夫が職場で上司とケンカ! 暴行罪で逮捕されたときに家族ができること
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京都府警が公表している、平成29年中の犯罪発生状況の統計情報によると、刑法犯全体の認知件数自体は、年々減少していることがわかります。しかし、京都を代表する繁華街、祇園・木屋町両地域では、暴行・傷害などの事件が多く発生しています。京都府警中京警察署などを中心に広く注意を呼びかけ、さまざまな取り組みを行っているのです。
「暴行罪」といえば、普段から粗暴な人物だけが犯す罪だと考えていませんか? 暴行罪に問われる行為は幅広いことは、あまり知られていないようです。たとえば、あなたの大切な家族である夫が、宴会中に酔っ払い、会社の上司と口論した末、相手に水をかけてしまった場合でも、暴行罪に問われる可能性があるのです。
もし家族が暴行罪の容疑で逮捕されたら、どのような流れで取り調べや裁判が進むのでしょうか。今回は、急に家族が暴行罪の加害者になって逮捕されてお困りの方に向けて、暴行罪とは何か、家族はどのようなことができるのかを、京都オフィスの弁護士がご紹介します。
1、暴行罪の基礎知識
ニュースでよく「暴行事件」という言葉を耳にします。「暴行」罪とは、具体的にどのようなものなのかを、ご存じでしょうか。改めて確認しておきましょう。
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(1)暴行罪とは
暴行罪については、刑法第208条にて、以下のとおり定められています。
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
一般的に暴行とは、殴ったり蹴ったり、物などで殴ったりしてケガをさせる、などのイメージがあるかもしれません。しかし、「暴行」行為そのものに関する解釈としては、「加害者が『不法な有形力』を使って他人の身体に影響を及ぼすときに、暴行罪が成立する」とされています。
暴行罪が問われる可能性がある具体的な行為は、以下のとおりです。- 殴る、蹴るなどの暴力をふるった
- 相手に当たらないように刃物や石を投げた
- 水や塩を相手にかけた
- 狭い場所で長い棒を振り回した
- 他人が手に持っている空き缶を蹴った
- 相手の耳元で大音量の拡声器を使った
- LEDライトやフラッシュなどで相手の目をくらませた
ポイントとなるのは、相手の身体に触れていない状況でも暴行罪に問われることがある点です。殴る蹴るなどの暴力はもちろんのこと、運が悪ければ相手が負傷した可能性がある、もしくは加害された相手が負傷するだろうと脅威を感じた行為も暴行罪に問われる可能性があります。
よって、冒頭に登場した「酒によって水を相手にかける」行為も、暴行罪に問われ、逮捕される可能性は十分にあるということになるのです。 -
(2)傷害罪との違い
暴行されたらケガをするだろうと想定される方も多いでしょう。そのうえ「傷害」罪は別に定められているのです。不思議に思われる方もいるかもしれません。暴行罪と傷害罪の違いについて改めて確認しておきましょう。
前述どおり、暴行の罪を定めた条文では、「傷害するに至らないとき」と明記されています。よって、暴行罪は、「暴行をして相手がケガ(傷害)をしなかったとき」に成立します。
対して傷害を定めた刑法第204条では、「人の身体を傷害した者」と定義されています。つまり、暴行罪と傷害罪の最大の違いは、「ケガをしたか、していないか」にあります。ささいと思われる暴行行為であろうと、相手が負傷すれば、「傷害」の罪に問われることになるということです。
暴行行為をすれば必ず傷害を負うわけではありません。たとえば、殴っていても相手が負傷しなかったこともあるでしょう。しかし、冒頭の例のように水をかけたケースでは、一見「暴行」行為ではありませんが、かけた水が相手の耳に入ったことが原因で、中耳炎になってしまう可能性は否定できません。さらに、水のつもりで相手にかけた液体が酒だった場合は、目に入って炎症を起こすこともあり得ます。加害者の行為によって被害者が負傷すれば、傷害罪となることもあるのです。
2、暴行罪の刑罰はどのくらいか
次に、具体的な刑罰の内容を知っておきましょう。暴行の罪で有罪になったとき、処される刑罰は、刑法第208条に定められているとおりです。
特にそのほかの罪が問われていない場合は、以下の範囲内で刑罰が決まります。
- 懲役(ちょうえき)……1ヶ月から2年以下、刑務所で服役する
- 罰金(ばっきん)……1万円以上30万円以下の罰金
- 拘留(こうりゅう)……1日以上30日以内、拘置所などで身柄拘束
- 科料(かりょう)……1000円以上1万円以下の罰金
最終的な量刑は裁判官が判断します。なお、傷害罪は暴行罪より重い処罰が下されます。「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が法定刑であり、暴行罪と比較して、懲役では最大13年もの違いが生まれます。罰金も最大20万円の開きがあります。相手にケガをさせたかどうかで、処罰の重さが大きく変わるということです。
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3、暴行罪の証拠とは
刑事事件においては、証拠の検証が欠かせません。証拠には、物的証拠と人的証拠があります。
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(1)暴行罪における物的証拠とは
暴行罪は、突然の暴行行為によって成立することが多い傾向があります。また、負傷していないため、診断書などを取ることも難しいこともあります。よって、被害届を出した被害者自身が物的証拠を持っているケースは少ないといえるでしょう。
ただし、店や繁華街などに設置されている防犯カメラの映像や、第三者が撮影した動画などが物的証拠になる場合があります。 -
(2)人的証拠の重要性
物的証拠が少ない分、暴行の罪を問うケースでは、被害者の証言をはじめ、暴行現場を実際に目撃した第三者の証言が重要視されます。これらは「人的証拠」と呼ばれていますが、被害者の証言を裏付ける第三者の証言が複数集まることによって、物的証拠がなくても暴行罪の大きな証拠となります。
信ぴょう性が高い人的証拠が多ければ多いほど、物的証拠がなくても罪に問われる可能性が高くなると考えられます。
4、逮捕後の流れ
もし夫が暴行現場で逮捕されてしまったときは、どのような流れが待っているのでしょうか。刑法犯として逮捕されたあとのプロセスは、刑事訴訟法に定められています。よって、犯した罪の内容に問わず、原則的には同じプロセスを経て、罪が裁かれていくことになります。
まず、あなたの夫は、事件が発生し、警察が犯罪を認知した時点で、罪を犯したことが疑われる者を「被疑者」と呼ばれる立場となり、捜査がスタートします。
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(1)逮捕
警察によって逮捕された被疑者は、警察署で取り調べを受けます。警察は48時間以内に釈放するか、身柄や事件そのものを検察へ「送致」して、罪を裁くべきかどうかを決めます。なお、逮捕から48時間以内の取り調べ中は、家族でも被疑者と会ったり、直接連絡を取ったりすることはできません。直接会って会話するなど、自由な「接見(せっけん)」が許されているのは、弁護士のみとされています。
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(2)勾留
警察から送致を受けた検察は、送致から24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、被疑者を釈放して「在宅事件扱い」に切り替えるか、身柄をさらに確保して取り調べを続けるため「勾留(こうりゅう)」を行うかを決めます。
勾留する場合は裁判所へ「勾留請求」を行い、勾留が決定すれば最大で20日間ものあいだ、身柄を拘束されたまま、取り調べが続きます。捜査の結果、起訴するかどうかを検察が判断します。 -
(3)起訴から裁判まで
検察から起訴された「被疑者」は、「被告人」という立場へ変わります。起訴とは、裁判所での審理にかけられ、有罪か無罪か、そして有罪の場合は量刑を判断する裁判がはじまるということです。日本の司法制度においては、検察は十分な証拠をそろえてから起訴に踏み切ります。よって、起訴されたときは99%で有罪となると考えておいたほうがよいでしょう。
ただし、起訴にも種類があり、「公判請求」されるケースと「略式請求」されるケースがあります。それぞれの違いは以下のとおりです。- 公判請求……一般の方が傍聴できる公開された刑事裁判で、有罪・無罪と、有罪の際は刑罰の内容が決められる。保釈請求が認められない限り、身柄は拘束され続ける。
- 略式請求……書類のみの手続きで行われる裁判。罪を認めていて、罰金刑程度が適切と考えられるケースのみで行われる。身柄の拘束は伴わない。
5、前科をつけないためにできること
暴行罪で有罪になれば、当然、前科がついてしまいます。さらに、前科がつくかどうかの前に、長期拘束されてしまう可能性もあります。長い間仕事などにも行けなくなってしまうことにあり、状況によっては、将来に大きな影響を及ぼすことがあるでしょう。今後の家族や本人のことを考えれば、可能であれば「前科をつけず、早期釈放」を目指したいと思うことは自然なことです。
ただし、罪を認めるのか、無罪を主張するのかで、捜査や裁判の内容が大きく変わります。もちろん、被疑者やその家族がすべき対応も変わりますので、今後を見据えて必ず確認しておきましょう。あなたの夫が逮捕されてしまったときは、まずはなによりも早く、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)罪を認めているとき
「物的証拠も人的証拠もそろっていて、反省もしている。罪を認めて早期に解決したい」と考えているときは、なによりも早く、被害者との示談交渉を進めましょう。「示談(じだん)」とは、事件の当事者同士が話し合い、解決を目指すことです。
刑事事件における示談では、加害者が謝罪し、被害の弁償を申し出て、それを受けた被害者は加害者を許すという意味合いの「宥恕(ゆうじょ)文言」を示談書に入れることによる、成立を目指します。警察や検察は、被害者がいる事件においては、被害者が加害者を許しているかどうかを非常に重視するためです。
ただし、刑事事件における示談交渉は、当事者同士ではうまく進まないことが多いものです。もしあなたが被害者側であったとしたらと想像すれば、その気持ちは理解できるかと思います。そこで、示談経験が豊富で、法律の専門家である弁護士へ依頼することをおすすめします。弁護士が間に入ることで、とりあってももらえなかった示談交渉が進み、成立するケースが多々あります。
示談交渉では、示談金の調整とともに、「宥恕(ゆうじょ)文言」を含む示談書の作成が欠かせません。そのためにも、専門的な知識や経験が必要です。仮に示談が決裂したとしても、弁護士に依頼していれば、本人が罪を認めて示談交渉をしていた事実を、検察や警察に報告できます。これらの弁護活動により、刑罰が軽くなることがあるため、無駄にはなりません。 -
(2)無罪を主張するときのポイント
もし、「暴行に身に覚えがない」、「被害者との認識に大きな違いがある」などの理由で無罪を主張したいときも、いち早く弁護士に依頼したほうがよいでしょう。逮捕から勾留が決まるまで、被疑者はだれにも相談できない環境に身を置かれます。弁護士を依頼することで、対応などについてのアドバイスを求めることができます。
また、加害者が暴行する前に、相手が手を出してきた、またはナイフや包丁で刺そうとしたようなケースでは、正当防衛が認められる場合があります。正当防衛の主張が通れば、不起訴や無罪になることもあるでしょう。どのようないきさつで暴行行為に発展したかなど、弁護士にも話をして、以下に証拠を集められるかが重要となります。
6、まとめ
今回は、暴行罪とは何か、その刑罰や裁判の流れ、逮捕されたときにすべきことについてご紹介しました。大切な夫が暴行罪で逮捕されてしまったら、急なことで慌てることでしょう。取りあえず警察に駆け付けてみても、よく状況がわからないということもあるかもしれません。
刑事事件は、スピーディーに対応することが早期の解決につながります。逮捕から裁判まで専門的な手続きが続くため、家族を有利な方向へ導くためにも弁護士に相談することを強くおすすめします。状況によっては、早期釈放や、前科がつくことを回避することを目指した弁護活動が可能です。
暴行罪で夫が逮捕されてしまい、どうしたらよいかわからないという方は、ベリーベスト法律事務所・京都オフィスへお気軽にご連絡ください。刑事事件対応や示談交渉を行った経験が豊富な京都オフィスの弁護士が丁寧にご相談をお受けします。
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