会社を退職させてくれない!? 在職強要への対処法を弁護士が解説!
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京都労働局の統計によると、平成30年11月現在の京都府における正社員の有効求人倍率は1.21倍という高水準を示しています。
京都では、正社員の有効求人倍率が18ヶ月連続で1倍を超えており高水準を維持しているようです。
しかし労働者をなかなか採用できないという人手不足も要因のひとつとなって、退職を申し出たにもかかわらず会社を退職させてくれないといった問題も生じています。
悪質なケースでは、会社側から「退職するなら損害賠償請求する」などと脅され、在職を強要される場合もあります。
本コラムでは、会社を退職させてくれないといった在職強要への対処法についてベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説していきます。
1、労働者は自由に退職できないのか?
会社に退職の意思を伝えても退職させてくれないという、いわゆる在職強要をされた場合には、労働者は自由に退職することが許されていないのではないかと錯覚してしまうこともあります。
しかし一定の制限はあるものの、労働者には原則として自由に退職することが認められています。
退職についての一定の制限については、雇用契約の期間の定めの有無によってその内容は異なります。
会社が退職を認めずに在職強要した場合には、会社は労働基準法第5条に違反する可能性があります。
労働基準法 第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労働基準法第5条に違反する場合、使用者である会社は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金に処されます。
2、退職についての一定の制限とは
労働者は原則として自由に退職をすることができますが、退職については一定の制限があります。一定の制限の内容は、労働者と会社が締結している雇用契約の期間の定めの有無によって異なります。
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(1)期間の定めのない雇用契約
期間の定めのない雇用契約とは、一般的には定年まで勤めることを前提とした正社員が該当します。
ご自身の雇用契約については、入社の際に締結した雇用契約書で確認することができます。
期間の定めのない雇用契約においては、労働者はいつでも退職の申し出をすることができます。
ただし、原則として退職を希望する日の2週間前までに退職を申し出る必要があります。
なお完全月給制(遅刻や欠勤をしても賃金が減額されない月給制)で報酬を定めているような場合には、例外的に退職を希望する日の前の月の前半までに退職を申し出る必要があるとされています。 -
(2)期間の定めのある雇用契約
期間の定めのある雇用契約とは、一般的には契約社員や嘱託社員として雇用されている場合が該当します。
期間の定めのある雇用契約においては、労働者は原則として定めた期間中は退職することができません。
しかし期間の定めのある雇用契約であっても、「やむを得ない理由」がある場合には退職することができます。
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3、会社が退職させてくれないケースの具体例と対処法
会社が退職させてくれないケースには、さまざまなパターンがあります。
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(1)退職届を受け取ってくれない
これは、上司に退職届を出したものの受け取りを拒否されるといったケースです。
また上司が退職届を受け取ったにもかかわらず、預かってそのまま保留されているケースもあります。
このように実質的に退職届を受け取ってもらえなかったとしても、退職の申し出は口頭でも構わないので退職することは可能です。
しかし口頭で退職を伝えた場合には、退職を申し出た証拠にはなりにくく争いになった場合に不利といえます。
したがって退職届を受け取ってもらえない場合には、日本郵便が取り扱う内容証明郵便で退職届を会社に送付して証拠を残しておくようにするとよいでしょう。 -
(2)退職するなら損害賠償を請求すると脅される
退職を申し出たら、「退職することで会社に損害が出るから損害賠償を請求する」と会社側に脅されるケースもあります。
しかし期間の定めのない雇用契約では、原則として2週間前に退職を申し出ればいつでも自由に退職することができます。そして期間の定めのない雇用契約においては、退職した場合に生じる損害を賠償しなければならないという規定はありません。
期間の定めのある雇用契約であっても、実際に損害賠償が認められることはほとんどないと考えられます。
こういった場合には、脅しに屈することなく弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)退職するなら懲戒解雇にすると脅される
退職を申し出たら、「退職するなら懲戒解雇にする」と会社側に脅されるケースもあります。
自主的な退職ではなく懲戒解雇にされてしまうと、離職票にその旨が記載されてしまうので次の転職にあたって不利に働く可能性があります。
しかし懲戒解雇は、就業規則などに大きく違反して、著しく企業秩序を乱し会社の運営に悪影響を与える場合に認められる処分です。
そのため会社は、労働者が就業規則などに大きく違反したのでなければ懲戒解雇にすることはできません。
もしも「退職するなら懲戒解雇にする」など言われた場合には、脅しに屈することなく弁護士に相談してみるとよいでしょう。
また、万一、懲戒解雇として離職票に記載された場合でも、早期に弁護士に相談すれば撤回できる可能性は高まります。
4、会社が退職させてくれない場合の対処法とは
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(1)会社に内容証明郵便を送付して退職の意思を伝える
実質的に会社が退職届を受け取らない場合などには、退職届を内容証明郵便で会社に送付する必要があります。
内容証明郵便で客観的な証拠に残る形にしておけば、後に会社側と争いになったときでも退職の申し出をした日付などを証明することができます。 -
(2)裁判所に労働審判を申し立てる
労働問題については、裁判所に労働審判の申し立てをすることができます。
労働審判では、裁判官や労働審判員を交えて当事者同士が話し合いを進めます。
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理が進められ、話し合いがまとまらなければ審判が下されます。
なお、審判に異議が出た場合には通常の訴訟に移行することになります。 -
(3)弁護士に相談する
在職強要を行うような会社に対しては、ご自身だけで会社と対峙(たいじ)するのは難しい場合も多いものです。
しかし弁護士に相談すれば、弁護士が代理人としてケースに応じて法的な根拠を示し会社と交渉するので、ご自身が交渉のストレスを抱えることはなく退職できる可能性が高まります。
5、弁護士に相談するメリットとは
在職強要を弁護士に相談するメリットには、主に次のようなものがあります。
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(1)会社との交渉を任せられる
弁護士に依頼した場合には、弁護士が代理人として会社と交渉していくことになります。
そのため直接会社と交渉しなくて済むようになるので、心理的な負担が軽減されることになります。 -
(2)会社に退職の正当性を認めさせることができる
損害賠償や懲戒解雇などを理由に会社が退職を認めていない場合でも、弁護士は法的な根拠を示して会社の不当な主張に対抗することができます。
そして退職の正当性を会社に認めさせることができる可能性が高まります。 -
(3)弁護士が関与することで早期に解決する可能性が高まる
弁護士が代理人として関与するだけで早期に退職を認める場合も少なくありません。
会社側は違法に在職強要しているのですから法的に勝ち目はなく、会社としても大ごとにせずに早期解決を図りたいと考えるものです。 -
(4)未払いの残業代などがあれば請求できる
在職強要を行うような会社であれば、残業代などが支払われていない可能性もあります。
そういった法的に請求できる未払いの賃金などがある場合には、弁護士は退職に向けた話し合いとあわせて会社側に未払い残業代を請求していくことができます。
6、まとめ
本コラムでは、会社を退職させてくれない場合の対処法について解説してきました。
基本的に、期間の定めのない雇用契約では2週間前に退職の申し出をした場合や、期間の定めのある雇用契約でもやむを得ない理由がある場合には、労働者は自由に退職することができます。
しかし退職したら損害賠償を請求する、懲戒解雇にするなどと脅して在職強要をされるケースもあります。
こういった在職強要を解決するためには、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士は、会社を退職させてくれない場合にご相談者のご希望にそった形で解決できるように尽力いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
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