建造物侵入罪に科される刑罰とは? 逮捕されたときの対処法も解説
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建造物侵入罪は、いわゆる不法侵入と呼ばれる行為に適用される犯罪です。しかし、不法な侵入の範囲は一般的にイメージされるよりも広いため、思いがけず建造物侵入罪に問われてしまう場合もあります。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・建造物侵入罪が成立する要件や科せられる刑罰
・不法侵入で問われるおそれがある犯罪
・建造物侵入罪で逮捕されてしまった場合の対応
建造物侵入罪や不法侵入などで逮捕されてしまった方に向けて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、建造物侵入罪とは?
まず、建造物侵入罪の概要や成立要件について解説します。
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(1)建造物侵入罪とは?成立の要件
建造物侵入罪は、刑法第130条の前段に規定されている犯罪です。
条文では、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入」した者を罰するとされています。
法律上は、人の住居への侵入を住居侵入罪と呼び、人の看守する邸宅・建造物・艦船への侵入を建造物侵入罪と呼ぶことで区別されています。
いわゆる不法侵入と呼ばれる行為は、住居侵入罪または建造物侵入罪のいずれかに該当すると考えればよいでしょう。
建造物侵入罪は、空き家などの人の看守する(人が事実上支配・管理している)邸宅、マンション・ビル・店舗・施設などの建造物、船舶などに無断で立ち入った場合に成立します。
また、侵入というと、閉じられている門を開ける、塀や柵を乗り越えるといった行為をイメージされる方が多いでしょう。
しかし、出入りが自由な建造物でも、立ち入り禁止、関係者以外の立ち入りお断り、といった表示を無視して立ち入れば、建造物侵入罪が成立するおそれがあるのです。
また、冒頭で挙げた事例では、学校のグラウンドへの侵入で逮捕されています。
グラウンドそれ自体は邸宅や建造物といった建物ではないため、そこへの立ち入りが罪になることに違和感を覚えた方もいるかもしれません。
しかし、建造物侵入罪では、塀・柵・フェンスなどで囲った「囲繞(いにょう)地」も対象に含まれています。
そのため、学校のグラウンドやマンションの駐車場や庭など敷地に立ち入っただけでも、建造物侵入罪が成立する可能性があるのです。 -
(2)建造物侵入罪に問われるケース
建造物侵入罪に問われるおそれがあるケースとしては、以下のようなものがあります。
- 誰も住んでいない空き家に、いたずら半分で侵入した
- 閉鎖されている遊園地やホテルなどの施設に肝試しと称して立ち入った
- 盗撮などの目的で公園の女性トイレに男性が忍び込んだ
- 用を足す以外の目的で多目的トイレに入った
- 新聞記者が会議を盗み聞きしようと考えて施設の立ち入り禁止区域に立ち入った
- 出入り自由なパチンコ店に、不正行為をはたらく目的で客を装って入店した
不法侵入の典型的なイメージ通りの事例もあれば、出入りそのものは自由な施設であっても侵入の目的によっては犯罪が成立するという事例もある点に注意してください。
住居等侵入罪において、「侵入」とは、その目的を管理者が知っていれば立ち入りを認めなかったであろうといえる場合を指します。不当な目的を有していれば、管理者が立ち入りを認めないケースが多いでしょうから、出入り自由の場所でも不法侵入となってしまいうるのです。
また、正当な理由が存在する場合には、原則として建造物侵入罪は成立しません。
たとえば、委託を受けた業者が施設管理のために立ち入る、倒壊の危険がある空き家の調査で自治体職員が立ち入るといったケースでは、罪に問われないのです。
2、建造物侵入罪で科せられる刑罰
建造物侵入罪には、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられます。
裁判所が公開している通常第一審の科刑状況によると、令和4年、建造物侵入罪・住居侵入罪を含めた「住居を侵す罪」で有罪判決を受けて懲役に処された人は389人、罰金に処された人は41人でした。
その内訳は下記のとおりです。
- 3年……実刑1人
- 2年以上……実刑5人・全部執行猶予18人
- 1年以上……実刑69人(うち一部執行猶予2人)・全部執行猶予135人
- 6カ月以上……実刑69人(うち一部執行猶予1人)・全部執行猶予82人
- 6カ月未満……実刑10人
- 30万円以上……3人
- 20万円以上……2人
- 10万円以上……35人
- 5万円以上……1人
実際の刑事裁判では、刑の全部執行猶予を言い渡されているケースも多く存在します。
しかし、実刑判決が言い渡された人の数も決して少なくないので、建造物侵入罪で捕まっても大した刑罰にはならないなどと軽視しないようにしましょう。
3、不法な侵入で問われるおそれがある犯罪
建造物侵入罪や住居侵入罪は、ほかの目的の手段として成立することも多い犯罪です。
以下では、不法な侵入を手段として成立するおそれがある犯罪について解説します。
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(1)窃盗罪
建造物侵入罪などと特にセットになりやすいのが、刑法第235条の「窃盗罪」です。
侵入はあくまでも金品などを盗むための手段であり、盗むという行為があった場合には建造物侵入罪と同時に窃盗罪が成立します。
また、たとえ金品などを盗むに至らなくても窃盗未遂となりえます。
盗むという行為ではイメージしにくいかもしれませんが、建造物侵入罪と窃盗罪が同時に成立する典型となるのが、パチンコ店における不正行為、いわゆるゴト行為です。
遊技台を不正に操作する機器や道具などを持ち込んで出玉を得る行為は、出玉を盗むと解釈されるため、ゴト行為には窃盗罪が適用されます。
そして、実際にゴト行為をはたらく前に発覚した場合でも、窃盗目的をもった侵入であるために、建造物侵入罪に問われることになりうるのです。
なお、窃盗のために建造物(住居)に侵入するケースなどにおける、建造物侵入罪(住居侵入罪)と窃盗罪のように、手段と目的の関係にあって切り離すことができない犯罪を、牽連(けんれん)犯といいます。
牽連犯の関係にある犯罪では、ひとつの行為が複数の罪にあたるとしても、もっとも重い刑罰で処断されることになっています(刑法第54条1項後段)。
たとえば、窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金であり、建造物侵入罪よりも重いので、両方が同時に成立し、建造物侵入罪が窃盗罪と、手段と目的または原因と結果という関係に当たっている場合はもっとも重い窃盗罪が問われることになるのです。 -
(2)迷惑防止条例違反
痴漢や盗撮といった不法の目的があれば、出入りが自由な店舗や施設でも、建造物侵入罪が成立します。
痴漢や盗撮は都道府県が定める「迷惑行為等防止条例」の違反となりますが、これらの行為を実際には行わなくても、違法な目的をもって店舗や施設に立ち入った時点で建造物侵入罪の対象となります。 -
(3)ストーカー規制法違反
恋愛感情や恋愛感情が満たされないことへの不満を理由に、相手を尾行または待ち伏せすることは、ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)が定める「つきまとい等」にあたりえます。
ストーカー目的で店舗や施設に立ち入ると、正規の客や利用者を装って侵入したと判断されるため、建造物侵入罪が成立することになりえます。
尾行や待ち伏せは、被害者や店舗・施設からの通報を受ければ現行犯逮捕されてしまうおそれもある行為なのです。
4、建造物侵入罪の容疑で逮捕されたときは弁護士に相談を
建造物侵入罪は建造物の所有者や管理者などの通報によって発覚するケースが多く、現場に駆けつけた警察官や警備員などの私人による現行犯逮捕がなされることもありうる犯罪です。
くわしく事情を尋ねられているなかで、窃盗、痴漢や盗撮、ストーカー規制法が定めるつきまとい等の目的の存在が発覚した場合には、さらに重い処罰を受けるおそれもあります。
建造物侵入罪の容疑で逮捕されてしまったら、速やかに見通しを立てるためにも、すぐに弁護士に相談することをお勧めいたします。
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(1)被害者との示談成立を目指す
刑事事件を穏便に解決するうえで大きな効果をもたらすのが、被害者との示談交渉です。
加害者が被害者に対して真摯(しんし)に謝罪して、精神的苦痛に対する慰謝料や損害に対する賠償を含めた示談金を支払うことで、被害届や刑事告訴を取り下げてもらえる場合があります。
そうすると、検察からも当事者同士で解決したと判断されやすくなるのです。
ただし、逮捕された本人が被害者と示談交渉することは容易ではありません。
たとえば、個人宅に侵入して住居侵入罪の容疑をかけられているケースなら被害者がどこに住んでいる誰なのかはすぐにわかります。
しかし、被害者は、加害者からの直接の連絡を拒んでしまうケースも多々あります。
さらに、建造物侵入事件では、侵入現場の所有者や管理者がはっきりしないケースも多々あります。そのような場合には、誰と話し合えばいいのかさえ分からず、示談交渉を開始することもできません。
当然、警察などの捜査機関は被害者の情報を把握していますが、捜査上の秘密や個人情報保護などの観点から、被害者の情報を個人に開示することはありません。
さらに、同じような被害に遭わないために、警鐘の意味でも厳しく処罰してほしいと考える被害者も少なくないので、交渉の場を設けられたとしても和解を成立させることは困難な場合が多いのです。
弁護士に依頼すれば、弁護士から捜査機関にはたらきかけて、被害者の情報を入手することができるかもしれません。
また、弁護士が被害者との示談交渉を代行することで、穏便な和解を実現しやすくなるのです。 -
(2)早期釈放を目指す
警察に逮捕されると、警察段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内の身体拘束を受けます。
さらに検察官の請求によって勾留が決まると、初回で10日間、延長で最長10日間以内の身体拘束を受けます。
つまり、逮捕から数えて最長23日間も社会から隔離されてしまうことになります。
身体拘束が長引いてしまうと、家庭生活や会社・学校などの社会生活に多大な悪影響が生じてしまいます。
早期釈放を目指すためには、被害者との示談成立による事件の終結を目指す、家族による監督を誓約するなど身体拘束の必要がないことを主張するといった対策が必要になります。
個人での対応は難しいので、弁護士にサポートを依頼しましょう。 -
(3)処分の軽減を目指す
建造物侵入罪は、ほかの犯罪と比べると法定刑が重いとまではいえない犯罪です。
懲役の上限は低く、罰金のみで済まされる場合もあります。
とはいえ、他人の敷地に勝手に入るということは、人々に大きな不安感を与えるものであることは間違いありませんし、実際の科刑状況をみると実刑判決を受けている人も少なからず存在するので、軽視してはいけません。
厳しい処分を避けるためには、検察官による起訴の回避が重要です。
また、刑事裁判が避けられない状況であれば、加害者にとって有利となる事情をそろえて、その事情を裁判官に対して効果的に伝える必要があります。
起訴を回避するうえでも、裁判においても、法律の専門家である弁護士に依頼することが大切です。
5、まとめ
建造物侵入罪は、空き家やビル、施設や艦船などへの不法な侵入を罰する犯罪です。
廃虚や空きビルといっても、基本的に誰の物でもないという場所は存在しないので、いたずら半分でも無断で立ち入れば不法な侵入となりえます。
また、出入りが自由な場所でも、窃盗、痴漢や盗撮、ストーキング行為などの目的があれば建造物侵入罪が成立する可能性があります。
建造物侵入罪の容疑で逮捕されてしまうと、最長23日間にわたる身体拘束を受けるだけでなく、刑事裁判で厳しい刑罰を科せられてしまうおそれもあります。
もし逮捕されたら、直後から迅速に対応することが肝心です。
逮捕された方やそのご家族の方は、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、早期釈放や処分の軽減に向けて、全力でサポートいたします。
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