環境型セクハラを防止するために企業ができる対処法を解説

2022年02月28日
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環境型セクハラを防止するために企業ができる対処法を解説

企業内でセクハラが行われることは、労働者の意欲低下や労働紛争のリスクなど、会社側にとっても不利益を生じさせます。さらには、セクハラの被害にあった労働者が会社に損害賠償を請求するおそれもあるのです。

セクハラの発生を防ぐことは、経営者にとって重要な課題になっています。とはいえ、セクハラの問題は複雑です。ひとくちにセクハラといっても、対価型セクハラ、妄想型セクハラ、環境型セクハラなど、さまざまな種類があるのです。

本コラムでは、近年になって特に問題となっている環境型セクハラについて、その定義や防止のための対処方法などを、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が詳しく説明いたします。

1、職場におけるセクハラ対策の必要性

近年では、職場におけるセクハラ対策の重要性は増しつづけています。
まず、セクハラの問題に対して対策をとらずに放置することで起きる不利益について、解説します。

  1. (1)生産性の低下

    職場でセクハラが発生すると、被害者は大きな心の傷を負います。また、セクハラは恐怖心を生むことも多く、セクハラをきっかけに、うつ病などの精神疾患になり、休職につながった事例も多数あるのです。

    さらに、セクハラは被害者本人のみでなく、セクハラ被害を目撃した他の従業員にも影響を与えます
    社員がセクハラ行為を目撃することは、セクハラを行った加害者と、それを放置する会社の姿勢に対する怒りや失望感が生み出すきっかけとなります。また、職場の信頼関係にも破壊的な影響を与えるでしょう。
    こうした要素が、従業員ひとりひとりのパフォーマンスを下げて、職場のムードを悪化させることになり、結果として、会社全体の生産性の低下へとつながっていくことになりえます。

  2. (2)行政指導の対象となるリスク

    近年、女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法等によって、法律によるハラスメント対策が強化されており、社内でセクハラへの十分な対策をとらずにいると、国から行政指導を受ける可能性もあるのです。

  3. (3)法的紛争に発展するリスク

    セクハラは、裁判などの法的紛争に発展することがあります。法的紛争に発展した場合セクハラを行った加害者だけでなく、雇い主である企業に対しても損害賠償を求められる可能性が非常に高いです。

    労働契約において、事業主は、労働者が働くにあたり、その生命・身体が害されないようにする安全配慮義務があります。そして、事業主が安全配慮義務を怠ると、債務不履行として被害者に対して民事損害賠償責任を負うことになるのです。
    したがって、会社側がセクハラについて十分な対策を採らなかったことが原因で、セクハラ被害が起きた場合には、会社側の安全配慮義務違反が問題となります。
    また、裁判は原則として公開されますので、裁判になった場合は、企業名を伏せておくことはできません。

  4. (4)企業イメージの悪化

    最近では、セクハラなどの企業不祥事が、SNSを通じて拡散する事態が増えています。一度拡散した情報はコントロールが難しく、企業のイメージや評価が大幅に低下するリスクがあります。企業イメージの低下は、人材の流出の原因にもなり、また、新規採用にも悪影響を及ぼします。特に人手不足が深刻化する今、セクハラによる企業イメージの低下は、避けたいところです。

2、セクシュアルハラスメントの種類

職場におけるセクシュアルハラスメントは、環境型セクハラと対価型セクハラの二つに大別することができます。
「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」、それぞれの定義や違いについて、解説します。

  1. (1)対価型セクハラとは

    対価型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動に対して拒否や抵抗をしたことによって、その労働者が解雇・降格・減給される、労働契約更新が拒否される、昇進・昇格の対象から外される、客観的に見て不利益な配置転換をされるなど、さまざまな不利益を受けることです。

    対価型セクハラの具体例としては、下記のようなものがあります。

    • 労働者が経営者から会社帰りに性的な関係を要求されて、拒否したら、解雇された。
    • 営業で移動中の車内で直属の上司から胸、腰、太ももなどを触られ、抵抗したため、通勤に2時間かかる遠方の事業所に転勤させられた。


    一般的に「セクハラ」という言葉からイメージされる問題は、対価型セクハラに近いものでしょう。対価型セクハラは、数十年前から職場で問題となりつづけてきた、セクハラの典型的なパターンといえます。

  2. (2)環境型セクハラとは

    環境型セクハラの問題は、最近になって注目されるようになりました。
    環境型セクハラは、「労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」と定義されます。

    対価型セクハラと異なり、対価的要素がなくてもセクハラに該当する点が、環境型セクハラの特徴です。対価的要素がなくても、性的な言動によって被害者にとって不快な職場環境になり、就業上の支障が生じる場合には、環境型セクハラに該当するのです。

  3. (3)環境型セクハラの基準

    上司や同僚の性的言動によってどれくらいの不快感を抱くかには、個人差があります。そのため、対価型セクハラに比べて、環境型セクハラは、客観的な基準を設けることは難しいです。

    ただし、厚生労働省は「平均的な男性労働者の感じ方」と「平均的な女性労働者の感じ方」を基準として判断するとしています。したがって、「自分は平気だから、相手にとってもセクハラではない」という考え方は通用しません。

3、環境型セクハラの具体例

環境型セクハラについて、具体例を記しながら詳しく解説します。

  1. (1)視覚的に性的描写の強い情報を与えること

    視覚的に性的描写の強い情報を従業員に与えることは、環境型セクハラに該当する可能性があります。
    たとえば、職場に身体の露出度の高いポスターを張る、共有スペースに成人男性向けのアダルト雑誌を置く、といった行為には、強い不快感を抱く従業員がいます。最近では、「萌え絵」とよばれるイラスト(女性の胸部や臀部(でんぶ)を強調したイラスト)を盛り込んだポスターやクリアファイルを配布した行為が、環境型セクハラではないかと物議をかもしたケースもあります。
    性的な描写が含まれた物品を扱う際には、十分に配慮しましょう

  2. (2)性的内容の発言を聞くことによる不快感

    視覚的な情報だけでなく、性的な発言も、環境型セクハラにあたりえます。たとえば「君は女性らしいスタイルだね」「恋人はできたの?」「結婚はまだなの?」といった発言です。いずれも、相手が不快と感じる可能性が高い発言であり、環境型セクハラに該当するリスクがあるのです。

    また、相手のことを直接の対象にした発言でなくても、環境型セクハラに該当するケースがあります。
    たとえば、自分や他者の性体験や、いわゆる「下ネタ」について発言して、周りがそれを聞かざるを得ない状況になるような場合です。当事者同士に悪気はなくても、周囲の従業員が不快に感じているならば、環境型セクハラに発展するリスクがあるのです

  3. (3)身体的接触による不快感

    性的要求を伴わなくても、他者の体に触れたり、身体を近づけたりする行為は、環境型セクハラに該当する場合があります。
    たとえば、相手を褒めようとして「ぽん」と肩をたたく行為や、資料を一緒に見るために顔を極端に近づけるといった行為も、場合によっては、相手に不快な気分をもたらす可能性があります。

    行為者からすれば、叱咤(しった)激励や、親近感の表明、軽いスキンシップなどの一環であり、悪気がないケースもあります。しかし、個人の感じ方はさまざまであり、こうした身体的接触に抵抗を感じる人は少なくありません。
    そして、職場では、相手に対して拒否を示すことができず、本人が人知れず不快感を抱えて悩んでいることもあります。
    こうしたケースも環境型セクハラに該当しえますので、注意が必要です。

  4. (4)ジェンダー差別に関する言動のリスク

    「男だから」「女だから」といった性別による思い込みを前提とした発言も、セクハラのリスクがあります

    たとえば、「女性は早く出産しないと」「男のくせに育休をとるのか」「女は感情的になりやすい」といった発言は、いずれも、性別に対する偏見から生まれる発言です。また、女性社員だけがお茶くみを強いられる、飲み会でお酌をするように指示される、といった言動も、環境型セクハラに該当する可能性が十分にあります。

4、環境型セクハラを防止するために企業ができる対処法

環境型セクハラの対策として企業が取れる、具体的な対処法について解説します。

  1. (1)ハラスメント研修による従業員の意識改革

    環境型セクハラは、普段の何気ない言動から起きることが多く、その背景には個人の固定的な思い込みや偏見が存在します。
    たとえば、性別に関する偏見や、「性的な言動によって自分が相手を傷つけている」という自覚が欠如しているケースです。環境型セクハラを減らすためには、こうしたひとりひとりの意識を改革していく必要があります。

    セクシュアルハラスメントについての理解を深めて、言動の前提となっている思い込みや差別心と向き合うハラスメント研修を実施するなどで、従業員の意識改革を推進して、セクハラを未然に防ぐ可能性を高めることができます。

  2. (2)就業規則の整備と全従業員への周知

    就業規則にセクハラ対策を盛り込み、全従業員に周知することも、セクハラの防止策として有効です。

    就業規則にセクハラ対策を明示することで、「セクハラを許さない」という会社の態度を明確にすることができます。また、実際にセクハラ問題が起きたときにも、あらかじめ就業規則に罰則などを記載しておくことで、スムーズな対応が取りやすくなります。
    ハラスメント研修をする際にも、自社の就業規則を紹介しながら研修を行うことで、相乗的な効果を期待することができます。

  3. (3)相談窓口の設置やアンケート調査の実施

    予防措置を講じたのにも関わらず、セクハラ被害が発生してしまう可能性もあります。しかし、セクハラ被害者のための相談窓口を設置しておくことで、発生してしまった被害の悪影響を軽減しやすくなるのです。

    セクハラの問題は、被害者が社内に相談できる相手がおらず一人で抱え込んでしまうことで、問題が大きくなり悪影響が深刻になってしまう、という傾向にあります。そのため、社内で安心できる相談先を確保することは、被害者にとっても、会社側にとっても大きなメリットがあるのです
    また、窓口にも相談できずに悩んでいる従業員が存在する可能性を考慮して、セクハラなどのハラスメントに関する調査を定期的に実施することも、有効な対策といえます。

5、セクハラを防止する体制をつくるなら弁護士に相談

企業にとって、セクハラ防止体制をとることは、法律上の義務です。
とはいえ、実際にどの程度の体制をとればいいのかは、事業の規模や現状によっても異なります。日々の経営業務に追われるなかで、「どうやってセクハラ防止体制を構築すればいいのか…」と、お悩みになる経営者の方も多いでしょう。

セクハラ問題に詳しい弁護士に相談することで、適切な体制を作り上げていくことができます。
実際のトラブル事例や、他社の事例などを弁護士と共有することで、リスクを避けながら、自社にあった適法なセクハラ防止体制を構築できるでしょう。

6、まとめ

本記事では、環境型セクハラについて、問題となるケースや企業に求められる対策を解説しました。
セクハラを放置せずに対策をとることは、すべての企業にとって、法律上の義務であり、健全な経営の一環でもあります
ベリーベスト法律事務所 京都オフィスでは、職場で発生するセクハラの問題についても、弁護士が相談を承ります。ぜひ一度、ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています