パティシエは残業代を請求できる? 未払い残業代を請求する方法を解説

2023年09月19日
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パティシエは残業代を請求できる? 未払い残業代を請求する方法を解説

京都といえば和菓子のイメージが強いかもしれませんが、京都府内各地には有名な洋菓子店も数多くあります。京都市内には製菓専門学校も存在しており、パティシエを目指している方も多いでしょう。

パティシエのなかには「毎日残業をしているのに、適正な残業代が支払われていない…」という悩みを抱いている方もおられます。パティシエなどの職人の世界には「一人前になるまでは修行の一環だから残業代は支払われない」との慣習が残っているために、残業代が支払われていない職場もあります。

しかし、法律的には、職人の世界であっても残業代を払わないことは違法です。本コラムでは、パティシエが未払い残業代を請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。


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1、そもそも残業の定義とは

まず、「残業」の定義や残業代の計算方法など、基本的な事項を解説します。

  1. (1)残業とは

    残業には、大きく分けて「法外残業」と「法内残業」の2種類があります。

    法外残業とは、法定労働時間を超過した残業のことをいいます。
    労働基準法では、1日8時間および1週40時間を法定労働時間と定めており、これを超えて働いた場合には法外残業になります。
    法内残業とは、所定労働時間を超過して、法定労働時間の範囲内で行われる残業です。
    「所定労働時間」とは会社が独自に定める労働時間であり、労働契約書や就業規則などで規定されています。

  2. (2)残業に対しては残業代の支払いが必要

    法外残業および法内残業のどちらについても、残業をした場合には残業時間に応じた残業代の支払いが必要になります。

    法内残業であれば所定の賃金の支払いで足りますが、法外残業の場合には、以下のような割増率によって増額した割増賃金の支払いが必要になります

    • 時間外労働……25%以上
    • 月60時間を超える時間外労働……50%以上
    • 深夜労働……25%以上
    • 法定休日労働……35%以上
  3. (3)残業代の計算方法

    残業代の金額を求めるための計算式は「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率」です、

    ① 1時間あたりの基礎賃金
    月給制の会社では、1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算式で求めることができます。

    1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の所定労働時間
    1か月の所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12


    なお、上記の計算で用いられる月給には、以下のような手当などは含まれていません。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住居手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    ② 残業時間
    残業代を計算するためには、残業時間を算出することが必要になります。
    しかし、割増率は残業をした時間や曜日などによって異なるため、以下のように区別した残業時間を算出するようにしましょう。

    • 法内残業
    • 法外残業
    • 休日労働
    • 休日の深夜労働
    • 深夜残業時間
    • 時間外労働時間が月60時間を超えた時間
    • 時間外労働が月60時間を超えて深夜残業があった時間


    ③ 割増率
    残業をした時間や日に応じた割増率は、以下のように定められています。

    • 法内残業……0%
    • 法外残業……25%以上
    • 休日労働……35%以上
    • 休日の深夜労働……60%以上
    • 深夜残業時間……50%以上
    • 時間外労働時間が月60時間を超えた時間……50%以上
    • 時間外労働が月60時間を超えて深夜残業があった時間……75%以上

2、パティシエの残業代は請求できるのか

パティシエには、一般的な労働者とは異なり「職人」という側面もあります。
以下では、パティシエが残業代を請求することができるかどうかについて解説します。

  1. (1)パティシエでも残業代請求は可能

    店舗で勤務するパティシエのほとんどは、店舗との間で労働契約を締結していますので、労働基準法上の「労働者」に該当します。
    労働基準法上の労働者であれば使用者の指揮命令下に置かれている時間が「労働時間」となりますので、残業が発生した場合には残業代を請求することができます。

    パティシエは、業務終了後に新作メニューの開発や技術を向上させるための練習のために居残りで作業をすることがあります。
    パティシエの世界では、このような修行のための作業については無給で行われるケースが多いようです。
    しかし、修行のための時間も業務と完全に無関係な時間とはいえず、使用者の指揮命令下に置かれている時間と評価することができるため、残業代を請求することが可能です。

    一般的な企業でも業務終了後の研修に関しては、残業代の支払いが必要になります。
    それと同様に、パティシエの修行時間も、多くの場合には残業代の支払いが必要になると考えられるのです。

  2. (2)パティシエの未払い残業代が問題となった事案

    令和3年には、兵庫県の人気洋菓子店の運営会社が社員らに対して過労死ラインを超える月100時間以上の時間外労働をさせていたとして、労働基準監督署から是正勧告を受けていたという報道がありました。
    同社では、社員ごとに労働時間を定め、固定残業代を支払い、所定の労働時間を超えた分を別途支払う仕組みがとられていましたが、実際には一部の社員に超過分の残業代を支払っていなかったようです。

    この事件のように、パティシエだからといって残業代の支払いが不要になるわけではありません
    パティシエとして店舗や企業に勤めているが、自分の残業代が支払われていない場合には、会社に対して残業代を請求するという対応も検討しましょう。

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3、パティシエの残業が認められない場合

業務終了後の居残りであっても、具体的な状況によっては、残業時間として認められない場合があります。
残業時間にあたるかどうかは使用者の明示または黙示の指示によって業務に従事しているかどうかによって判断されるためです。

厚生労働省が公開している労働時間に関するリーフレットでは、研修・教育訓練のうち、以下の事例については、労働時間には含まれないとしています。

  • 終業後の夜間に行う勉強会のうち、参加の強制をせず、不参加による不利益が生じないもの
  • 労働者からの申し出により会社の設備を無償で使用することの許可を得た上で行う訓練
  • 外国人講師を呼んで開催している任意の英会話講習


これらの事例を参考にすると、パティシエが自分の技術を向上させるために自分自身の意思で行う居残りでの調理修行については、残業とは認められない可能性があるでしょう。

4、パティシエの未払い残業代を請求する方法

以下では、パティシエの方が未払い残業代を請求するための具体的な方法を解説します。

  1. (1)未払い残業代の証拠をそろえる

    未払い残業代を請求するには、まずは残業をしたという証拠を集める必要があります。

    パティシエの残業は、ほとんどの場合は業務終了後に行われるため、タイムカードなどでは残業時間の立証ができない可能性があります。
    しかし、タイムカードが使えない場合にも、以下のような証拠をそろえることで未払い残業代を請求できる可能性があります

    • 業務日報
    • メールなどでの作業指示
    • メモや日記


    メモや日記などの記録は、撮影日時のわかる写真を添付していると証拠価値が上がります。
    また、毎日仕事が終わった時間を家族などにメールやLINEで伝えるなどしておくと(「今から帰ります」等)、タイムカードがなかったり、タイムカードで打刻後の残業を証明したい場合などにとても有用です。
    どのような証拠が必要になるかは具体的な状況によって異なってきますので、必要な証拠がわからないという方は、弁護士に相談してみてください。

  2. (2)残業代を計算する

    証拠が確保できたら、次は、未払い残業代の金額を計算しましょう。

    残業代の計算方法は、第1章で説明したとおりですが、固定残業代制度を採用しているなど実際の賃金体系によっては、計算方法はさらに複雑なものになります。
    正確な未払い残業代を計算するためには知識と経験が必要になりますので、専門家である弁護士に任せることも検討してください。

  3. (3)会社と交渉する

    残業代の金額が計算できたら、会社や経営者に対して請求を行いましょう、

    いきなり労働審判や訴訟を行うこともできますが、話し合いをした方が早期解決を望めるため、まずは会社との交渉を行うことが一般的です
    会社との交渉では、労働者側が計算した未払い残業代の金額とその根拠を示して、会社に対して支払いを求めていくことになります。
    自分ひとりで会社と交渉することが不安な場合には、交渉への同行や交渉の代行を弁護士に依頼することもできます。

  4. (4)会社と和解できない場合は労働審判・訴訟を行う

    会社との話し合いでは和解に至らない場合には、裁判所に労働審判の申立てや訴訟提起を行うことになります。

    労働審判や訴訟となれば、専門的な手続きになりますので、法律に関する知識や経験がなければ適切に手続きを進めていくことは困難です
    審判の申し立てや訴訟の提起を行う際には、専門家である弁護士に依頼してください。

5、まとめ

「パティシエは職人でもあるから、残業代を請求することはできない」と考えている方も多くいます。
しかし、パティシエであっても使用者の指揮命令下で仕事をしている場合には、法律上は「労働者」と見なされます。
そのために、未払いの残業代があれば請求することができます。

ただし、残業代が請求できるかどうかは、使用者の明示または黙示の指示によって業務に従事していたかどうかなど、具体的な状況によって判断が異なってきます。
京都市内でパティシエとして働かれている方で、会社やお店に対して残業代を請求することを検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所 京都オフィスにご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています