レイオフ(一時解雇)とはどんな制度か?日本の法律では難しい理由を解説
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令和4年5月、京都府知事が支部長を務める地方職員共済組合府京都支部が運営する「平安会館(御所西京都平安ホテル)」が休業をする方針を示し、同年7月には実際に休業しました。その際、正規職員と臨時職員を含む合計約50名の労働者に解雇を通告したことから、労働者らは労働組合を結成して「突然解雇を通告された」「府知事は『雇用を守る』という公約を守ってほしいと訴えました。
経営が悪化した企業が業績を図る手段のひとつが、「人件費の削減」です。
人件費削減の手段としては、国内では、整理解雇や希望退職者制度といった、いわゆるリストラが典型的です。一方で、海外の企業では一時解雇(レイオフ)という手段がよく用いられており、最近では大手IT系会社でのレイオフがニュースになっています。
日本で企業を経営されている方のなかにも、「欧米企業を見習って、自分の会社でもレイオフを実施したい」と考えられている方は多いでしょう。しかし、日本でレイオフを行うことは、法律上の問題から困難といえます。
本コラムでは、一時解雇(レイオフ)とは何か、メリットやリストラなどの他制度との違い、日本の法律ではレイオフが難しい理由について、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、一時解雇(レイオフ)とは
海外の企業では、人件費削減のために一時解雇(レイオフ)が一般的に行われています。
日本国内ではあまり聞いたことがない制度ですので、一時解雇(レイオフ)がどのような制度であるかについて正確に理解している方は少ないでしょう。
一時解雇(レイオフ)とは、企業の業績が悪化したとき、将来、業績が回復した際には再雇用することを条件として、一時的に労働者を解雇する制度のことをいいます。
アメリカなどでは、一時解雇(レイオフ)による人件費削減という手法が比較的頻繁に行われています。
2、一時解雇(レイオフ)のメリットと注意点
一時解雇(レイオフ)に関しては、企業や労働者にとって、以下のようなメリットと注意点があります。
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(1)人件費の削減
一時解雇(レイオフ)の実施によって、人件費を削減することが可能になります。企業の経費に占める人件費の割合が大きい場合は、業績回復の手段として、比較的即効性が見込めるものといえます。
一時解雇(レイオフ)によって、必要最低限の人員(社員)で業務を続け、業績が回復してきたところで、一時解雇(レイオフ)の対象となった労働者を再雇用します。その際、勤続年数が長い労働者から再雇用されることが多いようです。
ただし、人件費削減により業績が回復したのみでは、再雇用により再度人件費が増加することとなり無意味です。再雇用をするには、一時解雇期間中に人件費削減の効果を超えて業績を拡大する現実的具体的計画が必要であり、この点でハードルが高いといえるでしょう。 -
(2)優秀な人材やノウハウの流出防止
解雇ではなく一時解雇(レイオフ)を選択する大きな理由としては、優秀な人材やノウハウ流出の防止という側面があります。
企業に長期間勤務していた労働者は、業務に対して豊富な知識と経験を有しています。そのような労働者を解雇した場合には、一時的には人件費が削減でき業績の回復も可能かもしれません。しかし、業績が回復したところで新たに労働者を雇ったとしても、優秀な人材が育つまでには、長期間を要することになります。
このように長期的な視点で見たときには長年育ててきた優秀な人材を失ってしまうということは企業にとって大きなマイナスとなり得るでしょう。
また、優秀な人材や企業のノウハウがライバル会社に流失する可能性も解雇の大きなデメリットとなります。
一時解雇(レイオフ)は、解雇と異なり、業績回復後の再雇用を予定しているため、優秀な人材やノウハウを将来的に回復するために一定の効果があるといえるでしょう。ただし、解雇であることから、労働者が一時解雇期間に転職した場合、復職を強制することはできず、そのような条件は無効となる恐れが高いです。 -
(3)再雇用による雇用継続の可能性
労働者にとっても、解雇によって労働契約上の地位を失うよりも、業績の回復で再雇用が予定されている一時解雇(レイオフ)の方が、将来の雇用継続に対する期待が高く、不利益が小さいといえます。
また、一時解雇(レイオフ)をされ、再雇用されるまでの間に、他社に再就職するということも可能です。再雇用が予定されている状況であれば、気持ちに余裕を持って転職先を探す就職活動ができるということも、一時解雇(レイオフ)の心理的メリットといえます。
一方で、労働者としては職を失うことに変わりはなく、再雇用の予定はあくまで業績の回復を条件とする不確定なものです。また、再雇用が予定されていることが必ずしも転職活動に利益に働くとは限りません。
3、日本の類似制度(リストラ・一時帰休)との違いは?
一時解雇(レイオフ)のように、経営上の理由による企業の人員削減の方法として、日本では、「リストラ」や「一時帰休」が実施されています。これらと一時解雇(レイオフ)とは何が違うのでしょうか。
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(1)リストラ・一時帰休とは
リストラとは、「リストラクチャリング」(再構築)の略語であり、本来は事業規模や従業員数の増減を問わない組織の再構築を指す言葉ですが、一般的には、不採算事業や部署の縮小や、またそれに伴い、解雇や希望退職者制度などの手段で従業員数を削減することを指す言葉として使われています。
また、「一時帰休」とは、業績が悪化した企業が、事業活動を縮小するために、労働者を一時的に休業させることをいいます。 -
(2)一時解雇(レイオフ)との違い
リストラと一時解雇との大きな違いは、「再雇用が予定されているかどうか」という点です。
解雇の場合でも、希望退職に応じて退職した場合でも、対象となった労働者は、会社との労働契約が終了し、再雇用はもちろん約束されません。
これに対して、一時解雇(レイオフ)は、再雇用が予定されていますので、いったんは解雇され、会社との労働契約関係が終了したとしても、業績回復などの一定の条件が満たされたときには、再度、労働契約を締結することになります。
他方、一時帰休と一時解雇(レイオフ)はいずれも、優秀な人材の流出を防止する目的で行われるという点では共通しますが、会社との間の労働契約関係を維持するかどうかという違いがあります。
一時帰休は、労働者を一時的に休業させるだけであり、会社との労働契約関係は維持されます。他方、一時解雇(レイオフ)は、いったんは会社との労働契約関係が終了することになります。
なお、一時帰休をするときには、会社は労働者に対して平均賃金の6割以上の給料(休業手当)を支払わなければなりませんので(労働基準法26条)、人件費削減の効果としては、一時解雇(レイオフ)よりも小さいといえます。
4、日本においてレイオフを行うのは難しい
企業の業績回復の手段として一定の効果が見込める一時解雇(レイオフ)ですが、日本では耳馴染みがない制度です。一時解雇は、海外と同様に日本の企業でも導入することができるのでしょうか。
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(1)解雇の方法
そもそも、一時解雇(レイオフ)という制度自体は、日本の労働法では規定されていません。そこで、経営上の理由により、業績回復時の再雇用を前提とした解雇を行おうとする場合は、既存の枠組みの中で実行する必要があります。
日本の労働法を前提とすると労働者との労働契約を終了させる解雇の手段としては、解雇(普通解雇)と懲戒解雇がありますが、一時解雇(レイオフ)は、企業の業績が悪化したことを理由に行う解雇ですので、普通解雇の中の、いわゆる「整理解雇」の一種とみることができます。 -
(2)一時解雇(レイオフ)も厳格な解雇規制に服する
整理解雇は、懲戒解雇と異なり労働者側には何の落ち度もない状況で、会社側の一方的な都合で行う解雇です。そのため、労働者保護の立場から、解雇の有効性については、以下の4つの要件によって厳格に判断されています。
① 人員削減の必要性
人員削減の必要性とは、人員削減措置が企業経営上、十分な必要性に基づいていること、またはやむを得ないといえることをいいます。
② 解雇回避努力
解雇回避努力とは、解雇以外の人員削減手段(残業削減、一時休業、配転、出向、希望退職者募集など)で解雇をできる限り回避することをいいます。
③ 人選の合理性
人選の合理性とは、客観的に合理的な選定基準を定めて(家族構成、勤務態度、勤続年数など)、その選定基準を適切に運用し、解雇対象者を選定することをいいます。
④ 手続きの妥当性
手続きの妥当性とは、使用者は、労働者または労働組合に対して、整理解雇の必要性や整理解雇の内容について説明を行い、真摯(しんし)に協議をすることをいいます。
先に述べたように、企業がレイオフ(一時解雇)を行おうとする場合、その有効性は整理解雇に近い性質のものとして、上の4つの要件の充足性を中心に判断される可能性が高いでしょう。再雇用の約束は、その内容によっては②解雇回避努力の問題として考慮される可能性があります。
5、企業の雇用問題で弁護士がサポートできること
以上のとおり、日本の労働法規制を前提とすると海外で行われているような一時解雇(レイオフ)という手段によって業績回復を図るということは難しいでしょう。
しかし、一時帰休や整理解雇といった手段によって、人件費を削減し、業績回復を図ることは可能です。ただし、これらの手段をとるにあたっては、労働者保護を前提としたさまざまな法規制をクリアしなければならず、安易に解雇に踏み切ってしまうと、労働者側から解雇無効を理由に訴えを提起されるというリスクもあります。
労働者の解雇といった企業の雇用問題については、専門家である弁護士にサポートしてもらうことで、回避することができる争いもあります。適切な手続きにのっとって解雇の手続きを行うことができれば、仮に労働者側から訴えられたとしても、裁判で負けるリスクは低くなります。
企業の経営者としては、トラブルが生じたときに弁護士に相談することも重要ですが、普段から顧問弁護士を依頼し、トラブルを事前に予防するという視点も重要となります。事前と事後の対策として、信頼のできる弁護士に雇用問題のサポートを頼んでみてはいかがでしょうか。
6、まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が事業活動を縮小せざるを得ない事態となっています。
海外のような一時解雇(レイオフ)といった手段はとることが難しいとしても、業績回復に向けたさまざまな手段を講じていかなければならないでしょう。
その手段として、労働者との雇用関係の終了を検討しているときには、弁護士のサポートを受けながら進めていく必要があります。労働者との雇用問題についてお悩みの方は、ベリーベスト 京都オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています