サイトへの悪質な書き込みについて犯人を特定する方法や注意点とは?
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平成27年6月、ネット掲示板に、元交際相手の女性に向けた脅迫容疑で京都府の男が逮捕されました。男は女性に対して「今から殺しに行く」などと書き込んでいたことが報道されています。
5ちゃんねる、爆サイ.com、yahoo知恵袋などの掲示板や、ミラーサイト、まとめサイトなど、書き込みできるサイトは多数存在します。本来はネットユーザー同士のコミュニケーションの場でも、その枠を超えて悪用されてしまい、犯罪の手段として使われるケースがあります。根も葉もないうわさや個人情報を書き込まれ、頭を悩ませている方も少なくないでしょう。根本的な原因を特定しなければ瞬く間に拡散されていく懸念もあります。
ネット上の書き込みに悩む方の中には、長年にわたって精神的な苦痛を被っている方や、社会的な評価、仕事上の信用を下げてしまった方もいます。犯人を特定して責任を問いたい、損害賠償を求めたいと望むことは当然のことです。
今回は、書き込みサイトで悪質な投稿をする犯人を特定する方法と注意点を、京都オフィスの弁護士が解説します。
1、警察は動いてくれるのか
冒頭の事例は脅迫罪に該当する可能性が高く、被害者に危険が迫っていると考えられる悪質なケースです。警察が動いたことも自然な流れですが、書き込みによる名誉毀損(きそん)や誹謗中傷などの場合、よほど悪質でない限りはすぐに対応してもらえないことも珍しくありません。
ネット上の犯罪は立証のために複雑なIT知識が必要で、そもそも犯罪に該当するかどうかも判断が難しいケースが多いという現状もあります。もちろん、警察に相談することも方法のひとつです。しかし、状況によっては自分自身で知識を備え、弁護士などの専門家のサポートを受けながら対処することを検討する必要もあるかもしれません。
2、個人で犯人を特定するのが難しい理由
一般的に、書き込みをした犯人を個人で特定することは難しいといわれています。なぜならば、任意請求の有効性と表現の自由が問題となるためです。
任意請求の有効性が認められるためには、自己の権利を侵害されたことが明らかであるだけでなく、任意請求を行うための正当な理由の存在が求められます。これは、あなた自身が正当な理由が存在すると感じるだけでは認められにくいものです。第三者から見ても正当な要求であることを認められるような理由を説明する必要がある点に注意が必要です。
また、憲法で認められた「表現の自由」の保障との関係もありますので、あなたにとって不快な投稿であっても、必ずしも違法な権利侵害とは限らないのです。
それでも、個人で犯人を調べようとする場合は、まずはサイト管理者に対して、任意での情報開示を求めます。管理者が犯人の個人情報を知っている実名サイトの場合は、管理者が犯人に対して情報開示が可能かどうかを確認します。しかし、犯人が開示に応じる可能性は極めて低いと考えてよいでしょう。
匿名サイトの場合は、管理者は犯人の個人情報を把握していません。管理者が把握している情報は、IPアドレスやタイムスタンプなどの記録のみです。こちらも管理者が任意で情報開示に踏み切る可能性は低いと考えられます。
3、書き込みサイトで犯人を特定する方法
個人で犯人を調べることが難しいときは、裁判上の手続きを視野に入れる必要があります。悪質な書き込みをした犯人を特定する際の流れは、以下のとおりです。
- ①情報開示の可能性を判断する
- ②証拠を保存する
- ③IPアドレスを入手する
- ④プロバイダを特定する
- ⑤犯人の個人情報を入手する
それぞれの項目について解説します。
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(1)情報開示の可能性を検討する
まずは問題の投稿が犯人を特定できる案件に該当し、情報を開示してもらえる可能性があるのか否かを検討します。裁判を起こして犯人を特定しようとしても、正当な理由がなければ裁判所が開示を認めないことがあり、時間や労力が無駄に終わってしまうためです。
犯人の情報が開示される可能性があるのは次のようなケースです。
- 許可なく個人が特定できる写真をアップされた
- フルネームや自宅住所などを記載された
- 名誉毀損(きそん)にあたる書き込みをされた
- 社会的な評価を下げる虚偽の情報を記載された
前述のとおり、開示されるためには第三者から見ても正当な理由があると認められる必要があります。したがって、他人が見ても本人のことを指しているかどうかわからない書き込みであれば、正当な理由があるとは認められず、情報は開示されません。
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(2)証拠を保存する
裁判所から仮処分決定を出してもらうためは、「権利の侵害にあたる投稿である」という明確な証拠が必要です。
最も明確な証拠としては、書き込みサイトの中で該当するページのURLやWebページのPDFなどです。しかし、それだけでは十分な証拠とならないこともあります。たとえばニックネームなどで書き込まれているような場合には、一般のユーザーが本人だと識別できる証拠として、別の投稿を集める必要もあるかもしれません。 -
(3)IPアドレスを入手する
証拠を保全したら、次に発信者のIPアドレスなどを入手します。サイト管理者は任意の請求には応じないことがほとんどですから、裁判所へ「発信者情報開示仮処分命令申し立て」を行います。
サイト管理者に対して開示命令を出してもらうことで、発信者のIPアドレス、タイムスタンプを手に入れることができます。 -
(4)プロバイダを特定する
IPアドレスなどの情報を元に、書き込みの犯人が契約しているプロバイダを特定します。
匿名サイトで発信者の個人情報を持っているのはプロバイダであるため、プロバイダから犯人の個人情報を教えてもらう必要があるからです。 -
(5)犯人の個人情報を入手する
犯人が契約しているプロバイダが判明したら、プロバイダに対して犯人に関する情報開示を求めます。開示請求者が個人であれば通常は拒否されます。しかし、プロバイダによっては、弁護士を通じた任意の開示請求に応じることがあります。もし任意で応じてもらえないときは「発信者情報開示請求訴訟」を起こし、投稿者の氏名、住所などを開示させることになるでしょう。
4、犯人特定や投稿削除で知っておきたい注意点
書き込みサイトでの犯人特定や投稿を削除するにあたり、気をつけるべき点を解説します。
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(1)速やかな行動と記録消去を回避する手続きを
一般的に、犯人特定に必要な記録は、投稿から3ヶ月から6ヶ月ほどで消えてしまいます。また、悪質な投稿が他のネットユーザーによって拡散されてしまえば、被害が深刻化するおそれは十分に考えられます。これらの事情から、犯人を特定したい場合は速やかに動きだす必要があります。
なお、記録の消去を回避するための手続きとしては、裁判所に対して「発信者情報消去禁止仮処分命令申し立て」を行います。これにより、裁判所からプロバイダへ、記録の消去を禁止する命令を出してもらうことができます。
いずれにしても、インターネット上の誹謗中傷などに対応する際は、早急に行動を起こしたほうがよいでしょう。 -
(2)削除代行業者には要注意
書き込みサイトに悪質な書き込みをされてしまうと、まずはその投稿を削除してもらいたいと考えるでしょう。このとき、削除代行業者の存在には注意が必要です。
書き込みサイトへの投稿の削除依頼は、法律上の権利問題を含む行為です。弁護士ではない者が報酬を得る目的で対応することはできません。弁護士法第72条に抵触する「非弁行為」となる可能性があるからです。
また、削除業者の中には、「合法です」「当社提携の弁護士が削除します」などとうたっておきながら、実際には弁護士以外の者が行う悪質業者も存在します。そのような違法行為に手を染める業者へ個人情報を渡すことは非常に危険です。その後どのような悪影響が生じるかわからないからです。
削除依頼を自分で行わないときは、弁護士に依頼するほうが安全でしょう。 -
(3)裁判を個人で起こすことは困難
正当な手続きを踏むことで犯人を特定し、問題の根本解決につながる可能性は十分にあります。それでも、仮処分申請や情報開示請求などの裁判上の手続きは難解で時間もかかり、その間にも投稿が拡散されていくリスクは否めません。そのため、できる限り早いタイミングで弁護士に相談することを強くおすすめします。
確かに、弁護士費用はかかります。しかし、弁護士を通じて損害賠償を請求すれば、弁護士費用を賄えるケースもあるでしょう。何より、弁護士を介することで犯人特定の確実性が高まるため、いち早く安心した生活を取り戻すことができます。
5、まとめ
今回は、悪質な書き込みを行う投稿者を特定する方法と注意点を解説しました。
ネット上の書き込みに対しては、IT知識と法律知識の双方が求められます。何よりも迅速に対応したほうがよいケースも少なくなく、個人では手続きが難しい面が大きいものです。したがって、できるだけ早く弁護士に相談したほうがよいでしょう。
弁護士であれば、書き込みサイトへの投稿が権利侵害にあたる内容なのかなどの判断はもちろん、犯人情報の開示可能性があるのかなど、実際の開示請求手続きまで対応可能です。
ベリーベスト法律事務所・京都オフィスでも相談をお受けします。書き込みサイトの投稿でお困りであれば、ぜひお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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