残業代の請求に時効はあるの? サービス業(美容・アパレル・スーパー編)|京都オフィスの弁護士が解説
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京都では観光客が増加し、娯楽施設や宿泊施設などでさまざまなサービスが提供されるようになりました。それに伴い、サービス業に携わる労働者の数もますます増えているように思います。
もし仕事で残業したにもかかわらず、残業代が支払われなかったとき、もらえるはずの残業代はいつまで請求できるのでしょうか。実は、残業代の請求には時効があり、これを過ぎると残業代の請求はできなくなります。ここでは、残業代の請求の時効と、請求の仕方について詳しくご紹介します。
1、残業代を請求できるのは2年まで
残業代は、本来の支払い日から2年を経過すると時効によって請求権が消滅します。 給与の支給を受けてから2年以内に残業代を請求しなければ、たとえ長時間の残業を行った記録が残っていても支払いを受けられなくなるのです。在職期間が長い方だと毎月1ヶ月ずつ、時効により請求権が消滅していることになります。
未払い残業代を請求するには、過去の残業時間を把握しなければなりません。そのためにも、タイムカードの打刻だけでなく、手帳や携帯電話のメモ機能を使うなどして、自分が本当に働いた時間を記録しておくことをおすすめします。
2、残業代請求の前に時効を中断させる手続き
残業代を請求しようと決意したのなら、すぐにでも残業代の支払い請求をする手続きを進めるべきですが、実際には手続き開始から支払いを受けるまでにはそれなりの日数がかかるものです。そうしているうちに本来受け取れるはずの残業代の金額が減少してしまう恐れもあるので、まずは時効を中断する手続きを行いましょう。 これは残業代の支払いを請求中でも最も優先されるべきと言っても過言ではないくらい、大変重要な手続きとなります。
残業代の支払いを直接会社に求める「催告」をすることで、時効の中断ができます。催告の方法は、法律上決まりはなく、口頭でも書面でもかまわないとされていますが、会社側と「言った・言わない」の争いを防ぐためにも正式な書面で催告を行いましょう。配達証明付き内容証明郵便なら、郵便局がいつ、誰から誰に、どのような内容の書面を送ったかを証明してくれるので安心です。
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(1)催告の効果
会社に残業代請求の内容証明郵便を発送し、催告をしたことで時効は中断しますが、その効力は6ヶ月間です。先程の例のように「月末締め毎月15日払い」の職場に勤務する人が2018年7月1日に催告をした場合、2016年7月1日まで遡って時効を中断できます。
もしこの段階で催告を行わず、残業代の支払いを受けられたのが2018年11月になっていたら、2016年11月以降の24ヶ月分しか請求できないことになります。2018年7月に催告をしたことで2016年7月に時効を中断しているので、2016年7月から2018年11月分までの28ヶ月分の残業代を請求できるのです。このように請求できる残業代を増額させるためにも、催告の手続きを必ず行いましょう。
なお、催告は1回しかできず、延長ができません。ですから、6ヶ月以内に、会社側との交渉、交渉がうまく行かなかった時の裁判の手続きや労働審判の申し立てを行う必要があります。
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(2)残業代の消滅時効の例外
例外的に、時効の中断が2年ではなく3年間認められた判例があります(杉本商事事件 広島高裁 平成19年9月4日)。残業代の発生を認識していながら残業代の未払いが常態化していたこと、そして、残業時間だけでなく、勤務時間の管理も正確でなかった事案です。これは悪質性が高い「不法行為」と判断され、残業代ではなく損害賠償の請求に踏み切りました。民法上、損害賠償請求権の時効が3年と定められているため、3年前まで遡って請求できましたが、非常にまれなケースと言えます。
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(3)催告して残業代の支払いを受けるまでの流れ
①会社に内容証明郵便を発送し、催告を行う
まずは内容証明郵便を発送して残業代の支払いを求めましょう。これが「催告」として6ヶ月間にわたって時効が中断します。②会社との示談交渉を始める
示談交渉は書面でのやりとり、または弁護士を介した交渉など、裁判外での交渉を進めていきます。交渉の段階で会社が未払い残業代を認め、支払う意思表示があった場合は、その証拠を残しておきましょう。メールや書面、口頭の場合はボイスレコーダーでもかまいません。「一部を入金して残額は後日入金予定」というように残業代全額の支払いが受けられなかったときも、時効が中断するのでそうした記録も残しておきましょう。③裁判所の提訴準備
催告から最大で5ヶ月くらいは裁判外での交渉を続けますが、交渉が決裂し和解が難しいと判断された場合は、訴訟の準備を始めます。④民事提訴
催告を行った日から6ヶ月以内に裁判所へ提訴します。裁判中、時効は中断したままですので、時効を迎えて請求金額が変動してしまう心配はありません。
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3、時効を5年に伸ばす可能性も
まだ検討段階ですが、未払い残業代の消滅時効が現在2年のところを法改正により最長で5年に引き伸ばされる可能性が出てきています。
2018年の夏に労働政策審議会が開かれ、具体的な議論が行われた結果、時効の見直しのため、労働基準法(以下、「労基法」)の改正が妥当と判断されれば、早くても2019年に法案提出、2020年に.改正法が施行される見込みとなっています。
これには2017年の民法改正が関係しています。改正前、一般的な債権の消滅時効は10年のところを、「医師が患者に診療報酬を請求する権利は3年」「弁護士が依頼者に弁護士費用を請求する権利は2年」と、債権の種類によって例外的に消滅時効を短くしていました。労働者が会社に賃金を請求する権利も、民法上では消滅時効1年と定めていましたが、それではあまりにも短いので、労基法115条で2年と定め、労働者を保護していました。
しかし、債権の種類によって消滅時効が異なるのがわかりづらいために、2017年の改正で種類を問わず、「債権者が権利行使できることを知った時から5年」と統一されました。労働者の保護を図る目的で2年に設定した消滅時効ですが、2018年現在、民法の消滅時効の方が長くなったので、労基法上の消滅時効2年がもはや機能していない状態になっているのです。
そこで残業代請求の消滅時効を5年に伸ばそうとする議論が進められているのですが、これは企業側の負担が大きく、法改正に反対する経営者の声も多いようです。しかし労働者にとって、働いた分だけ給与の支払いを受けるのは当然のことです。この法改正により、未払い残業代をさらに高額となって請求できるようになるので、メリットは大きいと言えます。
たとえば、毎月の未払い残業代が10万円発生していたとして、現行法に基づき2年分の残業代を請求する場合、金額は10万円×24ヶ月=240万円です。ところが2020年の改正後は5年前まで遡れるので10万円×60ヶ月=600万円分の残業代を請求できる計算になります。この金額の差は大きく、残業代を請求しようとしている労働者にとっては法改正を期待したいのが本音でしょう。今後の議論がどう動くか見守っていきたいところです。
4、まとめ
残業代の請求を検討している人は、たいてい残業時間が長時間に及んでおり、未払い残業代を計算してみても相当な金額になっているものです。しかし、すべての手続きを一人で行うのは限界があり、労働問題に詳しい弁護士に相談しながら進めた方が、スムーズに手続きを行えます。
催告から交渉、提訴まで一連の手続きを弁護士に任せれば、請求者は仕事に専念でき、会社との交渉に頭を悩ませることもありません。未払い残業代の請求を検討している方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 京都オフィスへご相談ください。
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