偽装請負は違法! 思わぬ罰則を受けないための注意点を解説

2021年12月06日
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偽装請負は違法! 思わぬ罰則を受けないための注意点を解説

京都府の統計資料によると、令和元年(2019年)7月末日時点において、京都府内の労働者派遣事業所数は563事業所でした。

業務委託契約・請負契約などの形式をとりながら、実質的には労働者派遣契約や労働者供給契約として違法とみなされてしまう労働形態を「偽装請負」と呼びます。偽装請負をすると、派遣元(請負会社、派遣会社)と派遣先(注文者)の企業がともに罰則の対象となるため、企業は偽装請負をしてしまわないように注意する必要があります。

本コラムでは、偽装請負の概要・判断基準・罰則・回避のための留意点などについて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説いたします。

1、偽装請負とは?

偽装請負は、労働者派遣法や職業安定法に違反する行為です。
とくに人材紹介ビジネスなどを行う事業者や、人材派遣を受け入れる事業者は、偽装請負をしてしまわないように、注意しなければいけません。

  1. (1)業務委託(請負)などの形式を装った、実質的な労働者派遣・供給

    偽装請負とは、形式上は事業者間の業務委託(請負)という体裁をとりながら、実質的には労働者派遣や労働者供給であるとみなされるような労働形態をいいます

    労働者派遣については、労働者派遣法や労働基準法などの法律によって、派遣労働者の保護が図られています(労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です)。

    しかし、事業者側は、労働力に関するコストの削減や流動性の確保などを理由として、労働者派遣に関する規制を回避しようとする場合があります。
    そのために、「業務委託」「請負」などの契約名称を用いつつ、実質的には派遣労働者と同等の待遇で労働者を働かせようとする目的で、「偽装請負」が行われる場合があるのです。

  2. (2)偽装請負が禁止される理由

    偽装請負が禁止されるのは、「雇用」を前提とした労働者派遣に比べて、労働者の待遇が悪化・不安定化しやすいという理由によります

    一般に、「業務委託」「請負」という労働形態については、労働基準法や労働契約法などの労働者保護規定が適用されません。
    たとえば、受託者(請負人)に対しては残業代が支払われませんし、不当解雇に関する規制も適用されないのです。

    こうした労働法上の保護が及ばないのは、委託者(注文者)と受託者(請負人)は対等な立場にあるという建て前が前提となっているためです。

    しかし、後述するように、「偽装請負」の場合には、実際には両者の間に指揮命令関係が存在します。
    つまり、偽装請負の当事者は、実質的には労働契約における使用者・労働者の関係に相当するため、本来であれば労働者側は労働法によって保護されるべきなのです。

    そうであるにもかかわらず、使用者が「指揮命令関係によって労働者を強くコントロールしたい。しかし、待遇は業務委託並みに抑えたい」と、都合のいいところだけを取ろうとすることを企む場合があります。
    偽装請負は、まさに上記の使用者の意図を体現したものであり、労働者保護の観点から違法とされているのです。

2、偽装請負かどうかの判断基準

業務委託や請負などの名称で締結された契約が、実質的に偽装請負として違法とされるかどうかの判断基準について解説いたします。

  1. (1)指揮命令関係の有無

    そもそも、雇用と請負を区別する基準は、「指揮命令関係」の有無とされています。

    つまり、派遣先が作業者に対して、時間・場所・遂行方法などに関する具体的な指示を行うことができる関係にある場合には、「指揮命令関係あり」であるために「雇用」と判断されます。
    逆に、時間・場所・遂行方法などが基本的に作業者の裁量に任されているとすれば、「指揮命令関係なし」として「業務委託(請負)」と判断されるのです。

    偽装請負かどうかが問題となるケースの場合には、派遣先が作業者に対して指揮命令権を行使していれば、偽装請負となります
    これに対して、派遣元が作業者に対して指揮命令権を行使している場合には、派遣元を受託者(請負人)とする「業務委託(請負)」となるのです。

    この指揮命令関係の有無は、契約名称のみによって判断されるものではなく、業務の実態を観察して実質的に検討・判断されることになります。

  2. (2)職業安定法施行規則の基準による例外

    派遣先・作業者の間に指揮命令関係があると判断される場合でも、派遣元が以下の要件をすべて満たす場合には、例外的に「偽装請負(=労働者供給)」とはみなされません。

    職業安定法施行規則第4条第1項
    • 派遣元が、作業の完成について、事業主としての財政上および法律上のすべての責任を負うこと(同項第1号)
    • 派遣元が、作業に従事する労働者を指揮監督すること(同項第2号)
    • 派遣元が、作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うこと(同項第3号)
    • 自ら提供する機械や材料などを使用し、または企画作業や専門的な作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと(同項第4号)


    上記の要件が揃っているということは、派遣元・派遣先の間では業務委託(請負)の要素が揃っているということになり、労働者保護は派遣元が責任を持って行うことで確保できます。

    ただし、これらの要件をすべて満たす場合でも、労働者供給事業の禁止を潜脱するために故意に業務委託(請負)を偽装したものであって、その事業の真の目的が労働力の供給にある場合には、偽装請負として違法となります(同条第2項)。

    このように、偽装請負に該当するかどうかは、作業実態や背景事情を含めて、全体を観察したうえでの実態判断となる点に注意が必要です

3、偽装請負に対する罰則

派遣元・派遣先の事業者が偽装請負に加担した場合には、以下に記載するような、厳しい罰則を受ける可能性があります。

  1. (1)労働者派遣法|無許可労働者派遣事業の禁止違反

    派遣元が労働者派遣事業に関する許可を受けていない場合、偽装請負による労働者派遣は、無許可での労働者派遣事業の禁止規定に違反します(労働者派遣法第5条第1項)。

    なお、偽装請負が「労働者派遣」と評価されるのは、派遣元と労働者の間に雇用関係が存在し、かつ労働者が派遣先の指揮命令関係に入っている場合になります。

    この場合、派遣元は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処される可能性があるのです(同法第59条第2号)

  2. (2)職業安定法|労働者供給事業の禁止違反

    派遣元と労働者の間に雇用関係がない場合には、偽装請負は「労働者供給」に該当します。

    労働者供給事業の実施および労働者供給の受け入れは、労働組合などが無償で行う場合を除いて、一律禁止されています(職業安定法第44条、第45条)。

    したがって、偽装請負が労働者供給に該当した時点で、直ちに違法となるのです。
    この場合、派遣元・派遣先の両方が「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処される可能性があるため、十分に注意が必要です(同法第64条第9号)

4、偽装請負を回避するためのポイント

偽装請負による罰則を受けないためには、事業者は以下の点に留意して、偽装請負にあたる実態が存在しないかについて目を光らせておくことが重要になります。

  1. (1)業務委託と雇用の違いを正しく理解する

    すでに解説したとおり、業務委託(請負)と雇用は、指揮命令関係の有無を実質的に判断することによって区別されます。

    業務委託(請負)が偽装請負と判断されないようにするためには、両者の違いを正しく理解して、雇用と判断される要素がないかをチェックすることが大切です。

  2. (2)現場における作業実態をきちんと把握する

    偽装請負への該当性は実質的に判断されるため、契約書の内容だけではなく、現場でどのようなオペレーションが行われているかが重要になります。

    偽装請負を回避するためには、経営幹部が積極的に現場からの情報収集を行うことが重要になります
    そして、もし指揮命令関係をうかがわせるようなオペレーションが発見された場合には、その都度、迅速に見直しを行う必要があるのです。

  3. (3)必要に応じて弁護士のリーガルチェックを受ける

    偽装請負にあたるかどうか、すなわち指揮命令関係があるかどうかが微妙なケースでは、弁護士のリーガルチェックを受けることをおすすめいたします。

    法律の専門家である弁護士なら、実際の状況に応じて、偽装請負と判断されるリスクを分析したうえで、オペレーションの改善案を提案することが可能です。
    偽装請負による罰則などのリスクを回避したい事業者の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にまでご相談ください

5、まとめ

偽装請負は、実質的に労働者派遣や労働者供給と評価されて、派遣元・派遣先の両方が罰則の対象となってしまう可能性があります。

偽装請負であるか否かの該当性は、現場の実態をふまえて判断されるため、不安な場合は弁護士へのご相談をおすすめいたします。

ベリーベスト法律事務所各オフィスの弁護士は、労務管理を専門的に取り扱うチームと連携しながら、実際の現場状況を分析・検討したうえで、適切な対応策・改善策についてアドバイスいたします
京都市内で人材紹介ビジネスを行う事業者、または人材紹介を受け入れている事業者の方は、偽装請負に関するリスクを分析するため、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスにまでご相談ください。

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