自己都合退職時の失業保険受給方法と本当は会社都合だったときの対応
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京都労働局が公表している統計によると、令和4年度に京都労働局に寄せられた総合労働相談件数は26401 件で、そのうち「自己都合退職」にかかるものは1254件でした。前年度よりも2.8%減少していますが、少ない件数とはいえないでしょう。
自己都合退職にかかる相談でもっとも多い事例は「会社都合で退職することになったのに『自己都合』とされてしまった」というものでしょう。
もし、会社都合の解雇を受けた結果、後日届いた離職票の理由欄が「自己都合」とされていたら、どのような不利益が生じるのでしょうか? 理由欄の訂正を求めることはできるのでしょうか?
本コラムでは、不当に「自己都合退職」とされてしまった場合の対処法を、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、失業保険の受給条件と手続きの流れ
まずは失業保険の受給条件や受給手続きの流れについて確認しておきましょう。
なお、失業時に支給される手当については、失業保険や失業手当、失業給付金などさまざまな名称で呼ばれていますが、すべて同じものを指します。本来は「求職者給付」と呼びますが、ここでは「失業保険」に統一して説明していきます。
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(1)失業保険の受給条件
原則、失業保険を受給するには次の3つの条件を満たしている必要があります。
- 雇用保険に加入している
- 雇用保険の加入期間が、離職の日以前の2年間で12か月以上である
- 現在、失業中である
ここでいう「雇用保険の加入期間」として参入されるのは、勤務日数が11日以上の月だけです。
また、失業保険は「再就職を目指す人を支援する」という性格をもっているため、次のような方は雇用保険の加入期間などにかかわらず失業保険を受給できません。- 家事に専念する方
- 学業に専念する方
- 家業に従事するため就職できない方
- 起業した人、または起業準備に専念する方
- すでに次の就職先が決まっている方
- 雇用保険の対象にならない短時間就労を希望する方
- 会社役員に就任している人、または就任予定の方
- パート・アルバイトとして働いている方
- 同一事業所で就職・離職を繰り返しており、再び同一事業所に就職予定の方
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(2)失業保険を受給するための手続きの流れ
失業保険を受給するためには、次の流れで手続きを踏む必要があります。
●ハローワークで求職を申し込む
失業保険を受給するためには求職の意思を示す必要があるため、まずはハローワークで求職を申し込みます。失業保険の手続きを受け付けていないハローワークもありますので、ご注意ください。
●雇用保険説明会に参加する
求職申し込みの時点で、雇用保険説明会の日時が指定されます。指定日時に開催される雇用保険説明会に参加することで、失業認定日が決定されます。
●失業認定日にハローワークに出向く
雇用保険説明会で決定した失業認定日にハローワークを訪ねて、失業認定申告書を提出します。
●ハローワークで求職活動をおこなう
失業保険の受給には、1か月につき2回以上の求職活動が必要です。
●失業保険の受給
離職が会社都合によるものであれば失業認定日から7日間の待機期間、自己都合の場合は7日間の待機期間に加えて3か月間の給付制限が設けられています。待機期間・給付制限を経過した日から失業保険の受給が可能です。
なお、失業保険を受給できる期間や金額は、雇用保険の加入期間や離職の理由によって変動します。自己都合退職の場合、受給期間は90~150日で支給される最大額は118万円程度ですが、会社都合退職では受給期間が90~330日、最大額も260万円程度になります。
2、「自己都合退職」と「会社都合退職」、扱いに違いがある?
勤務先を退職するにはさまざまな理由がありますが、自ら退職する「自己都合退職」と会社から解雇される「会社都合退職」とでは扱いに大きな違いがあります。
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(1)自己都合退職とは
自己都合退職とは、労働者が自ら希望して退職する場合を指します。
転居する、結婚する、親の介護に専念したいなどのほか、キャリアアップのためや労働条件の良い会社に転職したいといった希望で退職するケースは自己都合退職です。また、懲戒処分の対象として解雇されたケースも自己都合退職となります。 -
(2)会社都合退職とは
会社都合退職とは、会社側の都合で退職を余儀なくされる場合を指します。
会社の倒産や人件費削減のためのリストラは当然に会社都合退職となるでしょう。
そのほか、次のような理由でも会社都合退職となりえます。- 合理的な理由もないのに解雇された
- パワハラ・セクハラ・いじめ・いやがらせを受けた
- 労働条件が労働契約締結時に明示されたものと著しく異なる
- 賃金が大幅に減らされた
- 給料の未払いが続いた
- 退職勧奨を受けた
- 月45時間を超える時間外労働が3か月以上続いた
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(3)失業保険の受給における差はあるのか?
離職の理由が自己都合退職であるのか、それとも会社都合退職であるのかは、失業保険の受給において大きな差を生みます。
前述のとおり、失業保険が受給できるまでの期間は、会社都合退職の場合で待機期間の7日間を待つだけですが、自己都合退職の場合は待機期間7日間に加えて3か月間の給付制限(※)を待つ必要があります。
(※)令和2年10月1日以降に離職した方は、正当な理由がない自己都合により退職した場合であっても、5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月となります。
また、失業保険が給付される期間は会社都合退職で最長330日間ですが、自己都合退職で最長150日間です。給付額の最大額も、会社都合退職で260万円程度ですが、自己都合退職では118万円程度となり大きな差があります。
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3、「自己都合退職」を「会社都合退職」に変えることはできるのか?
失業保険の扱いに大きな差があることを考えれば、離職の理由が自己都合退職であるか、それとも会社都合退職であるかは労働者にとって大きな問題となるでしょう。
もし、不当に離職理由が自己都合退職にされていたとすれば、会社都合退職に変えてもらうことは可能なのでしょうか?
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(1)会社が「自己都合退職」にしたがる理由
京都労働局には、令和4年度だけで1254件もの自己都合退職にかかる相談が寄せられています。退職理由を会社が恣意(しい)的に操作する必要性に疑問を感じる方もいることでしょう。
会社が「自己都合退職」にしたがる最大の理由は、雇用に関する厚生労働省からの助成金が支給されなくなってしまうからです。離職の理由が自己都合退職であるか、それとも会社都合退職であるかは会社にとっても大きな問題となりえるのです。会社が、この事情を知らない労働者に対し「会社都合退職にしてしまうと再就職が難しくなる」などと圧力をかけて、自己都合退職とする悪質なケースはあとを絶ちません。
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(2)ハローワークに相談すれば変更できる可能性がある
離職の理由を不当に自己都合退職とされてしまっていた場合は、ハローワークに相談することで変更できる可能性があります。
離職票には「具体的事情記載欄」があり、事業主が記載する欄と離職者が記載する欄の2つが設けられています。事業主の記載欄に「自己都合による退職」と記載されていても、離職者の記載欄に実際の理由を書き込んでハローワークに提出しましょう。
離職者と事業主の述べる離職理由が異なる場合、ハローワークは、事業主に事情を聞き、客観的資料を提出させます。また、必要がある場合には、離職者に対しても書類の提出を求めます。そのうえで、ハローワークにより、事業主による離職理由欄の記載に誤りがあると判断されれば、会社都合退職に変更される場合があります。
離職理由は、ハローワーク限りで変更してくれるわけではなく、ハローワークから会社に対する聞き取りや指導等が発生するという点には注意が必要です。
4、不当解雇や未払い残業代請求で争う場合の流れ
会社が離職理由を半ば無理やり自己都合退職に変えてしまっているような場合であれば、併せて会社が労働者に対して不当な扱いをしていた可能性が十分に考えられます。
たとえば、解雇理由が不当であったり、解雇の手続きが正しくおこなわれていなかったりといったケースが考えられます。また、いろいろな理由を盾に残業代を未払いのままにしている悪質なケースもあります。
解雇理由や解雇の手続きについて納得できない、未払いの残業代を請求したいといった悩みを抱えている方は、まずは弁護士に相談しましょう。
労働関係の法令に詳しく、トラブルの解決実績が豊富な弁護士であれば、労働契約書に書かれた労働条件やこれまでの給与明細、勤怠の記録などから法律上の問題点がないか精査してくれます。問題があった場合、代理人として法的主張を交えて不当解雇の撤回や未払い残業代の支払の交渉をおこなってくれるため、会社が真摯(しんし)な姿勢で話し合いに応じてくれる可能性が高まるでしょう。
もし、会社が話し合いに応じてくれない場合は、そのまま弁護士に労働審判や訴訟といった手続きのサポートを任せることも可能です。
5、まとめ
解雇・リストラなどの会社都合で退職したにもかかわらず、離職票に「自己都合退職」と記載されてしまっていた場合は「たかが離職理由」と軽視してはいけません。失業保険の給付条件において雲泥の差があるのに、会社が助成金の対象外にされないために、自己都合退職と記載しているのですから、これを受けいれる道理はないでしょう。
会社都合の退職なのに離職票に自己都合退職と記載されてしまった場合でも、ハローワークで修正される可能性があります。
また、離職理由を正確に記載しないような会社であれば、解雇理由がでたらめであったり、解雇手続きが適切におこなわれていなかったり、残業代が未払いになっていたりするケースも少なくありません。
離職理由の問題だけでなく、不当解雇や未払い残業代の問題も解決したいと悩んでいる方は、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスまでご相談ください。
労働トラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が親身になってお話を伺い、問題解決に力を尽くします。
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