法改正により新・担い手3法へ! 建築業者が下請けに対してすべきこととは
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国土交通省の調査によりますと、平成30年3月末現在、京都府内では1万1148件の建設業許可業者が存在します。このなかには、建設業界でよくある元請け・下請け関係にある業者も多いことでしょう。
そのような建設業界で重要な法律である「担い手3法」の改正法案である「新・担い手3法」が、令和元年6月の国会で可決成立・公布されることになりました。平成26年に担い手3法が制定されてから、約5年ぶりの大幅改正となります。
新・担い手3法は、建設業界を取り巻く働き方改革や生産性向上、災害時の対応など、さまざまな課題を解決することを目的としています。そして、建設業を営む以上は新・担い手3法を順守した経営が求められることは言うまでもありません。特に、元請け業者として仕事を下請け業者に発注している建設業者には、今回の新・担い手3法は極めて重要です。
そこで本コラムでは、新・担い手3法の概要と元請け業者として注意しなければならない点、そして新・担い手3法に対応するうえで望ましい方法について、ベリーベスト法律事務所ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、担い手3法とは?
担い手3法とは、建設工事に従事する人材を確保・育成するための法律で、以下の3つの法律から構成されています。
- 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)
- 建設業法
- 建設業法および公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律(入契法)
平成26年6月、建設業の人材に関連する建設業法・品確法・入契法の3つの法律が一体的に改正され、「担い手3法」と呼ばれるようになりました。
そして平成31年3月、担い手3法の改正を目的とする「建設業法および公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、令和元年6月に国会で可決成立・公布されたのが、いわゆる「新・担い手3法」です。
なお。令和元年12月現在、すでに改正後の品確法は施行済みですが、改正後の建設業法と入契法は令和2年秋以降に施行の見込みです。
2、新・担い手3法の目的とは?
新・担い手3法の目的や背景は、「働き方改革の推進」「生産性向上への取組」「災害時の緊急対応強化」「持続可能な事業環境の確保」「調査・設計の品質確保」の5つに大別されます。以下でそれぞれの概要や具体的に盛り込まれた施策についてご説明します。
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(1)働き方改革の推進
建設業界では、十分な工期が確保されないことで長時間労働や休日すら取ることができないことが常態化しているようです。
その是正のため、「働き方改革関連法」の成立により、公共工事にかぎらず長時間労働の是正や労働者の処遇改善などのような働き方改革の促進を目指すものとしています。たとえば、中央建設審議会により工期に関する基準が作成されており、短期工事による労働者への過度な負担を減らす施策がとられています。
また、労働者への処遇面では、建設業許可の基準の見直しにより社会保険への加入を要件化、さらに下請け代金のうち労務費相当分については現金で支払うものとの規定が設けられています。
なお、建設業では令和6年から働き方改革関連法による労働基準法の改正により、時間外労働の上限規制が罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)付きで適用されることになります。 -
(2)生産性向上への取組
建設業および公共工事の持続可能性を確保するため、働き方改革の推進と併せ、生産性の向上を図るものです。その施策として、現場レベルでは主任技術者の配置義務の合理化や監理技術者の選任義務の緩和が図られています。
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(3)災害時の緊急対応強化
近年は大規模な自然災害が相次いでいることを考慮し、災害が起きたときに対応するための担い手を確保・育成し、災害復旧工事などを迅速かつ円滑に実施するための体制を整備することを目的としています。
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(4)持続可能な事業環境の確保
少子高齢化の流れを受け、地方部を中心に建設業者が減少しつつあり、後継者難も重要な問題となりつつあります。そのため、建設業の許可に係る承継に関する規定の整備などにより、合併や事業承継などにおいて事前認可の手続きにより円滑に進めることができる仕組みが構築され、事業を承継する「守り手」が活躍しやすくなる環境の整備を図っています。
また、経営業務について多様な人材を確保するために、これまでは建設業経営について過去5年以上の経験者が役員にいないと建設業の許可が得られないとする規制が見直され、「事業者全体として適切な経営管理責任を有すること」と経営業務管理責任者に関する規制を緩和しています。 -
(5)調査・設計の品質確保
測量、地質調査、点検、診断、設計など公共工事に関する調査・設計は重要です。公共工事の品質確保を図るうえでも、調査・設計の品質も併せて確保・向上を目的としています。
3、下請けに対して気を付けるべきこと
上記のような新・担い手3法の目的を考慮すると、建築業者が下請け業者に対して課せられる責務および気を付けるべきことは以下の点と考えられます。
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(1)働き方改革の推進
下請け業者の労働者に長時間労働などの過度な負担が発生しないように、発注者として以下の責務が課せられることになっています。
- 著しく短い工期による請負契約の締結は、原則禁止
- 発注者は休日や準備期間、天候などを考慮した工期の適正化を図ること
- 発注者は繁忙期や発注の集中などを考慮したうえで、債務負担行為や繰越明許費などを活用した施工時期の平準化、中長期的な発注見通しの作成および公表などを行うこと
- 設計図書の変更により工期が翌年度にわたる場合、発注者は繰越明許費などを活用すること
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(2)生産性向上への取組
生産性の向上にあたっては、I-ConstructionやBIM(Bilding Information Modeling)、CIM(Construction Information Modeling / Management)など情報通信技術の活用拡大が推奨されています。
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(3)災害時の緊急対応強化
災害が発生したときの緊急対応を充実・強化するために、以下の責務が発注者に課されることになります。
- 緊急性に応じて随意契約や指名競争入札など、適正な契約・入札方法を選択すること
- 建設業者団体と災害協定を締結したうえで、災害時には発注者間で連携すること
- 災害発生時の見積もり徴収などを活用し、下請け業者の労働者の労災補償に保険契約の保険料を予定価格へ反映させること
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(4)調査・設計の品質確保
改正後の品確法では、その基本理念および発注者・受注者の責務の各規定に「公共工事に関する測量、地質調査その他の調査および設計」が追加されています。
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(5)不利益な取り扱いの禁止
建設業法改正法第24条の5では、下請け業者が以下の元請け業者による違反行為を通報したことを理由に、下請け業者に対して不利益な取り扱いをすることを禁止しています。
- 不当に低い請負代金(建設業法第19条の3)
- 不当な使用資材などの購入強制(同法第19条の4)
- 下請け代金の期間内の支払い義務違反(同法第24条の3第1項)
- 期間内に検査および引き渡しを受ける義務への違反(同法第24条の4)
4、顧問弁護士を付けるメリット
これまでご説明したように、新・担い手3法では発注者としての元請け業者に対する規制を厳しくしています。たとえば、新・担い手3法の趣旨に反し、著しく短い工期で下請け業社に発注した元請け業者は、国土交通大臣や都道府県知事から勧告や指示処分を受け、それに従わない場合は公表されうる等の大きなリスクがあります。
つまり、新・担い手3法は元請け業者にとって法的リスクだけではなく風評リスクを伴うものなのです。「知らなかった」では済まされず、元請け・下請けに関係なく、改正法案は建設業者にとって非常に重要なものであるとの認識が必要です。
また、建設業者、特に元請け業者には新・担い手3法のほかにも下請法など、建設事業を運営していくうえで関係してくる法律は多々あります。それを知らずに法令違反を犯すと行政処分や刑事処分を受けたり、最悪の場合は建設事業を続けることすらできなくなるおそれもあります。建設業者にかぎらず、企業が普段から必要な法令順守体制を整えておくことは、事業の継続においてとても重要なのです。
そこで、ぜひ顧問弁護士の活用をおすすめします。
顧問弁護士とは、弁護士に一定の顧問料を支払うことで、締結した顧問弁護士契約の範囲内で顧問先の法務関連業務に対応する弁護士のことです。
また、顧問弁護士は顧問先に専属性のある弁護士として、紛争の相手方からは依頼を受けません。さらに、顧問先からの承諾がないかぎり顧問先の競業相手からの依頼は受けないと取り決めることもできます。このように、顧問弁護士は顧問先にとって専属性がある法律面での心強いパートナーになります。もちろん、新・担い手3法のような法改正にもタイムリーにキャッチアップし、顧問先をサポートします。
5、まとめ
これまでご説明したように、新・担い手3法のような新しい法律にタイムリーに対処するためには、顧問弁護士の活用をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 京都オフィスでは、ワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しており、顧問弁護士契約締結先からは日ごろから多種多様な法務相談を承っています。顧問弁護士契約をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています