に書面で交付することなどを指します。万が一の場合にスムーズに辞めてもらうための下準備ともいえるでしょう。
②解雇予告をする
会社が労働者を解雇するとき、少なくとも30日前までに予告しなければなりません(労働基準法20条)。予告しないで辞めさせる場合には、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。これを、解雇予告手当といいます。両者を組み合わせることも可能で、たとえば20日前に予告をする場合、あわせて10日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
さらに、労働者が解雇の理由について証明書を求めてきた場合、会社は速やかに交付しなくてはなりません(労働基準法22条)。
4、辞めさせるのではなく社員の自主退職を促す
ここまでの内容で、労働者を辞めさせることは決して簡単ではないことをご理解いただけたでしょう。後々のトラブルを避けるためにも、たとえ時間がかかってでも、労働者と話し合い、労働者が自らの意思で辞めてもらうことが望ましいといえます。
なぜなら、万が一トラブルになってしまうと、それを解決するのに1年以上かかるケースも少なくありません。
トラブルを解決するのに相当時間とストレスとコスト(トラブル対応する担当者の人件費、場合によっては解雇した労働者に対して相当の解決金を支払わなければならないこともあります)がかかるからです。
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(1)解雇よりも自主退職がよい理由
自主退職であれば、解雇の厳格な条件を満たす必要がありません。何より労働者にネガティブな感情を抱かせないで済みます。
どのような解雇でも「解雇」である以上、労働者は「辞めさせられた」と感じるものです。その感情は、労基署への通告や訴訟の提起、損害賠償請求、会社の内情をSNSで拡散するなどの行動に発展しかねません。
他の労働者にとっても、解雇者が出たことは会社への不信感を抱く原因となります。しかし、自主退職であればある程度回避できます。 -
(2)退職勧奨の方法と注意点
退職を促し自主的に辞めてもらうことを退職勧奨といいます。しかし、労働者にはこれに応じる義務がない点で解雇とは明確に異なります。そのため、解雇が無理なら退職勧奨をして何とか辞めさせたいと感じるかもしれません。しかし、退職勧奨もやり方によっては違法になりますので注意が必要です。
たとえば、次のようなやり方では退職を強要したとみなされるおそれがあります。
- 長時間の面談を連日にわたり頻繁に行う
- 応じない場合の制裁的措置や解雇をちらつかせる
- 暴力や脅迫めいた言葉を用いる
穏便な説得の方法としては、会社がこれまで雇用を継続させるために努力してきたこと、働き続けることは可能だが希望の仕事がないなどデメリットが多いことを伝えます。
一方的に伝えるのではなく、労働者の意見にもよく耳を傾け、あくまでも本人が納得して辞めてもらうことが大切です。場合によっては退職金の増額や求職休暇、再就職先の紹介なども提示し、辞めることのメリットを感じられるようにしましょう。
5、まとめ
今回は、辞めさせたい社員がいる経営者や人事担当者の方に向けて、解雇の条件や穏便に退職を実現させる方法を解説しました。
解雇は労働者の生活の糧を奪う行為であり、会社にとってもトラブルの原因となりやすいことから、慎重さを要します。労働者の感情に配慮した働きかけが必要な点はもちろん、法的知識も求められます。どうしても必要だと考えられるときは、弁護士などに相談してすすめた方がよいでしょう。
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