盗品等有償処分あっせん罪|刑罰や成立要件を解説
- 財産事件
- 盗品等有償処分あっせん罪
SNSなどを通じて犯罪行為に加担するメンバーを募集する、いわゆる「闇バイト」に関与してしまう若者の存在は、社会問題となっています。
令和4年5月には京都市中京区にある高級腕時計の取扱店から総額6900万円相当の腕時計が強奪される事件が起きましたが、この事件で検挙された実行犯らも闇バイトで集められたメンバーでした。
「短時間や簡単な仕事で高収入を得られる」という誘い文句に釣られてしまうと、取り返しのつかない事態に発展してしまうおそれがあります。上記の事件でも、実行犯のほかにも奪った腕時計を売却した疑いで男女4人が逮捕されています。罪名は「盗品等有償処分あっせん罪」です。
本コラムでは、犯罪が成立する要件や科せられる刑罰、容疑をかけられて逮捕されたときの解決策などについて、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。
1、盗んだ本人だけではない! 盗品の売買に関わると犯罪になる
他人の金品などを盗む行為は、刑法第235条の「窃盗罪」にあたります。
窃盗という行為をはたらいた本人は窃盗罪によって厳しく処罰されますが、その行為の先で不法に得た盗品に関与する者がいれば、関与した者も処罰の対象となります。
以下では、「盗品等有償処分あっせん罪」とはどのような犯罪なのかを確認していきます。
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(1)「盗品等有償処分あっせん罪」は盗品等関与罪のひとつ
刑法第39章には「盗品等に関する罪」が設けられています。
この章に定められている犯罪は別名で「盗品等関与罪」と呼ばれており、第256条2項に定められているのが「盗品等有償処分あっせん罪」です。
条文によると、盗品その他財産に対する罪にあたる行為によって領得された物について、その有償の処分のあっせんをした者を罰すると定められています。
本罪は、盗品等の有償処分をあっせんした者を罰する犯罪です。
たとえば、窃盗事件の被害品を買取店や質屋に売却したり、ネットオークションやフリマアプリなどを使って転売したりといった行為が処罰の対象になります。 -
(2)盗品等関与罪が定められている理由
窃盗罪をはじめとした財産犯においては、本犯となった者だけがその不法な利益を得るとは限りません。
たとえば、窃盗罪の手口のひとつであり車を盗む行為を指す「自動車盗」は、単に車を盗んで自分の物にしたいという目的よりも、組織的に車を盗んで売却し利益を得るという目的のほうが強い犯罪といえます。
刑法には「共犯」という考え方があるので、一緒になって車を盗む計画を画策したり、窃盗の実行を手伝ったりすれば共犯が成立します。
しかし、盗んだ車の処分に関与しただけでは共犯にならないので、一連の犯行に関与したすべての者を処罰することはできません。
すると、窃盗の実行犯だけが処罰され、背後の関係者は罪を問われないという不条理な事態が起きることになります。
そのような事態を回避するために適用されるのが、盗品等関与罪です。
盗品等関与罪が定められた目的については、次のような説があります。- 追求権説
盗品等の行方の追求を困難にする行為が犯罪であるとする説 - 違法状態維持説
窃盗などによって生じた違法な状態を維持することが犯罪であるとする説 - 利益関与説
窃盗などによって得た利益の分配を受けることが犯罪であるとする説 - 事後従犯説
盗品等の処分を可能とする仕組みを形成することで、さらに財産犯を助長させる行為が犯罪であるとする説
現在の裁判所の考え方は追求権説を基礎としながらも、ほかの説を複合的にとらえて判断することが通説になっています。
- 追求権説
2、盗品等有償処分あっせん罪の成立要件と刑罰
以下では、盗品等有償処分あっせん罪に焦点を当てながら、犯罪が成立する要件や逆に成立が否定される条件、法律が定める刑罰の重さなどを解説します。
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(1)盗品等有償処分あっせん罪が成立する要件
盗品等有償処分あっせん罪が成立する要件は、以下の4つです。
- 財産犯によって領得された盗品等であること
盗品等有償処分あっせん罪が処罰の対象とするのは財産犯によって領得された盗品等に限ります。
窃盗事件のほか、詐欺事件や横領事件によって不正に取得された金品などがこれに該当します。 - 財産犯事件を犯した本人ではないこと
盗品等有償処分あっせん罪が処罰の対象とするのは、窃盗などの財産犯事件を起こした本人ではない者です。
犯人が事後の行為として盗品等を処分するのは当然なので、個別に処罰する規定はありません。
なお、犯人からの委託があったかどうかは問わないので、たとえば盗品等を勝手に売却するなどの行為があった場合も本罪による処罰の対象になります。 - 有償処分のあっせん行為があること
有償処分とは、売買や交換といった行為を指します。これを「あっせん」する行為が本罪による処罰の対象です。
ここでいう「あっせん」とは、有償処分を仲介・周旋する行為を指します。
なお、処罰の対象となるのはあっせん行為そのものなので、いくらで処分できたか、あっせん行為によって売買契約が成立したのかといった点は問いません。 - 盗品等という認識があること
盗品等有償処分あっせん罪の成立には「盗品等である」という認識が必要です。これを刑法では「故意」といいます。
ただし、誰が盗んだ物なのか、本来の所有者は誰なのかといった認識までは求められていません。
また、明確に盗品等であるとまでは認識していなくても「盗んだ物かもしれない」という程度の認識がある場合は「未必の故意」として処罰の対象になりえます。
- 財産犯によって領得された盗品等であること
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(2)盗品等有償処分あっせん罪の成立が否定される条件
盗品等有償処分あっせん罪にあたる行為があるように見えても、実際にはその成立が否定される場合もあります。
まず「故意」がない場合です。
盗品等有償処分あっせん罪の成立には「盗品等である」という認識が必要なので、盗品等と知らずに売買などをあっせんしても罪にはなりません。
ただし、取り調べにおいて「知らなかった」と主張しても故意あるいは未必の故意を疑われる可能性があるため、容疑をかけられた場合は故意がなかったことを争う必要がでてきます。
次に「親族相盗例」にあたる場合です。
刑法第257条1項には、盗品等関与罪について、配偶者との間、直系血族・同居の親族、もしくはこれらの者の配偶者との間で起きた場合は刑を免除するという規定があります。
たとえば、窃盗事件の犯人の配偶者が盗品を買取店などで売却しても、親族相盗例が適用されるので罪を問われません。
ただし、親族相盗例の対象は法律によって厳格に規定されているため、たとえば婚姻関係を結んでいない内縁関係や事実婚関係には適用されないという点には注意が必要です。
また、同条2項には「親族ではない共犯について、親族相盗例は適用しない」という規定もあります。
たとえば、窃盗事件の犯人が配偶者に売却を依頼したところ、盗品が大量にあったので配偶者が友人に手伝いを依頼したといったケースでは、配偶者には親族相盗例が適用されても、友人は対象外となるので処罰を免れられないのです。 -
(3)盗品等有償処分あっせん罪の刑罰
盗品等有償処分あっせん罪の法定刑は、10年以下の懲役および50万円以下の罰金です。
最大で10年にわたって刑務所に服役しなくてはならないだけでなく、あわせて罰金も徴収されるという意味で、厳しい刑罰が設けられています。
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3、「盗品等関与罪」の種類
刑法第39章に定められている盗品等関与罪には、5つの種類があります。
ここでは、盗品等関与罪のうち、盗品等有償処分あっせん罪を除く4つの犯罪の概要を解説します。
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(1)盗品等無償譲受罪
盗品等を無償で譲り受けた者は、刑法第256条1項の「盗品等無償譲受罪」に問われます。
盗品等であることを知っておきながら譲り受けられた者を罰する犯罪で、法定刑は3年以下の懲役です。
本罪は無償の交付によって盗品等を取得することで成立し、その方法は問いません。
盗品等であることを知っていれば、たとえば法的に正当な手続きを経て「贈与」を受けるなどの方法によって取得しても本罪による処罰を免れる理由にはならないという点には注意が必要です。 -
(2)盗品等運搬罪
盗品等を運搬する行為は、刑法第256条2項の「盗品等運搬罪」が成立します。
運搬行為が罪になるため、有償・無償を問いません。
無報酬だったとしても本罪による処罰の対象になります。
本罪の成立にも、ほかの盗品等関与罪と同じく故意が必要です。
たとえば、盗品を運搬していると知らないタクシーの運転手などが罪に問われることはありません。
一方で、SNSなどを通じて「物を運ぶ仕事で日給10万円」といった募集に釣られて犯行に加担してしまった場合は、報酬額が明らかに過大であり、まっとうなアルバイトなどとは到底考えられないので、未必の故意が認められるとして刑罰を受ける危険が大きいです。
法定刑は10年以下の懲役および50万円以下の罰金です。 -
(3)盗品等保管罪
盗品等を保管する行為は、刑法第256条2項の「盗品等保管罪」にあたります。
本罪も運搬罪と同じで、保管行為そのものが処罰の対象になるため、報酬の有無は問いません。
盗品等であることを知っておきながら、本犯からの委託を受けて保管すれば成立します。
また、保管状態が続く限り本罪は継続するので、たとえば最初は盗品等だと知らなかったとしても、ある段階で盗品等だと知ったうえでさらに保管を続ければ、本罪の成立は免れられません。
法定刑も盗品等運搬罪と同じで、10年以下の懲役および50万円以下の罰金です。 -
(4)盗品等有償譲受罪
盗品等を有償で譲り受けた場合、つまり盗品等だと知ったうえで買い取ったり、自分の物と交換したりといった行為があると、刑法第256条2項の「盗品等有償譲受罪」です。
法定刑は10年以下の懲役および50万円以下の罰金で、無償で譲り受けたときよりも厳しい刑罰が科せられます。
本罪の成立にも故意が必要です。
たとえば、盗品であることを知らずに物を買い取った業者などは罪を問われませんが、すでに盗品である旨の手配を受けているのに買い取った場合は本罪が成立します。
4、盗品等有償処分あっせん罪の容疑で逮捕されたときの正しい対応
以下では、盗品等有償処分あっせん罪やその他の盗品等関与罪の容疑をかけられてしまったときに陥る事態や、その事態を解決するために取るべき対応を解説します。
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(1)警察に逮捕されたあとの流れ
警察に逮捕されると、逮捕の段階で最大72時間、その後に続く勾留の段階で最大20日間、合計すると最大23日間にわたる身柄拘束を受けます。
この期間は警察署内にある留置場に収容されるので、自宅に帰ることも、会社や学校へ行くことも許されません。
さらに勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴に踏み切った場合は、それまで「被疑者」と呼ばれていた立場から「被告人」へと変わります。
被告人になると警察署の留置場から拘置所へと移送されてさらに勾留され、刑事裁判が終わるまで釈放されなくなりえます。
刑事裁判は起訴からおよそ1か月後に開かれ、以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれます。
とくに争いがなければ3か月程度で判決が言い渡され、期限内に異議申し立てをしなければ刑が確定して、執行されます。 -
(2)弁護士に依頼して窃盗事件の被害者との示談交渉を進める
盗品等有償処分あっせん罪は、本犯となる窃盗事件と密接に関係する犯罪です。
つまり、本犯となる窃盗事件の存在を無視していては穏便な解決は期待できません。
盗品等有償処分あっせん事件を穏便に解決したいと望むなら、窃盗事件の被害者との示談交渉を進めるべきでしょう。
窃盗事件の被害者に対して真摯な謝罪と弁済を尽くすことで、警察が逮捕を含めた強制捜査への移行を見送ったり、すでに逮捕されている場合でも検察官が不起訴処分を下して早期釈放が実現したりといった有利な結果を得られる可能性が高まります。
もし検察官が起訴に踏み切って刑事裁判に発展しても、被害者への謝罪と弁済を尽くしたという事実は有利な事情となるので、処分の軽減にもつながるでしょう。 -
(3)無罪の主張には弁護士のサポートが必須
盗品等有償処分あっせん罪をはじめとした盗品等関与罪は、いずれも「盗品等である」という認識がなければ成立しない犯罪です。
しかし、有償処分のあっせんや譲受・運搬・保管といった行為があれば、実際には「盗品等とは知らなかった」としても警察に容疑をかけられてしまうおそれがあります。
もちろん、真実に従えば罪を問われることはないはずですが、警察・検察官・裁判官がその主張を信じてくれず、逮捕や刑罰を受けてしまう可能性があるのです。
無罪を主張するには「知らなかった」と否認するだけでは不十分です。
盗品等であった認識を否定する証拠を積極的に示す必要があります。
法律の知識や刑事事件の経験がない個人では対応が難しいので、弁護士に相談してサポートを受けましょう。
5、まとめ
窃盗などの被害品を買取店や質屋などに売却する行為は「盗品等有償処分あっせん罪」にあたります。
自分自身が盗んだ物ではなくても有償処分をあっせんする行為があれば、逮捕や刑罰を受ける危険があることを認識してください。
盗品等有償処分あっせん罪の容疑をかけられてしまった場合は、本犯となる事件の被害者との示談交渉を進めて積極的に解決を図る必要があります。
また、実際には盗品等であることを知らなかったのに容疑をかけられてしまっているのであれば、無罪を証明するための証拠を集めなくてはなりません。
いずれにしても個人での解決は困難なので、警察に容疑をかけられてしまったときはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、解決を目指すために尽力してサポートします。
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