2019年4月から施行された「勤務間インターバル制度」の努力義務とは?

2020年03月27日
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2019年4月から施行された「勤務間インターバル制度」の努力義務とは?

働き方改革が叫ばれる中、「勤務間インターバル制度」が2019年4月からスタートしたのをご存じでしょうか。あまりテレビなどでも取り上げられていないので、初めて聞いたという方も多いかもしれません。

あまり注目を浴びていない理由は、この制度の導入が「義務」ではなく、「努力義務」にすぎないからです。努力義務である以上、企業に強制するものではなく罰則もないので、インパクトが少ないのでしょう。

ただ、努力義務とはいえ、推奨される内容であることに変わりはないので、勤務間インターバル制度とはどのような制度で、努力義務とはどういうことなのかしっかりと理解しておくことが重要です。
今回は、勤務インターバル制度の概要や企業が導入するメリットなど、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が解説します。

1、勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバルとは、勤務が終了した後、始業までの間に一定時間以上の休息時間を設けるというものです。労働時間を制約するだけでなく、確実に休息時間を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです。

働き方改革の一環として、労働時間等設定改善法が2018年6月に改正され、終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されました(2019年4月1日施行)。


労働時間等設定改善法は、正確には「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」という法律で、その2条1項では、「事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と規定しています。

勤務間インターバル制度は、いくら残業を規制しても、会社を退社していったん家に帰ってシャワーだけを浴びたらすぐに会社に戻るというような働き方をしていたのでは、体を壊し、業務の効率も悪くなるため、それを制限するために考えられた制度です。

「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、2020年までの数値目標として、制度を知らなかった企業割合を20%未満とし、制度の導入企業割合を10%以上とすることが掲げられています。勤務間インターバル制度は、ユニ・チャームや本田技研工業など複数の企業ですでに導入されており、今後の広まりが期待されています。

勤務間インターバル制度を導入した場合、勤務時間は次のようになります。たとえば、勤務時間が9時から18時までの会社でインターバルが11時間の場合、23時まで残業したときは、翌日の始業時間は10時以降でなければならないということです。

注意が必要なのは、勤務間インターバル制度を導入したからといって、残業代を支払わなくてよいということではないということです。法定労働時間は、1日に8時間と定められているので、これを超過した場合には残業手当を支給しなければなりません。仮に、始業時刻と終業時刻の双方を繰り下げる方法を選択し、インターバル時間のために勤務開始時間を1時間遅らせることになった場合、通常の終業時刻から1時間分は残業代を支払う必要はありませんが、8時間を超えた部分に対しては残業代を支払わなければならないということです。

2、努力義務とはどういうことか

勤務間インターバル制度の導入は、労働時間等設定改善法の改正により、2019年4月から事業主の努力義務とされましたが、この「努力義務」とはどういう意味なのでしょうか。

「努力義務」は、法律で「~するよう努めなければならない」あるいは「~について努めるものとする」と規定されます。勤務間インターバル制度でいえば、勤務間インターバル制度を導入するよう努力する義務があるということです。

ただ、努力はしたけれども勤務間インターバル制度を導入できなかったという場合でも、罰則があるわけではありません。努力自体は主観的なもので、明確な基準があるわけではなく、事実上何もしなくても制裁が課されるということはありません。

もっとも、罰則が設けられていないからといって、努力義務規定に違反してよいということではありません。行政官庁から努力義務違反を指摘されたり、監督されたりする可能性はあります。

また、法律上「努力義務」とされているものは、将来的に義務規定に改正される可能性があります。導入と同時に義務規定として罰則を制定すると、対応に混乱を生じるおそれがあるため、導入当初は準備期間として「努力義務」にしておき、一定の周知期間を経た後に義務規定に改正するということがよくあることだからです。そのため、直ちに導入する必要はありませんが、早めに導入できる環境について準備しておくことが望まれます。

3、制度を導入するメリットとは?

勤務間インターバル制度を導入することで企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

  1. (1)退職の防止

    勤務間インターバル制度を導入することで、強制的に労働者に一定の休息を与えることができるため、過重労働による健康被害を防止することができ、病気療養のための休業や体調を壊すことによる退職などを防止することができます。また、長時間労働に嫌気が差していた従業員も労働環境が改善することで退職をとどまることも期待できます。

  2. (2)業務効率の向上

    勤務間インターバル制度を導入すると「24時間働きます」というような働き方ができなくなります。結果的に勤務時間が制限されることになり、その時間内に業務を行わなければならなくなるので業務の効率が高まります。また、残業をすると翌日の勤務開始時間が遅くなるので、その分法定労働時間も後ろにずれることになり、残業代の縮小にもつながります。何より休息をとることにより、リフレッシュできるので、仕事の集中力が増し、生産性も向上します。

  3. (3)採用率の向上

    勤務間インターバル制度を導入していることを公表することで、働き改革の理念に沿った企業であることを対外的にアピールでき、採用の面で有利になります。最近は、ワークライフバランスを重視する方が多いので、この制度を導入していることは採用活動において大きなアピールポイントになるでしょう。勤務間インターバル制度は法律上、努力義務にすぎないので、この制度を導入しているということは「働き方改革」について積極的に取り組んでいる企業と評価され、イメージの向上につながります。

  4. (4)メンタルヘルス対策

    過重労働により過労死に至るまで行かなくても、うつ病になり長期療養が必要になるケースが増えています。勤務間インターバル制度を導入して一定の休息を与えることで、労働者の精神的な負荷を軽減することができ、メンタルヘルス対策としても有効です。

4、導入する方法について

勤務間インターバル制度を導入する場合には、①インターバル時間について検討し、②適用除外を設定するかを検討し、③就業規則を改正する必要があります。

①インターバル時間の設定
インターバルの時間については、法律上、「○時間以上でなければならない」といった制限はありません。だからといって、極端に短い時間では設定する意味がありません。労働者の通勤時間を考慮した上で、生活時間、睡眠時間の確保に十分な時間を設定することが必要となります。インターバル時間は、労使にとって重要な事項なので、労使でしっかり議論して設定することが求められます。

②適用除外を設定するか
勤務間インターバル制度は、今のところ努力義務なので細かい内容は法律で規定されていません。そのため、勤務間インターバル制度を導入した上で、一定の場合には適用を除外することを定めることができます。

たとえば、管理職は対象外にすることや、災害や事故など緊急を要する場合などです。ただ、例外をあまり広く認めてしまうと導入のメリットが失われてしまうので、たとえば、どんな場合でもインターバル時間は最低8時間確保するというように、安易に例外が適用されないよう措置を講じておく必要があります。

③就業規則の改正
インターバル時間を労使間で決め、適用除外の設定について決めたら、それを就業規則に反映しなければなりません。就業規則の作成は、他の規定との整合性を確認しながら過不足なく正確に作成することが必要になるので、弁護士などに作成を依頼することをおすすめします。顧問弁護士がいるような場合には、簡単な内容であれば無料で対応してもらえるところもあると思いますので、確認してみるとよいでしょう。

5、まとめ

少子高齢化によって人手不足が深刻になる中、働き方改革関連法も次々と施行されています。今はワークライフバランスを確保することが求められる時代であり、勤務間インターバル制度は、そのひとつとして、従業員の心身の健康を守り、業務効率を改善することができるという効果が期待できます。

勤務間インターバル制度を導入するにあたっては、労使間でしっかりと議論すると共に、就業規則を改正し、それを従業員に周知しなければなりません。就業規則の内容は労使を共に拘束するので、慎重に作成することが求められます。

今回は勤務間インターバル制度について解説してきましたが、勤務間インターバル制度の導入をはじめ、各種新制度の導入にあたって不安な点がある場合には、ぜひベリーベスト法律事務所 京都オフィスまでご相談ください。弁護士が労使トラブルを見据え、最善のアドバイスをいたします。

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