警備員の残業代計算方法を解説|確認するときに必要な書類は?
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警備員という職業には、夜勤や早朝勤務が多い反面、具体的な業務に従事する時間は少ないなど、一般的な労働者とは異なる特徴があります。
労働基準法でも警備員については特別の規定が適用されており、残業代が発生しない場合があることにも注意が必要です。
本コラムでは、警備員の残業代に関する労働基準法のルールなどについて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、警備員の働き方の特徴
警備員の働き方には、一般的な労働者とは異なる、以下のような特徴があります。
日中のほか、人通りが少ない夜間や早朝の時間帯にも警備を行う必要があるため、警備員には夜勤や早朝勤務が命じられることが多々あります。
② 手待ち時間が長い
警備員の主な役割は、何か異常事態が発生した際に対応することです。その反面、平時にはあまりやることがないため、手待ち時間が長くなる傾向にあります。
③ 労働基準法が適用されない場合がある
「監視または断続的労働に従事する者」(労働基準法第41条第3号)として、労働基準法における労働時間・休憩・休日の規定が適用されないことがあります。
2、警備員の残業代が発生しないケースの例
一般的な労働者と異なり、警備員の労働には労働基準法の規定が適用されずに残業代が発生しない場合があります。
たとえば警備員の行っている労働が以下のような場合に合致すると、残業代は発生しない可能性があります。
- ① 監視労働または断続的労働にあたる場合(※労働基準監督署長の許可が必要)
- ② 雇用契約ではなく、業務委託契約の場合
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(1)監視労働または断続的労働にあたる場合|労働基準監督署長の許可が必要
監視または断続的労働に従事する者については、使用者(会社など)が労働基準監督署長の許可を受けた場合に限り、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されません(労働基準法第41条第3号)。
監視に従事する者および断続的労働に従事する者は、それぞれ以下のとおり定義されています(昭和63年3月14日基発150号)。① 監視に従事する者
一定の部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体または精神的緊張の少ない者
※以下のような業務に従事する者は、監視に従事する者にあたらない
- 交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等の監視等、精神的緊張の高い業務
- プラント等における計器類を常態として監視する業務
- 危険または有害な場所における業務
② 断続的労働に従事する者
休憩時間は少ないが、手待ち時間が多い者
(例)
- 通常は閑散な業務であるが、事故発生に備えて待機している者
- 寄宿舎の賄い人などで、手待ち時間が実労働時間を上回っている者(実労働時間の合計が8時間を超える場合を除く)
- 鉄道踏切保安係等で、1日あたりの交通量が10往復程度までの者
※特に危険な業務に従事する者は、断続的労働に従事する者にあたらない
上記の定義により、警備員は監視に従事する者または断続的労働に従事する者に該当する可能性が比較的高いといえます。ただし、警備員といっても、業務を行う場所や目的によって働き方は様々なため、「監視または断続的労働に従事する者」(労働基準法第41条第3号)にあたるか否かについて慎重な検討が必要になります。
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(2)雇用契約ではなく、業務委託契約の場合
企業などに雇用されているのではなく、業務委託を受けて警備業務を行う場合には、原則として労働基準法が適用されないため、原則として残業代が発生しません。
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3、警備員でも残業代を請求できるケースの例
まず、そもそも「監視または断続的労働に従事する者」(労働基準法第41条第3号)にあたらない場合、警備員であっても、使用者に対して、残業代を請求することができることは当然です。
のみならず、警備員が「監視または断続的労働に従事する者」(労働基準法第41条第3号)にあたる場合でも、以下のようなケースであれば、使用者に対して残業代を請求することができます。
- ① 適用除外につき、使用者が労働基準監督署長の許可を受けていない場合
- ② 深夜労働をした場合
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(1)適用除外につき、使用者が労働基準監督署長の許可を受けていない場合
警備員が「監視または断続的労働に従事する者」(労働基準法第41条第3号)にあたる場合でも、労働基準法の適用除外について使用者が労働基準監督署長の許可を受けていなければ、通常どおり労働時間の規制が適用されます。
この場合、警備員は使用者に対して、一般的な労働者と同様に、勤務時間に応じた残業代を請求することができます。 -
(2)深夜労働をした場合
「監視または断続的労働に従事する者」として労働時間の規制が適用されない警備員であっても、深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)をした場合には深夜手当が発生します。
深夜手当の金額は、通常の賃金(基礎賃金)に対して25%以上でとなります(労働基準法第37条第4項)。
4、警備員が残業代を請求する際の手順
警備員として働かれている方が使用者に対して未払い残業代を請求する場合には、以下のような手順で対応を進めましょう。
- ① 残業の記録(証拠)を確保する
- ② 残業代の金額を計算する
- ③ 使用者に連絡して協議をする
- ④ 労働審判を申し立てる
- ⑤ 未払い残業代請求訴訟を提起する
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(1)残業の記録(証拠)を確保する
未払い残業代の請求にあたっては、残業の記録(証拠)を確保することが重要です。
以下に挙げるような証拠などを、できる限り多く確保してください。(例)
- タイムカードや勤怠管理システムの記録
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 業務用PCのログイン履歴
- 業務日誌
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(2)残業代の金額を計算する
警備員の金額は、下記の手順で計算します。
① 1時間あたりの基礎賃金を計算する
1時間あたりの基礎賃金
=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
<原則として総賃金から除外される手当>
- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
<月平均所定労働時間の求め方>
月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月
※所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
② 以下の残業の種類ごとに残業時間数を集計する
- 法定内残業:所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない部分の労働時間
- 時間外労働:法定労働時間を超える部分の労働時間
- 休日労働:法定休日における労働時間
- 深夜労働:午後10時から午前5時までの労働時間
③ 残業代を計算する
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増率※×残業時間数
なお、ご自身で残業代を計算することが難しい場合には、弁護士に依頼して、代わりに計算してもらうことも検討してください。
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(3)使用者に連絡して協議をする
残業の証拠の確保と残業代の計算が完了したら、使用者に連絡して、未払い残業代の精算に関する協議を提案しましょう。
使用者が協議に応じたら、残業の証拠と計算の根拠を示して、適正額の残業代の支払いを求めてください。 -
(4)労働審判を申し立てる
使用者が残業代の支払いに応じない場合には、裁判所に労働審判を申し立てることを検討しましょう。
労働審判手続きは、労使紛争を迅速に解決することを目的とした法的手続きです。
裁判官1名と有識者から選任される労働審判員2名が、調停または労働審判により紛争解決を図ります。
労働審判は原則として3回以内の期日(開催日)で終結するため、最初の期日までに十分な準備を整えることが重要です。 -
(5)未払い残業代請求訴訟を提起する
労働審判に対して異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟手続きへ移行します。
また、労働審判を経ずに訴訟を提起することもできます。
未払い残業代請求訴訟では、労働者側が残業代請求権の存在を立証しなければなりません。訴訟手続きの流れやルールも専門的かつ複雑な面が多いので、労働者ご自身が対応するのは非常に大変です。
そのため、訴訟の手続きは法律の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
5、まとめ
警備員が勤務先に残業代を請求できるかどうかは、就労の形態や契約の形態や労働基準監督署長の許可の有無などによって異なります。
自分の状況では残業代が請求できるかどうかということを知りたい場合や、実際に残業代を請求するための法律的な手続きを実行する場合には、法律の専門家である弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 京都オフィスでは、警備員の方も含めて、労働者の方々からの残業代請求に関するご相談を随時受け付けております。
未払い残業代を請求することを検討されている方は、まずは当オフィスまで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています