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従業員への貸付金は給与から天引きできる? 賃金支払いの基本ルール

2020年12月22日
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従業員への貸付金は給与から天引きできる? 賃金支払いの基本ルール

京都府では新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業者にむけ、さまざまな支援制度を実施しています。コロナ禍を経て、多くの企業が生き残りをかけて自社の制度の見直しや改革に向けて取り組んでいます。それは従業員への福利厚生についても同様です。
福利厚生のうちのひとつに従業員への貸付制度があります。貸付金の返済方法については法律で決められたものがあるわけではありませんが、従業員への毎月の給与から天引きするという方法があります。
本コラムでは、労働関連法令で定められている賃金支払いの基本ルールや従業員への貸付金を給与から天引きする方法と注意すべき点について、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。

1、従業員が会社からお金を借りるケース

会社員がお金を借りたいと思った場合には、金融機関からの借入れが一般的です。
同じように会社が福利厚生の一環として、従業員にお金を貸す「従業員貸付制度」というものを導入している場合があります。金融機関の融資と比べ、借入れの利用条件などの審査は甘めで、低金利であるのも福利厚生ならではの特徴です。
従業員は、主に以下のような目的でこの制度を活用します。

一般的な融資 災害、医療、結婚、出産、葬儀、教育、その他の生活する上での資金として
住宅関連の融資 従業員が住宅を購入するための借り入れ
教育関連の融資 従業員の子どもの進学、受験準備に必要な資金の借り入れ
持ち株に関する融資 従業員が自社株を購入するための資金として

2、給与の天引きは違法とされる可能性がある?

労働基準法における給与とはどのようなものでしょう。
賃金は「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています(労働基準法第11条)。労働者の福利厚生のための貸し付けや出張の際に発生した旅費のような必要な経費の精算は、賃金には該当しません。
また、賃金の支払い方法については、「賃金支払いに関する5原則」が規定されています(労働基準法第24条)。これは労働者に対して賃金の確実な支払いを確保し、生活を安定させることを目的としています。
賃金支払いに関する5原則の概要は、以下のとおりです。

①通貨払いの原則 賃金は通貨で支払わなければならず、現物給付は原則として不可
②直接払いの原則 賃金は労働者に直接支払われなければならず、親権者等の代理人に支払うことは不可(ただし、労働者本人が病気の場合に配偶者などの使者に支払うことは可)
③全額払いの原則 賃金は全額支払われなければならず、使用者が勝手に一部を控除して支払うことは原則として不可
④毎月1回以上払いの原則 賃金は毎月1回以上支払われなくてはならない
⑤一定期日払いの原則 賃金は一定期日に支払われなくてはならない

会社が福利厚生の貸付制度を利用した従業員への貸付金を、賃金から天引きすることは③全額払いの原則に反し違法となる可能性があります。

3、給与の天引きが許される例外とは?

原則的に会社が従業員の給与の天引きは違法にあたる可能性がありますが、例外的に許されるケースがあります。

  1. (1)法令で定められた控除

    賃金の支払いに際して雇用主が従業員に断りなく一部を控除することは原則として認められていません。しかし、法令に定められた社会保険料の控除や所得税・住民税の源泉徴収や社宅費や昼食費などのように労使協定や就業規則に基づいたものであれば、賃金から控除することが可能です。

  2. (2)給与から貸付金の天引きが許されるケース

    従業員への貸付金に対する給与からの天引きは、法令で定められた控除には該当しません。したがって、従業員への貸付金について返済を受ける場合は、いったん給与全額を従業員に支払ったうえで従業員から返済を受けるという方法が原則です。

    これは貸付金だけではなく、たとえば従業員が社用車で自損事故を起こして会社が損害を受けたとき、従業員の給与から会社が損害賠償として修理代を天引きする場合なども同様です。
    しかし、労使協定で「従業員に対する会社からの貸付金の返済は、毎月の給与から控除するものとする」などと合意し、その旨を就業規則に明記すれば従業員への貸付金を毎月の給与から天引きすることが可能になります。

  3. (3)給与からの天引きの上限とは?

    毎月の給与から天引きすることが可能になった場合でも、その金額の上限は、「給与額の4分の1」となります
    民事執行法第152条第1項2号によって、「差押禁止債権」としてその支払い期日に受けるべき給与の「給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない」と定められているからです。
    また、民法第510条では「債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」と規定しており、差し押さえが禁止されている債権、つまり給与の4分の3は現実に支払われなければならないものとして会社の債権である貸付金と相殺することを禁止しています。

4、就業規則を変更するためには?

従業員への貸付金を給与から天引きすることができるように就業規則を変更するためにはどのようにすればよいのでしょうか。

  1. (1)従業員にとって有利な変更である場合

    従業員にとって有利になるような就業規則の変更を行う場合は、就業規則を作成したときと同様、従業員の代表または過半数組合等から意見を聞いたうえで「意見書付き」の届け出を所轄の労働基準監督署長あてに提出します(労働基準法第90条)。

  2. (2)従業員にとって不利な変更である場合

    就業規則の不利益変更の代表的な例としては、休職期間の短縮、賃金の引き下げ、退職金支給額の減額、労働時間の延長、などがあります
    従業員にとって不利益となる就業規則の変更を行う場合は、原則として従業員との合意が必要とされています(労働契約法第8条)。ただし、一定の要件を満たすことで、従業員との合意がなくても就業規則の不利益変更が認められます(労働契約法第9条ただし書き)。
    その一定の要件とは、変更後の就業規則を従業員に周知させることを前提に、就業規則の変更が、

    • 「労働者の受ける不利益の程度」
    • 「労働条件の変更の必要性」
    • 「変更後の就業規則の内容の相当性」
    • 「労働組合等との交渉状況」
    • 「その他の就業規則の変更に関する事情」


    などに照らして合理的なものであることとされています(労働契約法第10条本文)。
    このような要件を満たす就業規則の変更であれば、従業員との合意を得ずに就業規則を変更することが可能とされています。

  3. (3)就業規則の変更の留意点

    就業規則の変更に合理性があると判断される可能性が高いのは、変更についての従業員の不利益性が低く、会社側の必要性が高い場合です。したがって、従業員への貸付金を給与から天引きすることを認める就業規則の変更に合理性があると判断される可能性は低いでしょう。

    ただし、雇用時の労働契約において従業員および使用者が「就業規則の変更」がなされない労働条件として合意していた部分については、原則として変更できません
    これは、「就業規則の定めとは異なる労働条件について個別に合意していた」という場合のほか、「たまたま就業規則に定める労働条件と同じ内容であったとしても、就業規則の変更によって労働条件を変更しない旨を合意していた」と認められる場合も含みます。
    従業員への貸付金を給与から天引きすることについて、このような事前合意があるかについては会社次第ですが、労働契約法における就業規則の不利益変更についてはこのような決まりがあります。
    なお、従業員への不利益変更に該当する就業規則の変更についても、従業員の代表または過半数組合等の意見を集約した「意見書」を、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。

5、まとめ

従業員への貸付金を給与から天引きができるようにするためには、就業規則を変更しなければなりません。
就業規則の変更には、労働関連法令によるさまざまな規制があるため、慎重な対応が必要です。また、従業員の意見などから会社側の思惑通りに進まないかもしれません。
そのようなとき、弁護士が会社の心強い味方となります。企業法務や従業員との交渉およびトラブル解決の経験豊富な弁護士であれば、法的なアドバイスはもちろんのこと、会社側の代理人として従業員と交渉を行うこともできます。
経営者として抱えるお悩みに、幅広く対応可能なベリーベスト法律事務所 京都オフィスまでご相談ください。あなたの会社のために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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