認知症の相続人には成年後見人が必要? 選任方法や手続きの注意点

2020年02月07日
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認知症の相続人には成年後見人が必要? 選任方法や手続きの注意点

遺産相続の際、相続人は全員で遺産分割会議を行うことになります。しかし、なかには高齢で認知症を患っている相続人がいるケースもあるでしょう。平成29年度の「高齢社会白書」によると、2025年には認知症の有病率が20%ほどになる見通しです。認知症が進行すると意思表示が難しくなりますが、相続など重要な法的手続きをする上でも避けては通れない問題です。
そこで今回は、相続人の中に認知症の方がいる場合の相続手続きと、代理人となる成年後見人の必要性について、京都オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。


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1、成年後見制度とは

成年後見制度とは、遺産分割協議書へのサインや契約を自身で行うのが難しいとされる方を守るための制度です。本人の状態に応じて、家庭裁判所で成年後見人が選出されます。ちなみに、未成年に対しては法定代理人か未成年後見人がつきます。

もし、相続人が認知症や知的障害を持たれている場合、契約の際に悪徳業者にだまされて多額のお金を失うなどの危険性もあります。そこで、判断能力が十分でない相続人に対しては、代理となる成年後見人が任命されるのです。

2、成年後見人の選任と役割

成年後見制度には、2種類あります。

  • 法定後見
  • 任意後見


法定後見は、すでに相続人自身の判断が難しい場合に配偶者などが家庭裁判所に選任を申し立てるものです。一方、任意後見は、まだ相続人の判断能力があるうちに自身で後見人を選任し選任した方と公正証書で任意成年後見契約を締結し、判断能力の低下があったときに家庭裁判所に後見監督人選任の申し立てをします。

法定後見の場合は家庭裁判所が成年後見人を選任します。その際、同じく相続人にあたる人物や未成年者など、相続人の不利益となる判断をしかねない人物は除外されます。
選任された後見人は、被後見人の身の上の監護と財産管理の責務を負うことになります。特に財産に関しては、毎年収支報告を裁判所に提出しなければなりません。また、契約の代理を行う包括代理権が与えられ、もしも意思能力がない被後見人が勝手に契約をしてしまった場合、それを取り消す権利も与えられています。

このほか、成年後見人を選任するほどではない中程度の認知症であれば「保佐人」、より軽度であれば「補助人」が任命されることもあります。

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3、認知症の相続人には、成年後見人が必要?

成年後見制度を利用した場合、後見人であれば被後見人の代理、保佐人や補助人であれば同意する存在として遺産分割協議に関わります。見ず知らずの他人である成年後見人との話し合いに加え、面倒な手続きや費用がかかることから「できれば利用したくない」という意見もあるでしょう。

判断能力がない認知症の相続人には、必ず成年後見人を立てなければならないのでしょうか?

  1. (1)積極的に遺産分割協議へ参加するなら、必要

    遺産分割協議によって遺産の分配を決めたいと考えているのであれば、成年後見制度を使う必要があります。
    遺産分割協議は相続人全員の合意を持って初めて有効となるものです。したがって、認知症の方がいる場合、その方の意思能力がないと判断された時点で遺産分割協議書は無効となります。そのため、成年後見制度の利用を余儀なくされるでしょう。
    相続人に認知症の疑いがあるならば、遺産分割協議の前に必ず医師の診断を受けてください。

  2. (2)法定相続分どおりに分けるなら、不要

    遺産分割協議なしで遺産を分けるなら、法定相続分どおりに分けるしかありません。この方法なら、認知症の相続人に対する不利益を出さず公平であるため、成年後見制度を利用せずに遺産を分け合うことができます。

    ただし、この方法では「遺産のえり好み」が認められません。
    たとえば「Aさんは現金、Bさんは株式、Cさんは土地」といった分け方はできず、全ての財産を法定相続分に応じて共有することになります。これでは非常に不便でしょう。

    どうしても成年後見制度を使いたくないのであれば、あらかじめ現預金以外の財産を処分するなどの手段をとっておく必要があります。

  3. (3)遺言に沿って遺産分割するなら、不要

    認知症になった相続人の意思が関わらない遺産分割の方法として、もっとも有効な方法が遺言です。遺言は、被相続人の意思のみが問われるため、遺産分割協議を経ずに相続が行われます。被相続人が生きているうちに遺言が書けるのであれば、ベストな方法といえるでしょう。

4、成年後見制度を利用する流れ

相続に際して成年後見制度を利用する場合は次のような手続きを行います。

  1. (1)申し立て

    成年後見制度の申し立ては、本人の住所を管轄する家庭裁判所に対して行います。申し立ての際に必要な書類は次のものです。

    • 申立書
    • 本人の戸籍謄本、住民票
    • 本人の登記されていないことの証明書
    • 後見人候補者の戸籍謄本、住民票
    • 後見人候補者の登記されていないことの証明書
    • 診断書
    • 親族関係図
    • 財産目録
    • 収支状況報告書
    • 財産や収支状況に関する資料
    • 申立事情説明書
    • 親族の同意書
    • 後見人等候補者事情説明書


    申し立て費用は、返信用の郵便切手代と800円分の収入印紙代です。

    申し立てることができるのは、本人とその配偶者、4親等以内の親族、任意後見人、任意後見監督人などです。後見や補佐開始については代理による申し立てが一般的となる一方で、補助開始の手続きに関しては本人の同意によってのみ行われます。

  2. (2)家庭裁判所での面接と鑑定

    申し立てた内容をもとに、家庭裁判所で面接が行われます。足が不自由など家庭裁判所への出頭が困難な場合は自宅等で面接が行われることがあります。認知機能に問題がないか、成年後見制度の悪用や誤った利用がないか、さまざまな質問をされるでしょう。本人の状況のほか、利用の経緯や家族関係、抱えている問題なども確認されます。成年後見制度には「誰がその役目を担うか」という問題があるため、親族間の対立や後見人候補の人となりも調べる必要があるのです。
    また、本人に判断能力が残っている場合は、本人との面接も行われます。

    申し立ての段階で提出された診断書と面接だけで判断しかねる場合は、裁判所の責任で鑑定が行われます。鑑定の結果、認知症でも成年後見制度の利用をせずに済む可能性もあります。

  3. (3)審判と後見の開始

    申し立てから概ね1?2か月を経て、家庭裁判所による後見開始の審判が出されます。主な内容は、成年後見制度利用の可否と、誰が後見人となるかです。場合によっては後見監督人が選ばれることもあります。
    そして審判内容に基づいて、後見開始の登記が行われるのです。

5、弁護士が成年後見人を務めるメリット

後見人は、判断能力のない本人に代わり責任を持って財産を守る責務があります。問題がなければ親族が担うことも可能ですが、法律に詳しい弁護士に依頼すると次のようなメリットがあります。

●後見開始までの手続きを代行
弁護士は、後見開始の審判から手続きを代行することが可能です。スムーズに手続きを進められるとともに、中立的かつ正確な情報を裁判所に伝えられます。

●法にのっとった財産管理とトラブル対応
成年後見人としてサポートする場合、財産管理についての判断や、裁判所への報告など面倒な手続きも多く発生します。親族が成年後見人になるとすれば、これらは大きな負担でしょう。費用はかかりますが、手間や精神的な負担を減らしたいのであれば、弁護士へ一任することをおすすめします。

6、まとめ

高齢化社会を迎えるわが国において、認知症はひとごとと言えません。相続人の認知症を無視して遺産分割を行うと、不利益が出てしまったり遺産分割協議が無効となったりしてしまう可能性があります。成年後見制度を利用した方が良いかどうかの判断も含め、早めに弁護士へ相談してください。相続人の誰かに認知症の疑いがあるなら、まずは病院での診断を受け、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスまでご連絡ください。経験豊富な弁護士が、相続に適切な選択を一緒に考えます。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています