職務質問で逆上して警察官に暴行! 公務執行妨害で逮捕されたらやるべきこと
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平成28年2月に京都市上京区内で、後部座席で職務質問をしていた警察官を乗せたまま車を急発進させ暴走した男と、助手席に座っていた女が、監禁および公務執行妨害の容疑で逮捕されたという事件がありました。
この事件のように家族や友人が、警察の職務質問に頭に血が上って手をあげてしまい、公務執行妨害で逮捕されることがあるかもしれません。ここでは公務執行妨害で逮捕されてしまった場合、警察や裁判でどのようなポイントが大切になるのかについて、京都オフィスの弁護士が解説します。
1、公務執行妨害とは?
日常生活で警察官による職務質問に対して、ついカッとなって警察官の腕をつかんだり、肩を押してしまったりすると、公務執行妨害の容疑で逮捕される可能性があります。
公務執行妨害罪とは、公務員が行う職務を妨害することによって問われる罪を指します。たとえば警察官に対する公務執行妨害であれば、時間がないときや心に余裕がないとき、酔っ払っているときなど、冷静とはいえない状況で発生しやすい傾向があるかもしれません。具体的に、どのような理由で罪に問われることになるのかを知っておきましょう。
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(1)公務執行妨害の基礎
公務執行妨害罪は、刑法95条第1項に定められた犯罪です。条文では「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者」と規定されています。
ここで問題となるのは公務執行妨害が成立する条件です。この刑法で守ろうとしているものは、「公務員の職務」であり、公務員個人ではありません。つまり、国が必要としている職務を妨害する者を罰するための法律なのです。よって、公務執行妨害の被害者は、被害にあった公務員本人ではなく、「国や地方自治体」となります。 -
(2)公務員とは
公務執行妨害と聞いて最初に思い浮かぶ相手は、警察官かもしれません。しかし、刑法で示される「公務員」は、行政や立法、司法に携わる国家公務員と地方公務員すべてを指します。
具体的には次のような「公務員の業務」が公務執行妨害罪の対象となります。
- 警察官
- 行政職員(県庁や市役所などの公務員)
- 税務職員(税務署の税務調査員や国税査察官)
- 裁判所職員
- 労働基準監督官
- 消防士
- 教員
- 自衛官
- 議員(国会議員や地方議会議員)
- 公立保育園の保育士
- 自治体から委託を受けている介護職員や駐車場の警備員など
また、公務員として官公庁で仕事をしている職員だけでなく、国会議員のような特別職の公務員にも適用されるのが特徴です。彼らの業務を妨害した場合は公務執行妨害の構成要件のひとつを満たします。
なお、前述のとおり、公務執行妨害で守っているのは公務員の職務です。よって、休憩中や休暇中の公務員個人に対して暴行を働いたとしても、公務執行妨害罪に問われることはありません。ただし、もちろん個人に対する暴行罪などに問われることにあります。
2、公務執行妨害に当たるのはどのような行為?
公務執行妨害の「暴行」とは人に向けられた有形力の行使のことです。したがって、間接的な行為も含まれるため、もし警察官の追跡を逃れようと投石した場合、警察官に当たらなかったとしても成立します。
具体的には、以下のような行為によって、公務執行妨害罪に問われる可能性があります。
- 警察官の職務質問に逆ギレして顔をたたく。
- 職務質問中にイライラしてパトカーを蹴る。
- 逮捕現場で警察官が差し押さえた証拠を奪い取って壊す。
- 市役所の窓口で職員を殴る、蹴る、脅す。
- 税務調査員が自宅に入らないように身体で妨害する。
公務執行妨害とは、広く公務員に対して業務を妨害するような直接的・間接的な暴力や脅迫を行った際に罪に問われます。実際に妨害できなくとも、罪を問われることがある点に注意が必要です。
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3、公務執行妨害の量刑と関連しやすい罪
公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役又は禁錮又は50万円以下の罰金」と定められています。しかし、公務執行妨害は暴行や脅迫によって成立するため、ひとつの行為で複数の犯罪に当てはまるケースが少なくありません。冒頭の事件でも、監禁罪と公務執行妨害が同時に該当しています。
なお、同時に、公務執行妨害よりも刑罰の重い罪を同時に犯した結果、有罪となったときは、より重いほうの刑罰に処されることになります。公務執行妨害と同時に犯す可能性が高い罪について解説します。
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(1)暴行罪
相手に対して殴る、蹴る、大声で怒鳴る、石を相手の身体の近くに投げつける、といった行為が暴行罪に当たります。ケガをさせてしまった場合は「傷害罪」に該当することになります。暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役、若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と定められているので、暴行罪よりも刑罰が重い公務執行妨害罪によって処罰される可能性が高いといえます。
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(2)傷害罪
暴行行為の結果、ケガをさせてしまった場合は傷害罪に該当します。傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。職務質問中に警官を蹴ってしまい、骨折や擦り傷などケガを負わせてしまった場合は公務執行妨害罪ではなく、より刑罰の重い傷害罪で罪が問われることになるでしょう。
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(3)脅迫罪
市役所の窓口職員に対して「殺すぞ」「帰り道に気をつけろ」など威嚇する行為や、警察署に「市内に爆弾を仕掛けた」「今日中に○○をしないと市民をひとり殺す」といった脅迫電話やネットの書き込みをすると、公務執行妨害罪と脅迫罪が成立する可能性があります。脅迫罪の刑罰は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」と定められていて、公務執行妨害に問われないと判断された場合でも脅迫罪に問われる可能性があります。両方の罪に問われ、有罪となったときは、より重い公務執行妨害罪の刑罰が処されることになります。
このほかにも、状況によってさまざまな犯罪が公務執行妨害罪と同時に問われる可能性があります。
4、公務執行妨害で逮捕された後の流れと対処法
もし家族や知人が公務執行妨害罪で警察に逮捕されてしまったら、どのような手続きが待っているのでしょうか。一般的に刑法犯として逮捕されたときは、「被疑者」と呼ばれる立場となり、次のような流れで罪を問われることになります。
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(1)逮捕から警察の取り調べ(逮捕から48時間以内)
警察署で身柄を拘束され、取り調べを受けます。警察は逮捕から48時間以内に、「釈放」もしくは「検察へ事件や被疑者の身柄を送致するか」を決定しなければなりません。身柄は釈放されても事件は検察に送られ引き続き捜査が行われる在宅事件扱いとなる可能性もあります。
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(2)送検から検察での取り調べ(逮捕から72時間以内)
検察へと身柄が移送されると、検察は再び取り調べを行い、24時間以内に引き続き身柄を拘束して捜査を行う「勾留(こうりゅう)」が必要かどうかを判断します。必要なときは「勾留請求」を裁判所に行い、認められると帰宅することはできません。逮捕から勾留が決まるまでの72時間以内は、家族や友人との面会は制限されます。差し入れや面談などの「接見」を自由に行うことができるのは、弁護士のみに限られます。
なお、勾留が決まると、最長20日間まで身柄を拘束される可能性があります。この間、仕事や学校へ行くことができなくなります。 -
(3)不起訴による釈放または起訴による裁判
検察は、捜査結果に基づき、被疑者を「起訴」するか「不起訴」とするかを決定します。勾留中であれば、勾留期間中に決定されますし、在宅事件扱いのときは、捜査が終わり次第決定することになります。
不起訴となった場合は釈放されますが、起訴されると裁判所が待っています。起訴にも種類があり、「公判請求」されたときは一般にも公開された刑事裁判で罪が問われることになります。原則、裁判が終わるまで身柄の拘束が続くことになるため、自由を得るためには保釈請求が必要です。なお、「略式請求」のときは、書類手続きのみで刑罰が決まるため、身柄の拘束は伴いません。 -
(4)逮捕された際の対処法は?
公務執行妨害による逮捕では、「微罪処分」として身柄の拘束を受けず、すぐに釈放されるケースや、数日警察に拘束されれば釈放されるケースも少なくない犯罪です。微罪処分となったり、不起訴となったりしたときは、前科がつくことはありません。
しかし、公務執行妨害罪で起訴される確率を低くするためには、逮捕後72時間以内でも接見可能な弁護士のサポートを受け、深い反省の気持ちを示すことが重要です。前述のとおり、公務執行妨害は公務員個人が被害者ではなく、あくまで国や地方自治体となります。よって、基本的に示談交渉はできない点が、その他の刑法犯罪とは大きく異なるポイントです。
そのため、弁護士を通じて反省の意を見える形で示し、不起訴や早期釈放を目指すように働きかけることが、家族や知人が逮捕された際に有効な対処法ともいえるでしょう。
5、まとめ
公務執行妨害罪は警察官との間で発生しやすく、暴行罪や傷害罪などほかの罪と関連しやすい犯罪です。また、被害者が国や地方公共団体であるため示談はできません。
逮捕された場合は、いかに反省しているかを伝えて不起訴や早期釈放を目指す必要があります。家族や知人が逮捕されたら、早急に弁護士を依頼して、サポートを受けることをおすすめします。適切に捜査が進められるよう、弁護士がアドバイスをはじめとした弁護活動を行います。
身近で大切な人が公務執行妨害罪で警察に逮捕されてしまった方は、ぜひベリーベスト法律事務所・京都オフィスまで相談してください。京都オフィスの弁護士があなたの大切な人が不当な扱いを受けないよう、全力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています