バイトテロでネット炎上!? アルバイトに対して損害賠償は請求できるのか?
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飲食店やコンビニなどでアルバイト従業員が悪ふざけをし、その様子をインターネット上に公開することで騒動が起きるバイトテロ事件が多発しています。平成31年2月には京都新聞も社説で、一連の事件に対してネット教育の必要性を訴えていますが、現実的な対処方法を策定することは難しいと考えられます。
そこで今回は「雇ったアルバイト従業員が不祥事を起こした場合に損害賠償を請求できるのか?」「撮影者や親に対する請求は可能か?」といった点について京都府の弁護士が解説します。
1、多発するアルバイト従業員の不祥事
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(1)「バイトテロ」とは
「バイトテロ」とは、アルバイト従業員が勤務先で悪ふざけを行い、その様子を撮影してSNSなどインターネット上に投稿した結果、企業や店舗の評判が損なわれることをいいます。
この「バイトテロ」との表現は、突発的に行われ、防ぐことが難しく、企業や店舗にとっては深刻なダメージを与えるなど破壊力が高いことから呼称されるようになった日本独自の造語です。 -
(2)バイトテロの例
バイトテロの行為態様はさまざまです。
以前、コンビニ店でアルバイト従業員が、アイスクリームなどを販売する冷蔵ケースに入った様子を撮影してSNSに投稿して大きな騒ぎとなったことを覚えている方もいるでしょう。
そのほかにも、以下のような行為を撮影してSNSなどへ投稿するバイトテロが起きています。- ピザの生地を顔面に貼り付ける
- から揚げを床にこすりつけたうえで揚げる
- 客のクレジットカード伝票を掲載する
- 有名人が来店していることをSNSに書き込む
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(3)バイトテロによる損害
悪質なバイトテロによって、コンビニ店がフランチャイズ契約を解除され休業となるケースは少なくありません。そのほかにも、店舗運営者の個人情報が漏えいし、ネット上で広まる事態となるケースもあります。さらには、営業停止に追い込まれる、破産するなど、店舗の存続に関わる被害を受けた事例は少なくありません。
こうした重大な損害以外にも、企業や店舗に以下のような損害が生じると考えられます。バイトテロを行った本人の解雇だけでは済まない、非常に大きな事態となりえるのです。- ブランドイメージの低下
- 謝罪やクレーム対応に取られる時間や費用
- 備品や設備の処分・交換・洗浄費用
- 対応期間中の休業
- 客足の減少
2、アルバイト従業員の不祥事は犯罪に当たる?
バイトテロの行為態様は多岐にわたるので、内容によって問われる罪や求められる賠償責任も異なります。考えられる罪名などを確認していきましょう。
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(1)店舗側が被害者となる罪
まず、信用毀損(きそん)罪、業務妨害罪(刑法第233条、刑法第234条)などが成立する可能性があります。
SNSなどに食材や店の設備を汚損するような行為の撮影動画をアップする行為は、動画を視聴した不特定多数の人に、その企業や店舗が不衛生であるとの印象を与えます。これは虚偽の風説の流布や偽計と見なされる可能性があるでしょう。それにより、販売する商品の品質に対する社会的な信用を棄損したり、クレームの増加や客足の減少が生じれば、信用棄損罪・業務妨害罪が成立する可能性があります。信用棄損罪・業務妨害罪として有罪になれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
そのほかにも、ショーケースや備品が破損したり、使用できなくなるなどのケースに陥れば、器物破損罪が成立する可能性もあるでしょう。 -
(2)店舗側も問われる可能性がある罪
バイトテロでも代表的な、汚染させた食材をお客さまに提供する行為は、食品衛生法違反として処罰を受ける対象となりえます。食品衛生法違反として不利益処分または行政指導が行われると、場合によっては閉店処分や、懲役、罰金などの刑罰を受けることがあるだけでなく、ホームページなどで公表されます。ホームページなどで公表されれば、客足が落ちるなどの不利益を受けることは間違いありません。
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(3)店舗が課される民事上の責任
顧客情報を公開するバイトテロが行われたときは、プライバシー権の侵害として顧客から民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。
たとえば、許可を得ずにお客さまの来店情報を掲載したケースや、クレジットカード情報などをアルバイト従業員がSNSに書き込んだケースでは、店舗運営者が民事責任を問われ、賠償請求される可能性があるでしょう。
また、アルバイト従業員が悪ふざけによって汚染した食材をお客様に提供しそのお客様が食中毒になったケースでも、店舗運営者は民事責任を問われる可能性があります。
3、アルバイト従業員本人や親などへの損害賠償請求の可否
最近は、アルバイト従業員に対する法的措置の検討を表明する企業が増えつつあります。ここではバイトテロを起こした従業員やその関係者に対する損害賠償請求について解説します。
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(1)アルバイト従業員本人に対する責任追及
バイトテロを行ったアルバイト従業員本人に対して民事上の損害賠償責任を追求する場合、追求できる法的根拠は2つあります。
1つは契約違反です。店とアルバイト従業員の間には雇用契約が結ばれているケースがほとんどです。契約の内容には職務に専念する義務や誠実に職務を行う義務などが含まれているはずです。バイトテロは明らかに契約内容に背く行為と見なせるので、債務不履行に基づく損害賠償の請求ができます(民法第415条)。
もう1つは不法行為です。アルバイト従業員が故意または過失によって店に損害を及ぼした場合、原則として損害賠償請求ができます(民法第709条)。
問題は、損害額をどのように見積もるかです。
株式会社で、株価の下落から損害を見積もるのであれば数億円から数10億円に上ると考えられます。しかし、バイトテロが直接的な株価の下落原因であることを証明することは難しいかもしれません。合わせて請求可能な項目は、対応した社員などの人件費、休業分の損失、店舗や汚染された食材や什器の処理代金、弁護士費用など、実際に被害を受けたことを証明できるものの合計金額となるケースが一般的です。
ただし、一介のアルバイト従業員が多額の賠償を行うことは困難をきわめます。そのため、最終的には交渉の末、金額が決まることになるでしょう。満額を一括で受け取れるケースは非常に少ないと考えられます。
また、元々薄給でアルバイトを酷使しているなど使用者側にも問題があれば、その事実が露呈してしまうリスクがあります。損害賠償請求によってさらにいわゆるブラックバイトであったという事実が露見し、企業イメージがさらに低下してしまう可能性は否定できないでしょう。
さらには、損害賠償を請求する場合、その相手と感情的な口論になるなど、さらに大きなトラブルにつながる可能性もあります。そのため、交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(2)撮影者・アップロード者に対する責任追及
バイトテロを起こした本人以外の者が画像や動画をネット上に掲載するケースもあります。当初投稿されたときは何も起きなくても、再び投稿された際、広く拡散されて炎上と呼ばれる状態に陥ってしまうケースもあるでしょう。
撮影・アップロードをした者が同僚のアルバイト従業員だった場合、一体となって行為に及んだと捉えられます。したがって、バイトテロ行為をした者のひとりとして損害賠償請求ができるでしょう。
撮影者や行為者本人とは全く無関係の第三者が画像や動画をアップしたケースでも、その結果、該当の店舗が損害を受ければ、その第三者に対して、民事責任を求めたり、刑事責任を追及したりすることができる可能性があります。 -
(3)親に対する責任追及
未成年者や学生のアルバイト従業員が多額の賠償金を支払うことは現実的に困難でしょう。そうなると、代わりにその親に賠償金を支払ってもらいたいと考えるのが通常です。しかし、アルバイト従業員の親はバイトテロによって発生した法的責任を一切負いません。なぜなら、アルバイトとして勤められる年齢であれば、原則として責任能力(民法第712条)が認められるからです。ただし、道義的責任として、親が賠償請求に応じる可能性はあります。
4、まとめ
今回はアルバイト従業員の起こした「バイトテロ」の例や、損害賠償請求の可否について説明しました。どれほど注意深くアルバイト従業員を選考したとしても、バイトテロのリスクを完全にゼロにすることはできません。気軽に写真や動画を撮り、SNSなどへアップするという風潮が広まっている以上、常に炎上の危険性がつきまといます。
雇ったアルバイト従業員が不適切動画や画像を投稿し、トラブルが生じている場合はベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士までご相談ください。できるだけ損害を少なくする方法を検討し、アドバイスやフォローを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています