休日に健康診断を受けさせるのは違法? 企業向けに解説
- 労働問題
- 健康診断
- 休日
- 違法
令和3年度(2021年度)に京都府内の労働基準監督署が監督指導を行った436事業場のうち、違法な時間外労働があったものは198事業場でした。
労働者を雇用する会社には、労働者に定期健康診断を受けさせる義務があります。多くの会社では、平日に健康診断を受けさせています。しかし、「業務への支障を少しでも軽減するため、休日に健康診断を受けさせたい」と希望する経営者もおられるでしょう。
休日に健康診断を受けさせる際には、労働安全衛生法の規定や通達に注意する必要があります。本コラムでは、労働者の健康診断について、会社の義務の根拠や休日に受けさせることの問題点などをベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、健康診断の実施は、労働安全衛生法に基づく会社の義務
健康診断を実施することは、労働安全衛生法によって会社に義務付けられています。
健康診断には、労働者が従事する業務の内容に応じて「一般健康診断」と「特殊健康診断」の二種類があります。
一般健康診断と特殊健康診断は、いずれも会社の費用負担で実施しなければなりません(昭和47年9月18日基発第602号 Ⅰ法律関係 第13項第(2)号イ)。
-
(1)常時使用する労働者は「一般健康診断」の対象
事業者は、常時使用する労働者(特殊健康診断の対象者を除く)に対して「一般健康診断」を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条第1項)。
一般健康診断の実施時期は、1年ごとに1回です。
一般健康診断の項目は、以下のとおりです。- ① 既往歴および業務歴の調査
- ② 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- ③ 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- ④ 胸部エックス線検査および喀痰(かくたん)検査
- ⑤ 血圧の測定
- ⑥ 貧血検査
- ⑦ 肝機能検査
- ⑧ 血中脂質検査
- ⑨ 血糖検査
- ⑩ 尿検査
- ⑪ 心電図検査
-
(2)有害な業務に従事する労働者は「特殊健康診断」の対象
事業者は、一定の有害な業務に従事する労働者について「特殊健康診断」を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条第2項)。
特殊健康診断の実施時期は、雇い入れ時・配置換えの際および6か月以内ごとに1回です。
特殊健康診断の対象とされているのは、以下の業務に従事する労働者です。
また、健康診断項目も業務ごとに定められています。- ① 高気圧業務
- ② 放射線業務
- ③ 特定化学物質業務
- ④ 石綿業務
- ⑤ 鉛業務
- ⑥ 四アルキル鉛業務
- ⑦ 有機溶剤業務
2、健康診断を休日に受けさせることは違法か?
健康診断は平日(労働日)に受けさせる会社が多いですが、企業の経営者のなかには、「業務への支障が生じないように休日に受けさせたい」と希望される方もおられるでしょう。
健康診断を休日に受けさせることができるかどうかについては、労働安全衛生法上、明文の規定がありません。
その一方で、昭和47年9月18日基発第602号では、労働者の健康診断の実施方法などについて行政上の法令解釈が示されています。
同通達に法的拘束力はないものの、実務のスタンダードとして機能しております。
そして、同通達に従うと、健康診断を休日に受けさせることの是非については、一般健康診断と特殊健康診断とで異なるのです。
-
(1)一般健康診断は休日に受けさせてもよい
昭和47年9月18日基発第602号には、一般健康診断を平日(労働日)に実施すべきとする規定はありません。
したがって、労働安全衛生法の規定および解釈上は、一般健康診断を休日に受けさせても問題ないと考えられます。 -
(2)特殊健康診断は勤務時間中に受けさせるのが原則
昭和47年9月18日基発第602号「Ⅰ法律関係」第13項第(2)号ロでは、特殊健康診断の実施について以下のように述べています。
「いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。」
したがって、特段の事情がない限り、特殊健康診断は労働日の勤務時間中に受けさせる必要があります。
3、健康診断を受けている時間について、賃金を支払う必要があるか?
労働者が健康診断を受けている時間は、会社の業務に従事しないため、賃金を支払っていないという会社も散見されます。
健康診断の時間について賃金の支払いを要するか否かについても、労働安全衛生法には明文の規定がありません。
その一方で、実務のスタンダードとして機能している昭和47年9月18日基発第602号では、一般健康診断と特殊健康診断の間で賃金の取り扱いを異にしています。
-
(1)一般健康診断の場合、賃金の支払いは必須でない
昭和47年9月18日基発第602号「Ⅰ法律関係」第13項第(2)号ロでは、一般健康診断の受診に要した時間に係る賃金の支払いについて以下のとおり述べています。
「いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものである」
一般健康診断の受診に要した時間に係る賃金については、「当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものである」と述べられていることから、少なくとも法令上は、会社による支払いが必須でないと考えられます。 -
(2)特殊健康診断の場合、賃金の支払いが必須
これに対して前述のとおり、特殊健康診断は所定労働時間内に実施するのが原則とされているため、特殊健康診断の受診に要した時間については賃金が発生します。
また、昭和47年9月18日基発第602号「Ⅰ法律関係」第13項第(2)号ロでは、特殊健康診断が時間外に行われた場合には割増賃金を支払うべき旨を明記しています。
したがって、労働者が特殊健康診断を受けている時間については、会社は賃金を支払わなければなりません。
4、一般健康診断もできる限り平日に受けさせ、賃金を支払う方が望ましい
これまで解説したように、特殊健康診断は原則として所定時間内(労働日)に実施して、かつ賃金を支払う必要があります。
これに対して、常時雇用する一般労働者が対象の一般健康診断には、特殊健康診断に適用される上記の規制が適用されません。
したがって、休日に一般健康診断を受けさせることも、その受診に要した時間について賃金を支払わないことも、法律上は可能と考えられます。
しかし、実情としては、多くの会社では勤務時間中に一般健康診断を実施しており、受診時間について賃金の控除も行われていません。
このような状況のなかで、一般健康診断の休日に実施して賃金を支払わないことにすると、福利厚生の観点から他の会社に見劣りしてしまうことになるでしょう。
また、休日に無給で健康診断を受けることをおっくうに感じたり不満を抱いたりした労働者が、一般健康診断を受け控える可能性も想定されます。
労働者が定期的に健康診断を受診しないことで健康を害してしまえば、会社としても損失になるでしょう。
労働者の福利厚生や健康管理に関するデメリットをふまえると、法令上は許容されているとしても、一般健康診断を休日に受けさせることは望ましくありません。
また、健康診断の時間について賃金を控除することも控えたほうがいいでしょう。
一般健康診断であってもできる限り平日に受けさせて、賃金を支払うことをおすすめします。
5、健康診断に関する対応に悩んだら弁護士に相談を
健康診断に関する対応を含めて、人事労務については労働法令の規定を遵守しなければなりません。
人事労務に関するコンプライアンスを徹底するためには、法律の専門家である弁護士に相談することが最善です。
弁護士は労働法令の規定をふまえたうえで、会社の実情に合わせた人事や労務管理の方法をご提案いたします。
法令の細かい部分まで注意点をアドバイスいたしますので、コンプライアンス違反のリスクを大幅に抑えることができます。
健康診断の取り扱いや、その他人事・労務に関する事項について迷ったら、お早めに弁護士まで連絡してください。
6、まとめ
一定の有害な業務に従事する労働者に対するもの(=特殊健康診断)を除けば、通常の労働者を対象とする健康診断(=一般健康診断)については、休日に実施することも法律上は許容されています。
しかし、労働者の福利厚生や健康管理の観点をふまえれば、一般健康診断であっても労働日に実施したほうがよいといえます。
ベリーベスト法律事務所では、人事・労務管理に関するご相談を随時受け付けております。労働法令に精通した弁護士が、会社の実情に応じて幅広い観点からアドバイスいたします。
企業の経営者や担当者の方で、健康診断の取り扱いを含めて人事・労務管理についてお悩みをお持ちの場合には、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています