配偶者居住権はいつから施行される? 時期と内容を弁護士が解説

2020年02月21日
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配偶者居住権はいつから施行される? 時期と内容を弁護士が解説

2020年4月から「配偶者居住権」に関する規定が施行されます。
配偶者居住権を取得すると、被相続人の配偶者だった方は被相続人が亡くなった後も家に住み続けることができるので老後も安心して暮らせます。

京都にも高齢のご夫婦がたくさんいらっしゃいますので、配偶者居住権に高い関心を持つ方もおられるでしょう。
今回は配偶者居住権の内容や注意点など、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士がわかりやすく解説いたします。

1、そもそも配偶者居住権とは

「配偶者居住権」とはどういった権利なのでしょうか?

  1. (1)配偶者居住権の基本

    配偶者居住権は、被相続人と同居していた配偶者が、相続開始後に取得できる「家に住み続ける権利」です。
    家の所有権がなくても配偶者居住権を取得すれば家に居住できるので、退去を求められる心配がありません。
    配偶者が「配偶者居住権」を取得して子どもが家の「所有権」を取得すれば、「所有権」と「居住権」を分けて相続できます。

  2. (2)配偶者居住権が認められる条件

    配偶者居住権が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

    ・相続開始時に被相続人が家を所有していた
    被相続人が亡くなった時点において、被相続人が家を所有していたことが必要です。被相続人と第三者が共有している物件については配偶者居住権が認められません。
    ただし、被相続人と配偶者の共有物件の場合には配偶者居住権が認められます。

    ・相続開始時に配偶者が家に居住していた
    相続開始時、配偶者が家に居住していたことが必要です。

    ・遺産分割や遺贈によって配偶者が配偶者居住権を取得した
    遺産分割協議、遺産分割調停や審判、あるいは遺贈によって配偶者が配偶者居住権を取得する必要があります。遺言がないならきちんと遺産分割しない限り、配偶者居住権が自然発生することはありません。

2、配偶者居住権の施行はいつから?

相続法改正による配偶者居住権の制度が施行されるのは、2020年4月1日です。よって2020年4月1日以降に相続が発生したケースにおいて、配偶者居住権が発生します。

それ以前に被相続人がお亡くなりになった事案では配偶者は配偶者居住権を取得できないので注意が必要です。

3、配偶者居住権の取得方法

配偶者居住権を取得するには、遺産分割において配偶者が自ら取得するか、遺言によって被相続人が配偶者に取得させる必要があります。

  1. (1)遺言によって取得させる方法

    被相続人が「〇〇の自宅については配偶者△△に配偶者居住権を取得させる」と遺言書に書いておけば、配偶者は配偶者居住権を取得できます。できればご夫婦で生前に話し合い、配偶者の希望を聞きましょう。配偶者が配偶者居住権の取得を希望するなら、自筆証書遺言や公正証書遺言を使って遺言書を残しておくとよいでしょう。

  2. (2)遺産分割によって取得する方法

    遺言がない場合の遺産相続では、相続人たちが遺産分割協議を行い、誰がどの相続財産を取得するか決定する必要があります。話し合いで全員が合意すれば、配偶者は配偶者居住権を取得できます。

    遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てます。調停で配偶者が配偶者居住権を取得することに全員が合意すればその合意は有効となります。

    調停でも話がまとまらない場合、遺産分割調停は「審判」に移行します。審判官が「配偶者に配偶者居住権を取得させる」とする決定を出せば、配偶者は配偶者居住権を取得できます。
    配偶者居住権も権利の一種なので、不動産の所有権などと同様に遺言や遺産分割手続きによって取得できるということです。

4、配偶者居住権の注意点

配偶者居住権に関しては、以下のような点に注意が必要です。

  1. (1)内縁の配偶者には認められない

    婚姻届を提出していない内縁の配偶者には配偶者居住権が適用されません。内縁の配偶者にはそもそも一切の相続権が認められていません。内縁の配偶者に家を残したいなら、遺言によって家の所有権を与えるか生前贈与しておく必要があります。

  2. (2)相続税が発生する

    配偶者居住権には「財産的な価値」があります。配偶者は基本的に一生家に住み続けることができるので「家を無償で借りている」のと同じ状態になります。
    そのため、家の評価額に応じて配偶者居住権の価額を計算し、それに対応した相続税を払わねばなりません。
    家の所有権を取得するよりは税額が低くなりますが、無税で取得できる権利ではないので注意が必要です。

  3. (3)配偶者短期居住権とは異なる制度

    配偶者居住権制度の施行と同時に「配偶者短期居住権」という制度も施行されます。
    配偶者居住権と配偶者短期居住権はまったく別個の制度です。

    配偶者短期居住権は被相続人が亡くなった後、同居していた配偶者が6か月または遺産分割の方法が決定するまでの間のどちらか長い方の期間、家に住み続ける権利です。これは遺言や遺産分割などを行わなくても当然に認められるものであり、財産的価値がないので相続税もかかりません。
    配偶者居住権と混同しないよう注意してください。

  4. (4)配偶者居住権を取得したら登記しよう

    配偶者居住権は「登記」できる権利です。登記は配偶者と不動産の所有者が共同で行う必要があります。

    登記は法的な義務ではありませんが、登記しておかないと第三者に権利を主張できません。たとえば子どもが家の所有権を取得したとき、子どもが第三者へ家の所有権を売却してしまう可能性もあります。そのとき配偶者居住権を登記していなかったら、配偶者は買い受け人に権利を主張できず退去を求められてしまうリスクが発生します。

    そのようなことのないよう、配偶者居住権を取得したら必ず登記をすることが大切です。

  5. (5)配偶者居住権は譲渡できない

    一般的な物件に対する所有権なら、物件は権利者が自由に譲渡することができます。しかし、配偶者居住権は配偶者にのみ認められる権利なので、他人に譲渡することはできません。

    配偶者が住み続けるなら一生でも存続させられることのできる強い権利ですが、配偶者の一身に専属するものなので注意が必要です。

5、配偶者居住権のついている物件を売却できるのか?

配偶者居住権のついている物件を取得した場合、所有者は物件を売却できるのでしょうか? たとえば子どもが家の所有権を取得し、母親が配偶者居住権を取得したケースです。

この場合、子どもは不動産を売却できます。ただし母親の配偶者居住権がなくなるわけではないので、売却後も母親は住み続けますし、賃料も支払う必要がありません。よって、買い取り希望者は当然少なくなるでしょうし、売却価額も低くなることが考えられます。

遺産分割協議で子どもなどの相続人が配偶者居住権つきの家の所有権を取得する際、その物件は売却しにくくなることについて、理解しておく必要があります。

6、配偶者居住権の存続期間

配偶者居住権の期間は自由に定めることができます。「配偶者が亡くなるまで」に設定すれば、配偶者は自分が亡くなるまで家を退去する必要がありません。任意で10年や20年などに期間を区切ることも可能です。

7、配偶者居住権のメリット・デメリット

  1. (1)メリット

    配偶者居住権のメリットは、以下の通りです。

    ・家に住み続けることができる
    配偶者が配偶者居住権を取得すると、設定した年数の範囲内であれば家に住み続ける権利が保障されます。その間に家を売却されても出て行く必要はありません。老後に居住場所が維持されるので安心です。

    ・配偶者の遺産取得分を増やせる
    配偶者居住権は所有権よりも評価額が低くなります。不動産に対する完全な権利ではないからです。そこで配偶者が配偶者居住権を取得した場合、所有権を取得した場合よりも「少ない財産」を取得したこととなります。法定相続割合にあまりがあれば、残った部分で他の預貯金などの遺産を取得できます。

    このように所有権を取得する場合よりも遺産取得分を増やせることで、配偶者の老後の生活がより安泰なものとなります。

    ・代償金を少額にできる
    遺産が自宅しかない場合、配偶者が自宅の所有権を取得したら子どもなどの他の相続人に高額な代償金を払わねばなりません。「支払えない」という理由で権利取得を諦めるケースもあるでしょう。

    配偶者居住権なら評価額が低くなりますし、子どもなどの他の相続人が所有権を取得するので代償金が発生するとしてもさほど高額にならないでしょう。
    配偶者居住権は所有権よりも取得しやすい権利です。

  2. (2)デメリット

    配偶者居住権を取得するとデメリットもあります。

    ・固定資産税の支払いや必要費の負担が必要
    配偶者居住権を取得したら、配偶者が建物にかかる維持経費や固定資産税を払わねばなりません。毎年、税負担が生じることに注意が必要です。また、建物の保存に必要な修繕費の負担もしなければなりません。

    ・所有権を取得した子どもの負担が大きくなる
    配偶者居住権を設定すると、子どもなどの他の相続人が「所有権」を取得することになります。配偶者居住権つきの物件の所有者となると、相続税を払わねばならないうえ売却や賃貸活用もできません。

    ・老人ホームなどへの入居が困難になるおそれ
    配偶者居住権は他人に売却できないので、いざお金が必要なときに役に立ちません。
    将来身体の調子が悪くなって介護施設などに入居したいと思ったとき、家の所有権を相続していれば家を売って介護施設への入所費用に充てることも可能ですが、配偶者居住権の場合にはそれができません。

    もちろん子どもなど家の所有権をもつ者が、売却によって得られた資金を介護施設へ充てることに合意すれば問題はありません。

8、まとめ

配偶者居住権は一見良いことばかりにも思えますが、リスクもあります。
制度をよく理解せずに取得すると、配偶者自身も将来思わぬトラブルに遭遇する可能性があります。配偶者居住権についてお悩みの方や遺産相続に関して疑問や不安をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています