朝礼やラジオ体操はサービス残業? 残業代請求について解説
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平成31年4月から各企業は、時間外労働の上限規制が盛り込まれた改正労働基準法への対応が必要となっています。
法改正などもあり、近年は企業側も労働者側もサービス残業や時間外労働についての問題意識が高くなってきました。
しかし、長年の慣習として、たとえば始業時間前に長時間の朝礼やラジオ体操など行っている会社もなかにはあります。今回は、ラジオ体操を例に挙げながら時間外労働の基準や残業代請求の流れについてベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説していきます。
1、朝礼やラジオ体操はサービス残業?
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(1)労働基準法上の労働時間
労働基準法では、1日の労働時間の上限を8時間、1週間の労働時間の上限を40時間と定めています。しかし、会社が従業員と「時間外労働協定」を締結し、労働基準監督署に提出している場合、労働者が時間外労働を行うことが認められています。
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(2)割増賃金
1日8時間、週40時間を超えて労働が発生する場合、超過時間に対しては割増賃金が発生します。割増賃金の計算方法は複雑ですが、おおむね1時間当たりの賃金の125%の額が割増賃金となります。
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(3)朝礼やラジオ体操
それでは、始業時間前の朝礼やラジオ体操は労働時間に含まれるのでしょうか。労働基準法上では、朝礼やラジオ体操の時間についての定めがありません。しかし、最高裁判所は過去の判例では、労働時間に含まれるか否かは「使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって客観的に定まる。」と判決が下されています。そのことから、始業時間前であっても朝礼やラジオ体操が「使用者の指揮命令下に置かれた時間」に該当すると、労働時間として認められます。
2、残業代請求の証拠
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(1)勤務時間の記録
労働者側が時間外労働を証明するためには、勤務時間の記録を集める必要があります。具体的には、タイムカードや勤務簿、勤務報告書です。タイムカードなどの勤務時間を証明する各書類は、コピーをとったり、写真を撮影したりしておきましょう。
会社によっては、タイムカードを導入していない場合もあります。その際は、他の書類で勤務時間の証拠をそろえる必要があります。たとえば、個人的に記載した自筆の勤務簿やパソコンに表示される時刻を撮影した写真などです。 -
(2)勤務していた証拠
勤務していたこと自体を証明する証拠も必要になります。他の社員から、自分が朝礼やラジオ体操に参加していたことの証言を集めましょう。また、朝礼やラジオ体操を行った旨が記載されている業務日報も証拠になり得ます。
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(3)「使用者の指揮命令下に置かれた時間」であることの証拠
勤務時間と勤務していた証拠をしっかりと収集したとしても、朝礼やラジオ体操が「使用者の指揮命令下に置かれた時間」であることを証明できなくてはなりません。業務命令や上司の参加の有無、欠席した際に指導が行われたかは重要なポイントになります。
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(4)雇用契約等の書類
残業代の割増賃金を算出するために、給与額・所定労働時間のルールを把握しておく必要があります。就業規則や給与明細、雇用契約書、労働契約書などを集めておきます。もし、給与明細を紛失してしまった場合は、銀行振り込みの記録をコピーしておきましょう。
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3、残業代請求の方法
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(1)残業代の計算を行う
残業時間の記録と雇用契約書を参考に、朝礼やラジオ体操での残業代を算出します。計算は個々のケースによって異なり計算は複雑ですが、おおまかな計算式は「残業代=1時間当たりの賃金×残業時間数×割増率」で求めることができます。
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(2)会社との任意の話し合い
残業代の証拠をそろえて、請求する残業代を計算した後は、会社と話し合いを行います。一般的には、直属の上司または会社の労務管理を行っている部門に相談します。証拠や書類などを会社に提出することを求められることもあるので、すべてコピーをとっておきましょう。
しかし、会社によってはコンプライアンスを無視し、話し合い自体に応じてくれなかったり、違法な理由をつけて残業代の支払いを拒否してきたりするケースもあります。 -
(3)内容証明郵便での通知
会社が話し合いに応じてくれない場合は、内容証明郵便により会社に対して労働時間や残業代を請求する旨の通知をします。内容証明郵便には、残業の事実と証拠、金額、支払期限などを記載しておきます。内容証明郵便を送付することで、残業代請求の時効が完成するのを6ヶ月先延ばしにすることができます。労働時間や残業代請求の交渉を有利に進めるためにも、内容証明郵便による通知を行っておくとよいでしょう。
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(4)労働審判
内容証明郵便による通知後も、会社からの返事がなかったり、残業代が支払われなかったりして、引き続き争っていく場合は労働審判へと進みます。労働審判では、裁判官と労働審判員を交えて、3回以内の期日で、審理を行います。基本的には、会社と労働者間で話し合いが行われますが、話し合いが難航したり、決着がつかなかったりする場合は審判が下されます。労働審判で和解が成立した場合や審判に対して両当事者とも異議を出さない場合は、その労働審判での決定事項には法的拘束力があり、強制執行をすることもできます。
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(5)民事訴訟
労働審判にて解決に至らず、審判に対して一方から異議が出た場合は、訴訟を行います。訴訟は、任意の話し合いや労働審判と比べて法的根拠のある主張と証拠が必要になります。そのため、民事訴訟を有利にすすめていくには法律の知識が必要となります。裁判を行い、最終的な裁判所の判決には、法的拘束力があり、強制執行をすることができます。
4、残業代請求を弁護士に依頼するメリット
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(1)正確な残業代請求額を算出できる
残業代請求時の、割増賃金の計算は複雑であるため、労働者が自分で正確に算出するのは難しいものです。また、割増賃金を計算するための資料が十分に集められていない場合もあります。
弁護士に依頼すると、資料や証拠が集められていない場合は、弁護士から会社に対して、資料の開示を求めることができます。開示された資料をもとに、現行の法律と照らし合わせながら、正確な残業代の請求額を算出することができます。もし、会社が資料や証拠の開示を拒否した場合も、手元の資料をもとに推定計算を行うことも可能です。 -
(2)会社側が交渉に応じてくれる可能性が高くなる
労働者が自分自身で勤務している会社に労働時間や残業代請求について交渉を行ったとしても、会社や経営者が真摯(しんし)に迅速に対応してくれない場合があります。会社によっては、交渉したいと打診しても無視されたり、わずかな金額しか支払われなかったりすることもあります。
しかし、弁護士が代理人となって会社と交渉を行うと、会社側も無視するわけにはいかず、適切に対応しなければならないという意識が働くことから、交渉が前に進むことが期待できます。 -
(3)会社と直接交渉する負担を軽減できる
現在勤務している会社や退社した会社に対して、労働時間や残業代の請求を行う場合、人間関係のストレスが負担となります。ましてや、ブラック企業の場合は非常に威圧的な態度で応答されてしまうこともあります。
弁護士に依頼した場合、労働者の方は直接的に会社と直接交渉することはありません。そのことから、交渉にともなう精神的な負担を軽減することができます。 -
(4)訴訟を提起することができる
会社側との任意の話し合いや内容証明郵便での通知を行っても、会社側が話し合いに応じない場合もあります。会社側はさまざまな理由をつけて受け入れてくれないことも十分に考えられます。
弁護士に依頼すると、最終的には訴訟も辞さないという姿勢をアピールすることができます。また、実際に訴訟にすすんだ場合も弁護士が必要な手続きを行います。
5、まとめ
朝礼やラジオ体操は、就業時間前であっても「使用者の指揮命令下に置かれた時間」に該当する場合は労働時間として認められます。残業代の請求を行うためには、証拠を集めて会社と交渉していく必要があります。弁護士に依頼することで、複雑な割増賃金の計算を正確に行え、訴訟に展開した際も速やかに手続きを進めることができます。
「就業時間外の時間が労働時間に該当するのかわからない」「参加が義務付けられている朝礼やラジオ体操について賃金が支払われていない」とお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士までご相談ください。弁護士が個々のケースに合わせて最適な解決策を提案いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています